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【特別企画】触れる喜びを感じさせる純A級プリメイン

“官能美”を体現するラックスマン「L-595A LIMITED」。CDとレコードでその表現力を味わい尽くす

2021/03/22 大橋伸太郎
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■CDとレコードの旨味をどう引き出すか?同一音源で聴き比べ

ファイルウェブ試聴室へ場所を移し、いつもと趣向を変えてソフト寄りのアプローチで本機を聴き直してみようということになり、1990年代から現在まで愛着ある名盤の数々をCD(SACD)とアナログレコードの両方でL-595A LIMITEDにゆだねてみることにした。SACDプレーヤーは同社のD-10X、アナログプレーヤーも同じくPD-171A、スピーカーはB&Wの802 D3を組み合わせた。

LUXMANのアナログプレーヤー「PD-171A」と、CDプレーヤー「D-10X」というラックスマンコンポーネントで試聴

昨年発売されたばかりの新録から始めよう。カラブリア・フォーティの『プレリュード・トゥ・ア・キス』。フォーティの声質はよく喩えに出る「シルクの光沢」というより番手の高い最上質の綿地の風合いだ。より皮膚感覚に訴えるのである。セクシーといっていい。本作の録音は秀逸。深い奥行きの感じられる音場で仄暗い色彩感のバックにフォーティの歌が華麗に花開く。

カラブリア・フォーティ『プレリュード・トゥ・キス』

CDはSNに優れくっきりと立体的な音場だ。ボーカルの肌理の表現力が問われるが、きめ細やかで肉声の温かさ、潤いも十分だ。オンマイク録音のピアノの倍音の伸びもまばゆく美しい。一方のLP。音色が明るい。ボーカルの質感とニュアンスはCD以上。ディクション(口跡)が濡れて言葉に情感が増している。フォルテッシモに張りがあり声帯の筋肉の収縮が見える近しさだ。終曲「アイム・ホーム」のピアノの倍音はきらびやかでペダル操作の音の持続も豊かで力強い。CDのミキシングルームに立ち会うリアリズムに対し、LPからは色彩感に富み心地よい音楽が聴こえてくる。

次に、一気に1992年へとワープ。L-570の大ヒットを受け本機の源流の一台L-570Z'sが発売されたのがこの年。ジェニファー・ウォーンズの名作『ザ・ハンター』をL-595A LIMITEDで聴いてみよう。本作のシンセサイザーベースの重低音は衝撃的だった。ベースプレーヤーはみな失職するのではないかと囁かれたくらい。今では笑い話だが。地声の強い女声歌手はファルセットにボイスチェンジした時にえてして声量が落ちるのだが、この人の場合それが弱点にならず、歌の表情や情感になるのが強み。

ジェニファー・ヴォーンズ『ザ・ハンター』

SACDは、ノイズフロアが非常に低く音場が澄み切ってパーカッションが切れ味鋭く、パルシブな入力にも強いアンプであることがわかる。重量感あるスネアドラム打撃のタイトな立ち上がりと収束が小気味よい。音色は意外に明るく温かく純A級の本領。雑味、つっぱった金属的な響きがなくしなやかに歌い、802D3を掌中にしている。終曲の浮遊感、打ち込みのドラムの重低音は試聴室の大気を揺さぶる。30W+30W(8Ω)純A級にしてこのパワーハンドリングに感嘆。

LPはSACDにくらべやや帯域が狭く感じる反面、声のしなやかさ、歌唱の綾、陰影感が増す。ストリングスの倍音、響きのふくらみも美しい。アフロナンバーのパーカッションの響きの明解さ、タイトル曲のドラムの切れ味、声の透明感が明澄さを保ち、アナログ再生だから、というエクスキューズ混じりの甘い滲んだ響きにならない。終曲は、歌い手の息使いのかかる立体的でふくらみのあるボーカル表現に溜息が出る。

3枚目は、2002年の全世界を席巻し魅了したベストセラー、ノラ・ジョーンズの『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』。余談だが、拙宅のすぐ近くにレトロな深夜レストランがあり、流れている音楽といったらビング・クロスビー、シナトラ、エラ、一番新しいところでカーペンターズといった具合。それがある夜、「ドント・ノウ・ホワイ」が天井の油で煤けたスピーカーから聴こえてきた。このアルバムの音楽がいかにメインストリームなのかわかる。ノラ・ジョーンズの音楽のバックボーンは多彩だが基本的にカントリーの声と歌唱法である。

ノラ・ジョーンズ『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』

SACDでL-595A LIMITEDのLINE STRAIGHTをオンにしてみよう。この機能はメーカーの考え方の差が現れオン/オフが僅差の場合もあるが、同機は変化幅が大きく、オンで響きが整理され歌手の口元が近くなり息が暖まって甘く匂いたつ。アナログでも有効。声の量感が増しやや重心の下がった音場で発声が一層近い。擦過音の発音が仄暗く魅力的。演奏の立体感が増し歌の語りが際立つ。SACDに比べローエンドが伸び低音楽器の存在感が増し歌の切ない情感が対比的に引き立ち、アルバムの勝因である演奏アレンジの「引き算の美学」が際立つ。声の強弱、シャウトに力が籠もりステージサイトでノラをみつめる臨場感。

男性ボーカルを聴いてみよう。昨年人気を博したジェームス・テイラーの『アメリカン・スタンダード』。CDは、若き日と変わらないテイラーの明るいテナーボイスとヒューマンで豪華な演奏がアンプの明るい音質と一致、からりと澄み渡った色彩感が聴き手を酔わせる。ノイズが極小でアコースティック楽器の音色がいささかも損なわれず色とりどりに開花。年輪を加えた肉声の縮緬状の質感を中心に体温に染まった暖色系の音場がうるおいをもって広がる。デジタルメディアの硬さが微塵もないのは本機の真骨頂。

ジェームズ・テイラー『アメリカン・スタンダード』

LPは、音場の密度と厚みでCDに優る。重心が下がりどっしりした歌と演奏が聴き手に迫る。フィドルの艶っぽさ、アコギの瑞々しさ、アコースティックベースの重量感に最新録音のアナログ最前線の魅力。解像感はSACD、LPは国民歌手ジェームス・テイラーの真髄を聴き手の心に刻みつける。

■無観客で開催された歴史的なニューイヤー・コンサートも鮮度高く再現

ここからクラシックを聴いてみよう。アンナ・ネトレプコの『ヴェリズモ』。2016年の録音だ。ネトレプコは声楽的に完璧、一点の曇りもない強靭かつ玲瓏な声で世界中のオペラ劇場を制する現代きってのソプラノリリコスピントだ。しかしこのアンプでCDを聴くとその声は冷たく硬くない。絶叫になっても響きが潰れない。つねに生々しい肉体感があって歌にヒューマンな温度感が滲む。一方ソットヴォーチェは本機のSNが発揮され静寂の中ひそやかだが甘美。

アンナ・ネトレプコ『ヴェリズモ』

LPは、ビブラートの豊麗さ、倍音の伸び、低音の仄暗い美が圧巻だ。SNはCDだが、LPは楽音のふくらみ、歌声の肉体性、オケのクレッシェンドの猛々しい高まりと音場に漲る生命感が陶酔的。これがイタリアオペラというものだ。ソリストのゆるぎない中央定位もみごと。内蔵フォノイコの優秀性を裏付ける。

ボーカルはこれくらいにしてL-595A LIMITEDで器楽曲を聴き比べてみよう。マリア・ジョアン・ピリスの『ショパン 夜想曲全集』1996年の録音だ。CDは解像感に優れアリコート(共鳴弦)倍音がまぶしい白銀の美音。LPはCDより内省的。低音部がさざなみのように聴き手に打ち寄せ、高音域の一音一音に生命を吹き込まれ光輝をまとって転がっていく実在感がある。ペダル操作時の足音等暗騒音の重低音も印象的だ。

マリア・ジョアン・ピリス『ショパン ノクターン全集』

最後に『ニューイヤー・コンサート2021』のCDとLPで締め括ろう。パンデミック下、長い歴史で初めて無観客開催されたウィーン・フィルの新年ルーティン。ストリーミングが先行発売されCD(二枚組)/LP(三枚組)遅れてリリースされたが、その音質は非常に興味深いものだ。聴衆という膨大な質量の吸音体がムジークフェラインザールからそっくり消えたのである。リハーサル(ゲネプロ)の録音と同じだが、それは過去に馴染んだウィーン・フィルとムジークフェラインの音ではない。楽音の動きにスピード感があり、響きが明澄で鮮度が高い。この歴史的事件をL-595A LIMITEDの解像力と鮮度、色付きのない再現性が音楽の体験として味合わせる。

リッカルド・ムーティ指揮、ウィーン・フィル『ニューイヤー・コンサート2021』

L-595A LIMITEDの描く音楽には他のアンプで味わえない官能美がある。7種のCD/LPを聴いている間、入力ソースの切り替えやボリュームのアップダウンに付属のリモコンを使うことはなかった。本体が間近にあるせいではない。L-595A LIMITEDのプッシュスイッチやノブに触れることに喜びがあるせいである。

性能と音質に優れたオーディオ製品は日本にも多いが、音質に加え存在そのものに美を感じさせるものは少ない。98万円/税抜(1,078,000円/税込)という価格は決して安くはないが、本機が唯一無二のアンプであることを考えれば価値ある投資である。ましてや、国内専用300台限定生産なのだから。

(提供:ラックスマン)

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