【特別企画】アンドレアス・ホフマン氏インタビュー

真空管アンプの生けるレジェンド。ドイツの名門“オクターブ”創業者が語る「Jubilee 300B」の真髄

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石田善之

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2021年04月15日
オーディオ界の生けるレジェンドのひとり、ドイツのオクターブの創業者兼技術者・アンドレアス・ホフマン氏が、オクターブのフラグシップ・パワーアンプ「Jubilee 300B」について語った記録をここにお届けしたい(来日インタビューは2019年12月)。

「Jubilee 300B」は、直熱三極管300Bの特質を最大限に発揮させたシングルエンドAクラス増幅アンプである。5年の歳月をかけて開発したというアンドレアス氏の思いに、石田善之氏が迫った。


オクターブ創業者で代表を務めながら現役で開発を行っているアンドレアス・ホフマン氏

■出力は30W、回路構成がシンプルなシングルエンド

ドイツのオクターブは個性豊かな管球アンプで知られるメーカーである。特にハイエンド・オーディオの世界で、常に目が離せない存在である。

ブランドの確立は1986年、30年以上前に遡る。その創立者であり、技術者であり、音質面を含む全ての総責任者、アンドレアス・ホフマン氏に、フラグシップとなる最新作「Jubilee 300B」の開発に当たってのお話を伺った。

オクターブ モノラルパワーアンプ「Jubilee 300B」 9,350,000円 (税込/ペア)※受注生産

まずは概要を説明しておこう。背丈は66p、重量は1台あたり60s、いわゆるタワー型と呼ぶ大型モノラルパワーアンプである。投じられた物量とそれにまつわる技術は、さすが現代の粋を集めたフラグシップにふさわしいが、パワーは30Wと決して大きくない。

しかも信号の回路そのものも非常にシンプルである。出力管はもちろん300Bで、しかもシングルエンドと最も基本的な構成だ。

300B1本では約10Wのパワーが得られる。これをいかに現代仕様、つまり、今日の決して能率が高くないスピーカーシステムとの組み合わせまでカバーするべく、最大30Wの出力が得られるよう、オクターブオリジナルの回路設計によって3本のパワーチューブによる間接的並列作動型のアンプとして設計されている。

数々の独自の技術が駆使されているが、中でも見逃せないのは、この300Bのヒーター(フィラ
メント)を7Hz/5Vで点火することだ。また管球アンプの最終的な音質を決定づける出力トランスは、実はここがオクターブのアンプ最大の秘密なのだが、今回もPMZコアを用いた新設計のトランスである。ここが魅力的だ。

オクターブはこれまでスピーカー出力は4Ωも8Ωも全てをカバーするべく、トランスの二次側にタップを設けないタイプを採用してきたが、今回は4Ωと8Ωそれぞれに独立させた新設計としている。


背面。入力はRCAとXLRに対応し、切り替えのつまみを装備。スピーカー出力は4Ω、 8Ωに対応
増幅用の真空管はECC82の3極管で1段、その後にEF800のドライバー段からなるトータルゲイン約20dBのノンNFBの回路構成、また300Bに対してはバイアス量を3段階に調整することにより、最大出力をコントロールする手法が採られている。


上部には真空管のバイアス調整ができるディスプレイとセレクターを装備
真空管以外にも多くの半導体が使われているが、電源の安定化や保護回路用であり、300Bの能力を最大限に活かす環境を整えるための万全の配慮がなされている。

入力はRCAが基本だが、XLRバランスに対しては半導体が用いられ、RCAからであれば全て信号の流れはシンプルな管球式となる。また大音量再生ファンに対してはバイアンプで対応する。


内部も整然とレイアウトされている
■大音量でなくても十分な情報量を感じさせるように

「ジュビリーという名前は何か記念という意味もあったのですか?」と尋ねたところ、「特に何周年記念ということではなく、いくつかの初めての試みを交え、オクターブのハイエンドとしてこれまでのJubilee MonoやJubilee Preなどと同様のハイエンド製品、ということである」という。

「本機の構想や、300Bを用いるという発想は、いつ頃からスタートしたのですか?」という問いに対しては、「このアンプを作るまでに5年の歳月を費やしている」という。

「これまでのプッシュプルで効率高く大出力を得ようという考え方ではなく、パワーを抑えても信号に対してはより正確で緻密な再生能力を得るために、シングルエンドを選択した。プッシュプルでは位相反転を伴うため、パーフェクトな位相管理はなかなか難しい。であればシンプルなシングルエンドとし、さらにノンNFB、とこれまでとは違う能力を追求した。当初は845やさらに大型で出力も得られる211の使用も考えたが、211はどうしても電圧が高くなり、周辺パーツの選択が限定される。また安全規格上からも難しい。845も実際に試してみたが、音質的に300Bが優れているという結論に至った」という。

「ヒーター点火のためのAC7Hzということに至るまでの経緯は?」という質問には、「50/60HzのACでは、さまざまな工夫をこらしてはみたものの、どうしてもハムノイズが感じられてしまう。DCならノイズは解決するものの、真空管そのものの動作で電子の流れがマイナス方向に多くなるようで、300Bの正確なバランスが取りにくいし、使うコンデンサーが音質に大きく影響することなど問題があって、やはりAC点火にこだわった。

当初、20kHzあるいはそれ以上の高周波も考えたが、これではまた別のノイズ対策が必要になってしまい決して得策ではない。であれば低周波で、当初15Hzからスタートしたが、高調波成分がやはりノイズとして感じられてしまう。10Hzに下げてみてもまだ感じてしまう。高調波は3倍くらいまで感じてしまうので、7Hzまで下げてみることで、ノイズの問題は解決した」という。

「この7Hzという周波数はどのように作り上げるのですか?」という質問には、「オペアンプを7個用いることで、正確なサイン波の7Hzを作ることができる」という。


生産工程を説明するアンドレアス氏(右)と筆者(左)
■専任の職人が手作りするオクターブのトランス

続いて、オクターブのトランスについて伺った。トランスは「現在も専任の職人が手作りで巻き線作業を行い、1枚ずつコアの挿入を行っている」という。

アンプメーカーとしての現在のオクターブの前身は、アンドレアス氏の父により1968年にスタートしたホフマントランスで、トランスに関しては高いノウハウを持つ。

まず、「PMZコア」と呼ぶ構造から伺った。ギャップレスであり、EI型のようにEとIが面でつき合わされているのではなく、1枚おきにギャップが生じないように積み重ねられていくためにトランスとしての効率が断然高まる。

「トロイダルもギャップレスではないですか?」と伺ったところ、「確かにトロイダルはギャップがなく効率も高いが、巻き線に1回1回コアをくぐり抜けるという特殊な技術が必要で、巻き線に対しての自由度がない。きれいに精密に整列させ巻き重ねることが難しい。パワートランスであれば可能性はあるが、アウトプットには向かない」ということだった。

今回4Ω、8Ωともにタップつきということになったが、この件に関して伺うと、「やはり300Bの1本あたり10Wという小出力では十分に効率を高めなければならない。4Ω出力に8Ωのスピーカー負荷となると、出力に対しての低域特性が不利になることに加え、ダンピングファクターも高く維持できないことになるため、今回タップつきとした」という。

「新開発されたものは、従来よりターン数を少なくして巻線径も太くし、ノンNFBアンプとしてのダンピングファクターも高くし、低域特性も十分なものとし、極めて優秀なトランスが誕生したと思っている」とのことだった。

最後の質問として、「これまでのオクターブの音と比べると、今回はかなり方向を変えて再生能力を高めたのではないですか?」と尋ねたところ、「大音量でなくても十分な情報を感じられる、そういう音の方向を目指し、音楽愛好家をより意識して作り上げた」という。

「大音量、ハイファイ志向のユーザーには、従来から使っているアンプをウーファー側に用い、バイアンプとして本機を活かすという使い方をお薦めしたい」という。


色の仕上げはアルミナムシルバー (上記写真)とアルミナムブラックの2色
つまりウーファー用にもう1台のハイパワーアンプを組み合わせ、本機には中域〜高域を受け持たせることにより、本機なりの音質を得ながらハイパワーにも対応させようというのである。

また300Bはスロヴァキア製のJJとロシア生産のエレクトロハーモニックスの2社の300Bからユーザー自身が選択ができる。JJは中域の滑らかさや音の厚み感を得意とし、エレハモは中域の明るさと張り出し感を得意とするようで、この辺りはユーザーの好みに任せたいということだった。

ピエガのスピーカーと組み合わせた試聴レポート

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