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【特別企画】“超軽量”のアンプ一体型プレーヤー

LINN10年の進化を継承、さらに劇的変化を遂げた「MAJIK DSM/4」を徹底レビュー

公開日 2020/09/03 06:30 山之内 正
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■トゥイーターを一新したディナウディオ。リッチで陰影の深い表現を聴かせる

次に聴いたディナウディオのContour 20iは発表からまもない新製品で、筆者も今回初めて聴くスピーカーである。生まれ変わったContour i シリーズのなかで一番コンパクトな2ウェイブックシェルフ型スピーカーで、新開発のトゥイーターEsoter 2i を載せていることが目を引く。ダンパーを改良したウーファーも新開発で、Contour 20iは18cm口径のユニットを積む。

DYNAUDIO「Contour 20i」(700,000円/ペア税抜)

専用スタンドに載せたContour 20iはMinima Amator IIに比べるとふた回りくらい大きく感じるが、深みのあるグレーの仕上げがMAJIK DSM/4のブラック仕上げとよく調和し、落ち着いた雰囲気のインテリアに似合いそうだ。

伸びやかなベースを中心にサウンドの重心が一気に下がり、ソナス・ファベールからディナウディオに変えて音の印象はガラリと変わった。艶や輝きよりも表情の深みや低音域のふくよかさで聴き手を引き込む力があり、同じ歌声を聴いても表情に落ち着きが出てくる。イアン・ボストリッジが歌うベートーヴェンの歌曲など、まさにこのスピーカーで聴きたいと思わせる録音がいくつも思い浮かんだ。ボストリッジの高音の潤いとなめらかさは新世代トゥイーターの素性の良さを物語っている。

リッチで陰影の深いヴォーカルもいいが、このスピーカーで最も感心したのはLPレコードで聴いたジャズのライブ音源だ。サックスの旋律を太めの筆致で描きつつ、リズム楽器はベースを中心に過剰な重さがなく、速めのテンポ感で急き立てるように前に進む。音の実体感が強いだけでなく、プレーヤー同士がかわす息遣いやインプロヴィゼーションの気迫など、形にならない音の描写にも説得力があること。それがこのスピーカーの新たな魅力と言って良いだろう。

微妙とはいえ音楽表現のなかでは価値の高い情報で、そこが埋もれてしまうと臨場感が一気に後退してしまう。MAJIK DSM/4のフォノステージはそうした重要なディテールを見事に引き出している。

■B&Wでは音の情報量が多く、細部までクリアに見通せる

最後に聴いたB&Wの805D3はあらためて紹介する必要のない銘機であり、今回用意したスピーカー群のなかでは最も高価格な製品である。MAJIK DSM/4と組み合わせるとスタンド込みで150万円を超え、クラスが一つ上がる。とはいえけっして鳴らしにくいスピーカーではないし、MAJIK DSM/4のアンプ性能を検証するには恰好のモデルと言っていいだろう。

B&W「805 D3」(920,000円/ピアノブラック/ペア税抜)

805D3に変えた途端に気付くのは音の情報量が多いことだ。編成が大きくなるほど、音が埋もれず細部までクリアに浮かび上がり、その結果として音楽のダイナミクスレンジが大きく感じられる。今回聴いたなかではゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団のショスタコーヴィチがその典型的な例だ。第1楽章前半、楽器が次第に増えて和音とリズムが複雑さを増していくなか、DSD音源に記録された響きを混濁なく緻密に再現し、クレッシェンドの頂点でも全体の響きが飽和する気配を見せない。

LINNの操作アプリから楽曲名やアーティストも確認できる

MAJIK DSM/4のクラスDアンプは、力で低音を押し出すような方向ではなく、低音から高音まで緻密に噛み合わせながら、縦を精密に揃えることで一気に大音圧を引き出すような鳴らし方を得意とするように感じる。アンプだけでなく、DACとその周辺回路のジッター低減策も功を奏しているはずだが、いずれにしても時間軸方向の情報を精度高く再現していることはたしかで、その点でも上位機種に迫る実力を秘めていると感じた。

レコード再生ではジェニファー・ウォーンズのヴォーカルからほどよい潤いを引き出し、SACDやハイレゾ音源とも微妙に異なる柔らかい歌声をじっくり楽しむことができた。LP12とADIKTの組み合わせはこれまで何度か聴いたことがあり、一つはそこに理由がありそうだが、MAJIK DSM/4と805D3の相性の良さを垣間見たようにも思える。歪の少ない信号を入力すると、800シリーズのダイアモンドトゥイーターが本来のなめらかな音を奏でるのだ。

■LINN10年の進化が、エントリーグレードにも確実に受け継がれている

ベストセラーが揃うターンテーブルやスピーカーの例を上げるまでもなく、MAJIKはリンの屋台骨を支える主力の製品群だ。MAJIK DSMもその役割を担う重要な製品だが、発売から年数を経るなかで大きなモデルチェンジが少なく、上位機種に比べて相対的に存在感が薄くなり始めていたきらいがある。

今回のモデルチェンジはその懸念を吹き飛ばす大胆なアプローチであり、再びこのシリーズに注目を引き寄せる効果が期待できる。ほぼ一日かけてじっくり聴いたなかで一番強く印象に残ったのは、リンのハイファイ製品が経験してきたこの10年間の進化の成果が、エントリーグレードのMAJIKにも確実に受け継がれていることだ。特に、最前線に位置する複数のスピーカーと組み合わせたとき、それぞれの個性を正確に鳴らし分けていたことには大いに感心させられた。

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