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【特別企画】“超軽量”のアンプ一体型プレーヤー

LINN10年の進化を継承、さらに劇的変化を遂げた「MAJIK DSM/4」を徹底レビュー

2020/09/03 山之内 正
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MAJIK DSMは上位機種と同様にスペース・オプティマイゼーション機能を利用して定在波の補正ができる。試聴室の各種データとスピーカーの位置を入力してリンのサーバーに送信し、同機能をオンにして再生すると、特定の音域でわずかに残っていた低音のにじみが消え、動きの良さが目に見えて改善された。強めのピークが出やすい部屋では絶大な効果を発揮するので、セッティング位置が決まったらぜひ試してみるべきだ。

LINNのMAJIK 140 SEはペア350,000円(税抜)。パッシブタイプのため、EXAKTには対応しないMAJIK DSM/4とベストマッチな組み合わせとも言える

このMAJIK 140 SE、実はリンのベストセラー機の140を金属製ベースで強化したバージョンで、低音がブレないのはそこにも理由があるのだ。2Kアレイが受け持つ高域と16cmウーファーの立ち上がりや音色がよく揃っていることもあって、ベース、ピアノ、ヴォーカルなど幅広い音域で発音が自然に揃う。中高域は力みや突っ張り感がなく、ジェーン・モンハイトの声は抜けの良さと包み込むような広がりが両立。高い音域も含めて神経質なところはないが、古楽器によるバロックアンサンブルは発音の速さにすぐ気付いた。

MAJIK 140 SEでは、MAJIK 140の足元を強化し、金属製スタンドが標準装備されている

2つのMAJIKの相性が良いことは、LPレコードで聴いたジェニファー・ウォーンズのヴォーカルでも明らかだ。声の質感が素直で、特に中音域から高音域にかけてのなめらかな感触が優れている。アコースティックギターは発音が速く鮮度が高いので、柔らかいヴォーカルとの対比がいっそう鮮やかに浮かび上がる。ベースの音色は緩めだが動きに余分な重さはなく、声やピアノにかぶらず、もたつきもない。今回組み合わせたターンテーブルもMAJIKグレードのLP12で、カートリッジはADIKT。いずれもリンとしてはエントリーグレードながら、ナチュラルで誇張のない音調にリンらしさが感じられた。

アナログ入力のライン/フォノの切り替えはPCのkonfigから行う

MAJIK DSMのフォノステージは前段がアナログ、後段がデジタルのハイブリッド構成で、フィルターの偏差や歪など、アナログ回路を上回る物理特性を実現している。URIKA IIとは異なるMM専用設計で、機能面でも簡略化しているようだが、ハイブリッド構成の利点はけっして小さくないと感じる。それは、『ジャズ・アット・ザ・ポーンショップ』のサックスの実在感、ノイズに埋もれず現場の空気を伝える臨場感など、この録音の聴きどころを漏らさず伝えてくることからも明らかだ。

アナログ盤「Jazz at the Pawnshop」(アルネ・ドムネルス)

■TVと組み合わせて密度の高いリビングシアターも実現可能!

次に55型のOLED TVとUltra HD Blu-rayプレーヤー、パナソニック「DP-UB9000」を用意し、映画やライブなど映像コンテンツを再生した。スピーカーはMAJIK 140 SEをそのまま組み合わせている。

ARC対応のHDMI入力を搭載しているため、リビングシアターユースとしても活用できる

HDMI入力を選び、ジョン・ウィリアムズ指揮ウィーン・フィルのライブを再生する。リニアPCMのステレオ音声(96kHz/24bit)ながら音場はスピーカーの外側まで広がり、カメラが捉えたムジークフェラインザールの豊かな余韻が部屋を満たす。もちろん音場の密度はサラウンド再生ほど高くないが、オーケストラが自然な大きさにまとまるのはステレオ再生ならでは。ステージとの距離の近さを実感できる良さもあり、演奏にすぐ入り込むことができた。ムターの独奏ヴァイオリンは楽器イメージがピンポイントに引き締まり、オーケストラとのバランスに違和感はない。55型の画面ではちょうどよいバランスで画と音の一体感が得られる。

『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』(ジョン・ウィリアムズ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)。Blu-rayも同梱される

MAJIK DSMとフロア型スピーカーの組み合わせは映画再生でも予想外の効果を発揮した。ステレオ再生なので音の移動感は限定されるとはいえ、特にMAJIK 140 SEはサブウーファー音域も含めてエネルギー密度が高く、効果音の重心が一気に下がるのだ。『バリー・シール アメリカをはめた男』の飛行シーンを再生すると、滑空時のエンジン音の変化を含め、サウンドエフェクトのリアリティが非常に高いことに気付く。付帯音が乗らないのでセリフに誇張がないし、効果音と音楽が重なっても両者が混濁しないなど、ハイファイシステムならではの長所も少なくない。

忠実度の高いステレオシステムを映像機器と組み合わせるのは、リビングルームをホームシアターに進化させる最短の手法の一つなのに、リン以外の多くのオーディオメーカーはHDMI対応に二の足を踏んでいる。AVアンプとの差別化など様々な理由がありそうだが、MAJIK DSMの登場をきっかけにして、今後は少しずつ状況が好転するかもしれない。

■ソナスのブックシェルフとの組み合わせではヴォーカルの表現力が際立つ

ここからはスピーカーをブックシェルフ型に切り替えてハイレゾ音源とLPを聴いていく。いずれも欧州を代表するブランドの人気モデルを3機種用意し、MAJIK DSM/4がそれぞれのスピーカーの個性をどこまで引き出すことができるのか、探ってみた。

MAJIK DSM/4のアンプ性能を試すため、3つの人気スピーカーを組み合わせてテストした

最初に聴いたソナス・ファベールの「Minima Amator II」は、往年のベストセラーを最新技術でモディファイした話題の小型スピーカーである。兄貴分のElecta Amator IIIに比べてひと回りコンパクトだが、音楽的な表現力の豊かさでは引けを取らない。今回はOlympica Novaシリーズ用のスタンドに載せて試聴した。

ソナス・ファベール「Minima Amator II」(550,000円/ペア税抜)

一般的なコンポーネントよりもひと回り小さいサイズ感がMAJIK DSM/4とよく似ていて、細部まで隙のないデザインのアプローチにも共通点を感じる。発売後半年ほどだが、筆者はこのスピーカーを何度か聴いていて、そのたびに新しい魅力に気づかされてきた。リンの製品との組み合わせは今回が初めてだが、まず引き込まれたのは予想通りヴォーカルの表情の豊かさだった。ジェーン・モンハイトとウィリアムス浩子は言葉の発音の素直さと声の感触の生々しさが際立ち、特に高音部は温度感が高めで密度の高い音色に魅了される。

声の密度の高さではダニーデン・コンソートのヘンデル『エイシスとガラテア』も双璧をなす。この録音の特徴であるオーケストラの澄んだ響きはそのまま残しながら、独唱陣の高音の艷やかな輝きが際立ち、一歩前に出て力強い声を発する。その浸透力の強さは小さめの音量で聴いても失われず、二重唱ではハーモニーの密度の高さに感心させられた。MAJIK DSM/4は再生音に余分な強調がないので、重唱や合唱の和音を混濁なく再現し、転調を重ねても声の厚みが不自然に変化しないのだ。余韻の描写も実に繊細で、教会録音ならではの長めの滞空時間と自然な減衰を忠実に引き出すことができた。

ヘンデル『エイシスとガラテア』(ダニーデン・コンソート)88.2kHz/24bit

LP再生ではジェニファー・ウォーンズのヴォーカルからしっとりとした感触を引き出し、歯切れのよいアコースティックギターやパーカッションとのコントラストに抜群の説得力がある。ウォームで深みのある声のタッチは、LP12とMinima Amator IIの外観から受ける印象とも重なり、あえてレコードで聴く楽しみが倍加した。

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