HOME > レビュー > いまAmphionが世界から注目を集める理由とは?中核スピーカー「Argon3S」の魅力を解説

【特別企画】CEOアンシ・へヴォネン氏の理念を体現

いまAmphionが世界から注目を集める理由とは?中核スピーカー「Argon3S」の魅力を解説

2020/08/03 鈴木 裕
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
いま、数あるスピーカーブランドのなかでも、そのサウンドで世界的に注目を集めているのが、北欧・フィンランドのスピーカーブランド、Amphion(アンフィオン)だ。1998年に創業し、20年あまりの歴史を持つ同社は、いかにしてその評価を勝ち取ったのか? 今回は、とりわけAmphionらしさを凝縮した中核シリーズArgonのブックシェルフモデル「Argon3S」にフォーカス。CEOであるアンシ・へヴォネン氏へのインタビューも経験した鈴木 裕氏が、このAmphionの名作の魅力を解説する。


どんなシチュエーションでも「音楽」を楽しめるスピーカー

アンフィオンはフィンランドのスピーカーメーカーで、1998年に設立されている。そもそもはコンシューマー用、つまりホームオーディオ用でスタートしたメーカーだ。

以前、CEOのアンシ・へヴォネン氏にインタビューしたことがあるが、印象的だったのはフィンランドが女性を大事にする国ということで、具体的な例としては100年くらい前からすでに女性に投票権を与えていたという。そういう前提もあって「本当に幸せなオーディオファイルを作るためには、奥様も幸せでなければいけない」と語っていたことだ。

AmphionのCEOであるアンシ・へヴォネン氏。「本当に幸せなオーディオファイルを作るためには、奥様も幸せでなければいけない」など、音楽を楽しむための確固たる哲学の元、同社のスピーカーは生み出されている

その意味のひとつはスピーカーと向かい合って聴くだけでなく、リビングのソファで寛ぎながら、あるいはキッチンで料理をしながらといったシチュエーションでも、浸透力の高い音によって音楽を楽しめるようにすることが大事と語っていた。

そういうことを実現できる技術力を持ったメーカーでもある。実はアンフィオンのスピーカーはプロ向けモデルもあり、レコーディングスタジオのモニタースピーカーとしての普及が早かったのだ。正確な情報量と長時間の作業でも聴き疲れのしないトーン。これらを持っているからだろう。

「聴覚によってまるで別の空間に行く感覚」を大事に

プロユースにも対応する技術を持ちつつ、エモーショナルな表現力を目指しているスピーカー作り。そうやって展開してきたラインアップの中で、コンシューマー用としてすでに高い評価を獲得しているのがブックシェルフの「Argon3S」だ。

「Argon3S」(ブラック)。極めてシンプルなデザインもAmphionスピーカーの特徴だ

リアにパッシブラジエーターを装備する2ウェイ。ドライバーユニットはSEAS社のものを採用するが、さすがにさまざまなポイントに技術力の高さを感じさせる。まず、トゥイーターは25mm径で材質はチタン。独自形状のウェーブガイドを備えている。ウーファーは180mm径で、ダイアフラムはアルミニウム。クロスオーバーは1.6kHz。このふたつのドライバーユニットは、前後方向のボイスコイルの位置が揃えられていて、シンプルなネットワークと相まって位相の合った再生を実現できているという。

Amphionのスピーカーで採用される端子は、アルジェント・オーディオ製。そのすぐ上にはトレブルを1dBブーストするスイッチが装備されるなど、置き場所による微調整も可能となっている

このあたりからすると、ネットワークのスロープは一次(1オクターブあたり-6dB)かもしれない。このクロスオーバー周波数についてヘヴォネン氏は「私が音楽を聴く時に一番楽しみにしているのは、その聴覚によってまるで別の空間に連れていってくれるような感覚です。ただ、オーディオの展示会に行くと、2kHz〜5kHzといった本来耳にとって敏感な帯域で、パッシブのネットワークでクロスさせる部分の音圧(音の存在感)が高すぎるスピーカーが多いと感じています。これでは空間的な情報が再現しづらいのではないかと思います。オールドスクールなオーディオファイルの方々は、立体ではなく壁のような平面の情報での聴き方に慣れていると、私は考えています」と語っている。

公称インピーダンスは8Ω、能率は87dB。12kgという質量から、エンクロージャーの内部もしっかりとした補強がなされた丈夫な造りなのがうかがえる。

ホワイト、ウォールナットといったエンクロージャーの色のほかに、サランネットの色もさまざまな色から選ぶことができる。なおAmphionでは、リスニングの際はサランネットをつけたまま聴くことを推奨しており、取り外しができない構造となっている

印象的な空間表現力、音楽の醍醐味を鳴らす

テストは本誌試聴室で行った。エレクトロニクスはアキュフェーズで、「DP-750」「C-3850」「M-6200」という組み合わせ。聴きだしてまず感じるのは、トゥイーターとウーファーの繋がりの良さ、シームレスさだ。あるいは、ヘヴォネン氏が言っていた通り、空間表現力の高さが印象的だ。

前後左右奥行きが出るといったこともあるが、音像の間にきちんと空間があってサウンドステージが伸びやかに展開している。このあたり、クロスの周波数だけでなくトゥイーターのウェーブガイドも効いているのだろう。パッシブラジエーターからの低音も違和感なく音に溶け込んでいる。

低音の感じはテスト環境ではやや締まっていて、レンジとしては30Hz台の後半あたりまで。以前、イベントでオーロラサウンドの真空管のパワーアンプ「PADA-300N」で鳴らした時には、実に鳴りっぷりのいい、太い低音を聴かせてくれていたので、アンプの音を素直に反映するトランスデューサーではある。

音色感としては色づけの少ないものだが、特に声の帯域がいい。若干温かめというか、竹内まりややエリック・クラプトンのヴォーカルを聴くと、日本酒のお燗で言えば人肌というか、なんともヒューマンな感じが出てくる。大編成のオーケトスラではボリュームを上げるごとにスケール感が高まり、かなりの大音量でも歪みっぽくなったり、音像のニジミを感じさせない。

こちらから聴きにいくと音を分解する力も強くて情報量自体は多いのだが、特徴的なのはそうしたものを分析的に冷静に聴かせるのではなく、音楽の醍醐味を持ってダイナミックに鳴らしてくる方向性であることだ。「楽しい」「激しい」「哀しい」「深みがある」といった音楽の情緒を、そこにスピーカーがないように感じさせてくれる黒子になれる存在。音量を絞っても、浸透力高く、ナチュラルに耳に入ってくるトーン。このあたり、同価格帯のスピーカーと比較しても大きな魅力に感じる。

ヘヴォネン氏がスピーカーを作る上で一番大事なことはという問いに、「情感そのものがいかに伝わるか」ということを挙げていたが、まさにその言葉通りのチャーミングなスピーカーと思う。





Argon3S「Amphion」
スピーカーシステム
¥314,000/ペア・税抜(ブラック、ホワイト)、¥342,000/ペア・税抜(ウォールナット)
【Specifications】
●型式:2ウェイ、パッシブラジエーター●トゥイーター:25mmチタニウム●ミッド/ウーファー:180mmアルミニウム●クロスオーバー周波数:1.6kHz●インピーダンス:8Ω●感度:87dB●周波数特性:30Hz〜25kHz(±6dB)●許容入力:20〜150W●サイズ:380H×191W×305Dmm●質量:12kg●取り扱い:Wefield ウインテスト(株) オーディオ事業部



本記事は季刊・オーディオアクセサリー 176号 SPRINGからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE