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先進的アプローチとオーディオ的快楽の両立

伝説的名手が設計したアクティブスピーカー、AIRPULSE「A80」。その実力は本物だ

2020/06/16 土方久明
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“ピュアハイファイグレード” のアクティブスピーカーに、注目の新モデルが登場した。かのフィル・ジョーンズ氏が手がける、AIRPULSE(エアパルス)「A80」だ。スピーカーの名手が送り出す新製品は、高い期待に応えているのか。その実力を検証していく。


オーディオマニア的な匂いと先進的な匂い、その2つを感じさせる

一昔前まで、スピーカー内にアンプを内蔵したアクティブタイプのスピーカーというと、パソコンのモニター横に設置するお手軽タイプ、もしくはDTMなどに使用するプロフェッショナルスタジオモニターが多かった。

しかしここ数年、オーディオファイルが十分満足する “ピュアハイファイグレード” のアクティブスピーカーが登場している。

これらのスピーカーの多くは、デジタルドメインを利用した音声処理、つまり入力されたデジタル信号をデジタルのまま帯域分割や位相処理、TA(タイムアライメント)などの音声処理を行い、そのままD級アンプにデジタルのままダイレクトに入力する方式を採用。さらに、ごく一部のハイマニアが実践している、1つのスピーカードライバーに対して1つのアンプを使用するマルチ駆動を採用している。

少々前置きが長くなってしまったが、そんなピュアハイファイグレードのアクティブスピーカーの世界に、大変興味をそそるモデル、エアパルス「A80」が誕生した。

AIRPULSE「A80」(¥OPEN・予想実売税抜価格77,000円前後/ペア)

その仕様を見ていく。幅14センチ、高さ25.5センチと小柄のキャビネットには、ホーンロードをかけたリボン型のトゥイーターを搭載し、11.5cm口径のメタルコーン・ウーファーが組み合わされる。エンクロージャーはMDF製で、なんと厚さ18ミリもある。TI製のフルデジタルアンプICを左右チャンネル合計で2基搭載し、トゥイーターとウーファーをブリッジ接続で駆動する。そして、内部配線材にはトランスペアレント製が採用される。

ウーファーは硬質アルマイト処理アルミニウム合金コーン振動版を搭載。軽量かつ大型のアルミ製ボイスコイルを採用し、高いパワー・ハンドリング性能を維持する

リボントゥイーターは綿密に計算されたホーン形状との組み合わせにより、他にはない再現性を実現している

さらにアンプ内蔵という事で、入出力周りのインターフェースが気になるが、RCA端子によるアナログ入力が2系統、デジタル入力はUSB-B/光に加えて、高音質コーデック「aptX」に対応するBluetooth接続機能も装備。さらにサブウーファー出力用のRCA端子も利用できるなど全方位的だ。

本体背面部。右chに各種端子を搭載する

このようにA80からはオーディオマニア的な匂いと、洗練されたインターフェースによる先進的な匂い、その2つの匂いがプンプンとするのだが、なんと本スピーカーをデザインしたのは、伝説的なスピーカー設計の名手、フィル・ジョーンズ氏である。

同氏の名前を知るオーディオファイルは少なくないだろう。ウエスタンエレクトリック社にいたレジナルド・ソロモン氏に師事し、英国ヴァイタボックス社で技術を磨いた後、アコースティックエナジー社でデザインしたスピーカー「AE1」と「AE2」を世界的にヒットさせ、1990年には、かのボストン・アコースティックス社でリンフィールド・シリーズをデザイン。1994年にハイエンドスピーカーブランドのプラチナム・オーディオ社を設立し、超弩級のオールホーン型スピーカー「Air Pulse 3.1」を発表してハイエンド界に衝撃を与えた方だ。

本格派の再生音が楽しめる魅力的なスピーカーだ

ここからは試聴に入ろう。Rチャンネル側のスピーカーに電源ケーブルを接続して、Lチャンネル側に専用ケーブルを接続すればセッティング完了。小型のキャビネットも手伝って設置性は抜群に優れている。

A80はスピーカースタンドに設置する本格的な設置でも利用できるが、付属のウレタン製ベースを使うと、ほどよい傾斜角度がつき、ニアフィールドリスニングとの相性も良さそう。そこで今回はデスクトップシステムを構築して、パソコンとスマートフォンからハイレゾファイルと定額ストリーミングサービスを再生する。

付属のウレタンベースで角度をつけることができる

まずはMacBook ProとUSBケーブルで接続し、ハイレゾストリーミングサービス、mora qualitasよりビリー・アイリッシュ「bad guy」を聴取した。

一聴して、リボントゥイーターによる透明感が高い中高域と、素晴らしくレスポンスが良い低域、これらのファクターが絶妙に合わさった本格派の再生音に驚く。トゥイーターとウーファーの音の繋がりがリニアで、ニアフィールドにもかかわらず、音像がピンポイントにセンターに定位して、再生が難しいとされる同曲の低域部分も痩せず、かつ明瞭である。たいへん素晴らしい再生音だ。

次にApple純正のUSBカメラアダプタを介して、iPhone Xとデジタル接続。Amazon Music HDより若き天才ピアニスト、ヤン・リシエツキがオルフェウス室内管弦楽団と奏でるピアノ協奏曲「メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲、他」のハイレゾ音源(96kHz/24bit)を再生した。

透明感ある音色により、アコースティック楽器の音抜けが良い。フルデジタル伝送による情報量の高さも手伝い、トランスペアレントな音で、とてもスマホから出しているとは思えない素晴らしい音質である。

背面にあるトーンコントロールノブで、高域/低域をそれぞれ±3dB可変できる。これによりスピーカーセッティング幅がないデスクトップ上などでも、音質をニュートラルに調整できるのが嬉しかったし、付属の専用リモコンでボリューム調整やソース切り替えができ、ユーザビリティーにも優れていると判断した。

最後は、aptXに対応するAndroidスマホと組み合わせて、ノラ・ジョーンズ「Begin Again」をワイヤレス再生した。先に聴いた有線の組み合わせほどの絶対的な分解能こそないものの、ワイヤレスという接続方法から受ける印象より音質に優れており、何より手軽に再生できるというアドバンテージを実感した。これは十分に楽しめる。

オーディオには、セパレート化=高音質という思想がある。筆者自身のメインシステムも、プリアンプ兼ネットワークプレーヤーとパワーアンプが別体になるセパレート構成で運用している。しかしA80は、その小さなキャビネットで、デジタルドメインを利用した音声処理と、D級アンプへのダイレクト入力、さらにマルチ駆動も実現。そして何よりもリボン型トゥイーターによって生まれる音楽性あふれるサウンドは、メインシステムとして使える音質と言っていい。

今回のように、パソコンやスマホなど、幅広いソース機器と接続して “音質に優れるミニマムなオーディオシステム” を構築できるほか、手元にあるCDプレーヤーとデジタル・アナログで接続しても良いだろうし、USBデジタル出力を持つミュージックサーバーと組み合わせて省スペースでネットワークオーディオを楽しんだり、テレビのサイドに設置してリビングユースに活用することもできる。

改めてA80は、極めて先進的なアプローチと、リボンとホーンの組み合わせによるオーディオ的快楽の両面が味わえる、たいへん魅力的なスピーカーだ。

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