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【特別企画】上位機の美点を引き継ぐ再現性

一流のサウンドを“手に入る価格”で実現。パラダイムの新主力スピーカー「Premier」の実力に納得

2020/07/14 逆木 一
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■パラダイムの本懐ここにあり。上位機の技術を継承した入門スピーカーが登場

昨年初めて日本国内に導入されたカナダのスピーカーブランド「Paradigm(パラダイム)」。その第一弾として導入された「Persona」シリーズは、素材と技術の両面で注目すべき特徴を備え、そして傑出した再生音のクオリティによってすでに高い評価を確立している。

ただし、Personaシリーズはパラダイムのフラグシップであり、シリーズ中最も安価なブックシェルフスピーカー「Persona B」でも販売価格はペア150万円(税抜)と、導入のハードルが高かったこともまた事実。そんななか登場したのが、今回紹介する「Premier」シリーズだ。


Premierシリーズはトールボーイの「800F」「700F」、ブックシェルフの「200B」「100B」、センタースピーカーの「600C」「500C」から成り、最も大型の800Fでもペア32万円(税抜)と、Personaシリーズに比べて価格が抑えられたシリーズとなっている。

ちなみに、元々パラダイムはどちらかといえばコストパフォーマンスに優れるスピーカーを中心に手掛けてきたブランドであり、Personaシリーズは同社にとって従来の殻を破ることで生まれたシリーズだといえる。

上位モデル「Persona B」。PPAと呼ばれる音響レンズが特徴。PremierシリーズにはPersonaで培われた技術が投入されている

そしてPersonaシリーズの後に登場したパラダイムの最新モデルがPremierシリーズであり、Personaシリーズで得た技術的な成果の投入がおおいに期待されるところだ。実際、使っている振動板の素材こそ違えど、トゥイーターとミッドレンジにPPA(Perforated Phase-Aligning)と呼ばれる音響レンズやART(Active Ridge Technology)が使われるなど、PremierシリーズはPersonaシリーズの流れを強く感じさせるものとなっている。

Personaシリーズの成果を引き継ぎ、パラダイムにとってはむしろ主力製品ともいえるPremierシリーズの実力はどれほどのものか。Premierシリーズは本格的なセンタースピーカーも2機種ラインナップしていることから、ステレオとサラウンドの両方で試聴を行った。

■ずっと聴いていたい本質的な心地よさ。700Fではオーディオ的なスリルも味わえる

まずはステレオで、100Bと700Fで音楽を聴く。組み合わせるアンプにはMOONの多機能プリメインアンプ「ACE」を使い、ネットワーク機能による再生を行った。

まずは幅1.5mくらいの距離を開けて「100B」を試聴

最初に100Bでラドカ・トネフの「The Moon Is a Harsh Mistress」を聴くと、彼女の歌声と抒情的なピアノが試聴室をふんわりと満たした。なんと清々しい再生音だろう。比較的小型のブックシェルフスピーカーということで、左右のスピーカーの間隔は1.5メートル程度というコンパクトなセッティングでありながら、空間は前後左右にストレスなく広がり、部屋の空気を一変させる。かといって音の輪郭が曖昧になるようなこともなく、透明感の高いボーカルもスピーカー間にピンポイントに浮かび上がる。

ラドカ・トネフ「FAIRYTALES」

音離れの良さは特筆すべきものがあり、スピーカーの存在はたやすく空間の中に溶けて消える。鮮烈さが身上のジョン・バトラーの「Ocean」やfox capture planの「supersonic」といったインストゥルメンタル曲を聴いても、必要十分な切れ味の良さ、畳み込まれた音の激流を解きほぐす解像感の高さを示しつつ、歪みっぽさがないため実に耳馴染みが良く、聴いていて「うるさくない」。この「うるさくない」をはじめとする様々な印象はPersonaシリーズのブックシェルフ「Persona B」にも共通するもので、この時点で、Premierシリーズは間違いなくPersonaシリーズの美点を引き継いでいると確信できる。

100B(ペア110,000円/税抜)と専用スタンドJ-29 V2(ペア40,000円/税抜)を組み合わせたところ

一方で、周波数レンジはあまり欲張っておらず、低音の量感も控えめなため、パッと聴いた時に「派手さ」は感じられない。それどころか、同価格帯の競合製品と比べればむしろ「地味」とさえ感じられてしまうかもしれない。しかし、いつまでも音楽を聴いていられる、聴いていたいと思わせる本質的な心地よさが本機にはある。比較的安価なブックシェルフスピーカーでも派手さを志向せずにブランドの方向性を真摯に追求する、パラダイムのスピーカーメーカーとしての志の高さが、100Bからは感じられた。

ここでスピーカーを700Fに切り替える。100Bと同じ曲で700Fには一聴してレンジの余裕が感じられ、ラドカ・トネフのボーカルには適度な輝きが加わる。「Ocean」ではギターの厚み、響きのふくよかさ、実体感、情報量といった様々な点でクオリティが大きく向上し、100Bに比べて一気に「高性能」という印象が強まる。

フロアスタンティング型の700F(ペア250,000円/税抜)

ルーサー・ヴァンドロスの「She's a super lady」ではやはり中低域の充実が著しく、しっかりとした厚みとエネルギー感を聴かせ、低音も過剰に膨らむことなく弾力に富み、制御が行き届いている。高域の存在感と伸びやかさも中低域の充実にあわせて向上しており、それでいて色付けは感じられず、耳に不快な印象もない。空間の広さは100Bとあまり変わらず(これはむしろ100Bが凄いのだが)、情報量の増大に伴い凝縮感も増したが、それでも空間に濁ったところはなく、パラダイムらしい透明感は700Fでも十分に味わえる。

700Fのスピーカー端子部

総じて、700Fは100Bと同様の耳馴染みの良さと、スピーカーとしての優れた基礎性能を併せ持ち、ひたすら音楽に浸れるスピーカーとしても、オーディオ的なスリルや満足感を楽しむスピーカーとしても、おおいに満足できる。

ごく小さな音量で聴いても音離れの良さと十分なレンジ感ゆえに音楽がつまらなくならず、大音量で鳴らしてもやはり「うるさくない」。これでペア25万円(税抜)という価格を考えれば、700Fは万人におすすめできる、極めてバランスの良いスピーカーだといえる。掛け値なしに、素晴らしいスピーカーである。

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