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Hypex社Ncoreアンプモジュールを採用

その音に価格もサイズも疑った。15万円切りのパワーアンプ TEAC「AP-505」は次世代オーディオの模範だ

2019/06/10 角田郁雄
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AP-505はこの出力段のみならず、入力段も魅力的である。信号が持つ音楽情報を鮮度高く伝送する高音質オペアンプ「MUSES 8820E」を、RCA/XLRの両入力に採用。XLRバランスでは、音の鮮度を失わないようにカップリングコンデンサーを排除している。この入力段の電源も実に高品位で、左右の整流回路を大型トロイダルトランスの出口から完全に分離し、4,700μFの大容量コンデンサーを左右に各4式(左右合計8式)搭載した。これにより理想的な平滑回路を実現し、左右のセパレーション向上を図っているのである。

私は、このアンプが入力段も大切にしていることに好印象をもっている。なぜなら、入力段の作り込みは、音の鮮度、空間の広がりばかりではなく、弱音や倍音の再現性にまで繋がるからである。

AP-505を2台用いてのBTL駆動およびバイアンプ駆動も可能だ

さらに素晴らしいところは、こうした回路もさることながら使い方まで考慮されていることだ。1台では出力130Wのステレオ・パワーアンプだが、もう1台追加すれば、スピーカーの高域側ユニットと低域側ユニットを独立駆動するバイアンプ・モードと、250W出力を実現するBTLモードを選択できるようになる(リアのスイッチでモードを選択できる)。このコンパクトなパワーアンプで、ハイエンドシステムのようなアンプ構成を組むことも可能になるのだ。

AP-505は、これだけの内容を備えていながら、若いユーザーにとっても頑張れば手の届く価格だ。また、そのサイズやデザインは、シンプルで高品位なシステムを実現したい方にも大いに推薦したい。その上で、上述のような2台用いての拡張も備えているのである。


サイズを超えたスピーカー駆動力と暖色系の音色が魅力的

試聴は我が家のリスニングルームで行った。再生ソース機器として同じティアック 505シリーズのネットワークプレーヤー/USB-DAC「NT-505」を使用。スピーカーはB&W「802 D3」を駆動した(音楽ファイルの再生はDELA「N1Z」で行い、NT-505へUSB出力で接続した)。

まずはリファレンスであるHoff Ensembleのヴォーカルアルバム『Quiet Winter Night』(352.8kHz/24bit flac)を再生した。バスドラムが格別に力強く、トランペットの倍音成分はアナログに迫るほどに豊富だ。また、音の立ち上がりは俊敏であるが、音の硬さはまったくない。音の立ち上がりの速さは電源効率の高いクラスDアンプならではだが、こうした音調はNcoreの特徴でもある。

その印象をさらに加えると、直熱真空管 300Bを思い浮かべるほど倍音が色濃く、透明度も高い。本機では少し暖色系の音色も感じさせる。女性ヴォーカルではウェットで艶のある質感を備え、歌唱のリアリティーも十分満足できる。

レベルメーターの暖色系のバックライトが、洗練された筐体デザインに親密な印象を加えてくれる

次に、マイルス・デイビスのワーナー期の作品をまとめたボックスセット『Last Word / The Warner Bros Years』に収録された、熱狂のライブ音源(LIVE AT NICE FESTIVAL, 1986)を鳴らす。収録フォーマットは44.1kHz/24bitでサンプリングレートはCD並だが、そんなことは忘れさせるように、キーボードの響きがベールのように空間に広がり、ベースは弾力感をもって低音を響かせる。ドラムやパーカションも実に鮮烈で音の立ち上がりが素早い。そこにマイルスのトランペットが、響き鮮やかに定位する。デジタルマスターとは思えない濃厚なアナログサウンドが、高解像度で空間を満たしていく。

中でも最も感激したのは「Time After Time」の演奏だ。マイルスの囁くようなミュートとホーン全開の炸裂するような響きが聴ける。しかも、AP-505は力強さだけではなく、静けさもよく再現してくれる。特に、私は本機の弱音の透明度が好きである。この空間性にも溢れたマイルスの曲に深みを感じさせてくれるのだ。

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