岩井 喬が特徴と音質傾向を解説

【レビュー】ビクター本格再始動の旗印、WOODイヤホン「HA-FW10000」を聴く

岩井 喬
2018年12月27日
■ビクター本格再始動の旗印、WOOD「HA-FW10000」を聴く

歴史あるビクターブランドが、コンシューマー製品としてWOODシリーズのフラグシップイヤホン「HA-FW10000」で本格的に再始動した。2011年からビクターブランド製品は “日本ビクター株式会社” の英表記頭文字から取られたJVC表記で展開してきたが、ジャンルごとにより高付加価値な製品提案を求める中で、水準を超えるプロダクトに対し、改めてビクターブランドの冠を与えることになったのである。

HA-FW10000

このHA-FW10000開発当初からビクターブランドとなることは決まっていなかったそうであるが、人気の高いウッドドーム振動板を用いたCLASS-SシリーズのWOODモデルの延長線上にありながら、これまでの概念を覆す新たなWOODモデルのフラグシップを作り上げるという点に関してはプロジェクト当初から一貫していた。

このウッドドーム振動板を用いる “ウッドイヤホン” は今から10年前の2008年、「HP-FX500」として誕生。この時のブランドバッジはビクターであり、10年の歳月を経てHA-FW10000で再びその名を継承するかのような、アニバーサリーモデルとしての意味合いも色濃く反映している。

ウッドイヤホンの誕生においては、現在のビクター・JVCのピュアオーディオを牽引するウッドコーンスピーカーの存在がカギとなっていた。

これは木を原料として作り上げられる楽器にヒントを得たものである。音の出口であるスピーカーもキャビネットだけでなく、ユニットの振動板にも木を使ってみてはどうか。これがWOODシリーズのテーマでもある “スピーカーも、楽器でありたい” という理想に繋がってゆく。

この発想をイヤホンやヘッドホンにも取り込み、 “原音探求” というフィロソフィーとともに “ヘッドホンも、楽器でありたい” というコンセプトのもと、筐体のみならず、ドライバーユニットの心臓部である振動板にウッドドームを採用するに至ったわけだ。

■これまでのモデルと大きく異なる筐体のつくりと仕上げのこだわり

HA-FW10000では、WOODシリーズ誕生から「HA-FW01」「HA-FW02」「HA-FW03」といった現行モデルまで受け継がれていた、WOODシリーズならではの個性でもある “豊かな音の響き” の質を見直し、全てのラインナップの頂点に立つにふさわしい普遍的な音の良さを獲得することを目指していた。

それにはWOODシリーズ共通の狙いである “木が奏でる美しい響きと自然な音の広がり” をより普遍的な次元にまで昇華することが必要不可欠であり、 “空間を満たす多彩なグラデーション・空間に浮かび上がる滑らかなコントラスト” という新たに加えられたコンセプトを体現する、色付けのないリアルな空間表現力を実現するため、開発が進められたのである。

まずHA-FW10000がこれまでのモデルと大きく異なるのは筐体のつくりと仕上げのこだわりにあるだろう。ハウジングとウッドスタビライザーの素材には和楽器にも用いられ、自然な響きが得られる国内産楓の無垢材を採用。この楓材を精密に削り出し加工を行った上、日本伝統工芸士の漆職人によって一個一個丁寧に多層塗りを施し、硬度を確保している。ここまでのハウジング加工工程が非常に時間がかかるため、量産数に限度があり、すぐに増産できないという苦労もあるそうだ。

またチタン製インナーハウジング内部の響きの調整においては同じ天然素材である四国の阿波和紙や真綿(絹綿)を採用。適度な吸音と分散を行ってくれ、余韻のバランスと質感の艶やかさに効果を発揮している。さらにケーブル介在にもシルク糸を用いることで、静電気・振動対策とした。このような厳選した天然素材の導入によって癖の少ない、クリアで豊潤なナチュラルサウンドを獲得したのである。

HA-FW10000もHA-FW01/FW02と同じくMMCX端子によるケーブル着脱構造を取り入れているが、前述した響きにこだわったハウジング構成を生かすため、ケーブル取り付け部となるステンレス製ブラケットはハウジング外部に設けられた。これによりハウジング内の音響設計の自由度が大きく高まったのだ。従来モデルでは端子構造物がハウジング内部の容積を圧迫していることは否めず、響きを阻害することもありえる。それほどまでに響きの質にこだわったのは、これまでとは全く違うWOODモデルのサウンドを求めていたからに他ならない。

リケーブルの端子にはMMCXを採用

■集大成的な構成のドライバーユニット

そして心臓部となるドライバーユニットはSOLIDEGEシリーズの「HA-FD01」で用いられたD3ドライバーユニットや、ハイエナジー磁気回路を搭載したHA-FW01をベースとした、まさに集大成的な構成だ。

核心の振動板にはカーボンコートPET振動板と、音の伝搬速度と振動の減衰特性に優れるカバ材による50μmウッドドームを組み合わせたウッドドームカーボン振動板を採用。ハイエナジー磁気回路ではネオジムマグネットの磁力を有効に活用できる新形状のプレートを導入。軽量なCCAWボイスコイルが受ける駆動力を向上させ、動作時の変動を抑えることで歪みも低減させている。

加えて振動板正面にはD3ドライバーユニット由来のチタン製ドライバーケースを設けて不要振動を抑制。さらにはアキュレートモーションエアダンパーによって振動板の正確な動きを支えている。またステンレス製フロントハウジングは異種素材同士の組み合わせで振動を抑え込む構造とした他、ユニット前面にあたる箇所へ不要な音を拡散させるドットを配置させたアコースティックピュリファイアーを取り入れた。

このアコースティックピュリファイアーの出自ともなるスパイラルドットイヤーピースも当然HA-FW10000にも採用されている。これはイヤーピース内壁に設けたスパイラル配列のドットにより、音質劣化を引き起こす反射音を拡散減衰させるというJVC独自の技術であるが、このドット形状や素材に手を加えた “スパイラルドット+” を本モデルでは採用している。

素材については肌に近い力学特性を持つソフトなシリコン系材料SMP iFitを取り入れ、フィット感の向上に結び付けた。サイズについてもS、MS、M、ML、Lの5種類を用意し、万全を期している。

装着においてはケーブル耳掛け式を採用。タッチノイズの軽減も狙っているが、本体重量もあるため、安定度の点でも耳掛け式がベストといえる。重量バランスも良好で、スパイラルドット+イヤーピースとの相乗効果もあり、非常に快適な装着感を得ることができた。

筐体にはブランドのアイコンであるニッパー犬も刻印されている

■試聴:「リアルさと自然な艶やかさが同居する流麗で上品な音」

試聴にはソニー「NW-WM1Z」とJVCのポータブルアンプ「SU-AX01」を用意。サウンドを確認してみると、従来のWOODモデルとは一線を画したリアルさと自然な艶やかさが同居する、流麗で上品な音を聴かせてくれた。

20万円にも近い、単発ダイナミック型という点を踏まえてみると、マルチウェイ型やハイブリッド型がライバル機にひしめく中、割高な印象も感じるが、実際の音を体感するとその考えが消えうせる。

むしろシングルウェイだからこその、高域から低域までシームレスな音の繋がりが得られること。そして自然な音場表現性と音像の不安定さのない、凛とした描写性はこの上ないメリットである。

HA-FW10000は非常に歪み感の少ない、余韻の階調性の高いサウンドが特徴で、アタックのキレ味や音像の輪郭表現についても誇張のない自然な描写だ。余韻の響きは滲みのないナチュラルで密度の濃い空間性豊かなものであり、倍音の艶も適度に感じられる上質な表現となっている。

特に女性ボーカルのウェットで伸びやかな描写は有機的で生々しく、音離れの良さが際立つ。天然素材の組み合わせによるディテールの滑らかさ、適度な制動性によって生まれる弾力豊かな低域感の調和も見事だ。

HA-FW10000

オーケストラの温かみのあるハーモニーは響きの豊かさだけでなく、管弦楽器の旋律を艶良く爽やかに描き、個々のパートの動きを鮮明に引き上げてくれる。ホールトーンは潤いがあり、落ち着き良く安定感のあるローエンドの響きも耳当たり良い。木管の響きはふくよかさも感じるが、リリースの収束も早く、スッキリとした後味を得ることができた。

そしてジャズ音源においては、ホーンセクションの立ち上がり、立ち下りの素早さが印象的で、ウッドベースの密度良く滑らかな弦のタッチ、胴鳴りの豊かな張り出しによって、重心の低いサウンドが展開。ピアノのアタックも硬すぎず柔らかすぎず、適切な力加減であり、ハーモニクスの響きも低域方向からしっかりと伸びている。

高域の輝き感も素直であり、アコースティックギターの爪弾きも小気味よく表現。シンバルワークの粒立ちや余韻の煌きも上品で、グラデーションの階調も極めて細やか。スタジオの空気感も如実に描き出し、残響成分も丁寧かつ華やかにまとめてくれる。

ロック音源でも破綻がなくストレートな音像のエッジ感を出しつつ、リズム隊の密度や重心の低さをしっかりと描き出す。エレキギターのリフも粘りがあり、ディストーションの質感も適度に角を落とした耳馴染みの良いテイストだ。

ボーカルはハリ艶良く滑らかで、ボトムの厚みも残した安定傾向の描写。余韻の伸びと音像のふくよかさもほんのりと感じる、バランスの良いサウンド性である。

11.2MHz音源においては肉付きよくナチュラルな女性ボーカルのリアルさ、口元の潤い感が極めて美しく、息継ぎの動きが非常に生々しい。リヴァーブの余韻も瑞々しく、ピアノやギターの響きも上品でほぐれ良い。ハーモニクスもレンジが広くスムーズで、各々の音像の密度の高い定位感、位相表現の正確さも見事である。解像度や分離度の高さも申し分なく、躍動感に満ちたサウンドを楽しめた。

■「名実ともにビクター・JVC史上最高のハイエンドイヤホンといえる完成度」

これまでのWOODモデルは響きの豊かさ、煌びやかさを前面に押し出すことで、一種の色付けを楽しむ、リアル志向とはベクトルの違う個性ある音作りがポイントであったように思う。それゆえジャンルによる相性や好みの点で万人受けするものではなかった一面も見受けられた。

しかしこのHA-FW10000は旧来からのWOODモデルの殻を打ち破り、ハイレゾ時代にふさわしい解像度とキレ味、余韻の適切な表現性を獲得している。自然な響き感を軸としつつ、ディティールの上品な艶感、正確なアタック表現、クリアで見通しの良い音場感をも体現し、名実ともにビクター・JVC史上最高のハイエンドイヤホンといえる完成度を実現した。

ここまでの音にたどり着くまで、開発陣は非常に険しい道のりを乗り越えてきたという。特にアタックの素早さや音像の力強さに対し、相反する余韻の自然さ、階調の細やかな立ち下りを両立すること。この点に関しては試作の最終段階まで試行錯誤が繰り返されたそうで、吸音材として投入した和紙や真綿のチョイスやその量、ドライバーの設置方法など、ありとあらゆるアコースティックな調整を繰り返し、完成を見たとのこと。新規の方はもちろんのこと、これまでのWOODモデルが苦手と感じていたリスナーにこそ、本モデルのサウンドを味わっていただきたいところだ。

今回は純粋な比較ができないため見送ったが、バランス駆動とすることで、よりHA-FW10000の持つポテンシャル、底力が発揮されるだろう。付属する左右完全独立構造の着脱式ケーブルの素性も良く、シングルエンド接続でも素晴らしいサウンドを味わえるが、苦心して作り上げた余韻表現の素晴らしさ、S/Nの良さはバランス駆動でより理想の領域のものとなるはずだ。特にハイレゾで重要な空間性、音場の広がりや奥行き感、音像の分離度に関してHA-FW10000の表現力は素晴らしく、できれば純正のバランス駆動用ケーブルが欲しいとも感じている。

HA-FW10000はWOODモデルの新たな境地を開いた珠玉のフラグシップイヤホンであるとともに、歴史に名を遺す名機といえる逸品だ。

■試聴音源
・飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第一楽章(96kHz/24bit)
・デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)
・長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜レディ・マドンナ(筆者自身による2.8MHz・DSD録音)
・『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』〜届かない恋(2.8MHz・DSD)
・Suara「キミガタメ」11.2MHzレコーディング音源

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