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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第217回】行き着いた先の、さらに先へ! 「秋のヘッドフォン祭2018」 超個人的ベスト5

2018/11/06 高橋 敦
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【第1位】“ダイナミック”が再び熱い!

マルチもハイブリッドも新たな段階に入りつつある。しかしダイナミックも負けていない!まず製品として最大のインパクトだったのは、このタイミングで発売を迎え完成製品版が展示されたFAudio「Major」だ。

ゴールド!だがピカピカとうるさい輝きではなく、ある程度落ち着きのあるマット質感

耳に当たる側の形状はやや独特。もちろんフィット感を考慮した上での形状とのこと

特徴としてはまず振動板。メディカルファイバー素材とチタニウム素材を張り合わせたダブルレイヤー構造で剛性と減衰を十分に高めつつ軽量性も損ねていない、バランスに優れた振動板だ。

そしてハウジングからサウンドチューブまでの空間の「トリプル・アコースティックチャンバー構造」によって音響を最適化し、リスナーの鼓膜に届ける。サウンドチューブの無酸素銅、ケーブル導体の日本製軍需用高純度銅など、要所の素材も超一級品だ。

そして実際、音もすごい。シンバルの金物らしい響きは華やかに煌めき、しかし耳障りな尖りは伴わない。ベースに演出的な太さや膨らみはなく、ただすっとそこに置かれているように聞こえるが、その「すっと」が深く低い帯域にまで達している。歌声もまた明るく抜けるがやはり素直で、虚飾のない美しさ。筆者の個人的な好みにも合致し、大満足だ。

レイヤー構造振動板といえば、復活Victorブランドから登場のウッドイヤホン新フラッグシップ「HA-FW10000」にも注目。

これまでのウッドイヤホンから一新された新たなフォルム

ビクター犬ことニッパーさんも!

そもそも同社のウッドイヤホンの振動板は、PET樹脂の振動板を土台として薄膜ウッドドームを合わせたものだ。こちらはさらにPETにカーボンコーティングを施し、振動板の外周部には適度なしなやかさを、振動板中央のドーム部分にはより高い強度を持たせてあるとのこと。

当日ではなく別の機会で試聴した際の印象となるが、フォルムと同じくそのサウンドも新たなステージに突入した印象だ。従来のウッドイヤホンはふくよかな音像と響きが特徴的だったが、このモデルはシャープな成分やソリッドな感触の表現も軽くこなす。これまでのウッドシリーズが苦手だった方にも「今回はちょっと違うから!」と聴かせたくなるサウンドだ。

この変化には技術的な進歩だけではなく、先立って開発・発売されたSOLIDEGEシリーズ「HA-FD01/02」が大好評だったことも影響しているのではないかと想像する。それらと共通する現代的なタッチも感じられる仕上がりだ。

さて、上記の二つは金属や樹脂と繊維系素材の「複合」によって特性を最適化する手法。またいわゆる「〇〇コーティング」もそれと近いアプローチで、最近は「ベリリウムコーティング振動板」採用イヤホンが増えている。

finalが参考展示していた「E8000」は「ベリリウム箔振動板」を搭載!

現状でのハウジングはMakeシリーズのフォルムをベースとしているが、決定ではないとのこと

ベリリウム……箔?

ベリリウム「箔」振動板とは、ベリリウムを振動板として適当な薄さで整形する技術によって、ベース素材なしに純粋にベリリウムだけで構成される振動板とのこと。

ベリリウムだけによる振動板は、スピーカーのトゥイーターでは以前からあるにはあったが、スピーカーサイズでもその実現には高度な技術が必要だったはずだ。小さくて薄いイヤホンの振動板となると、これまた難しいはず。それに挑戦しようと発想し、試作段階とはいえ実現に至っているとはさすがfinal。音はまだ聴けなかったが、今後楽しみなアイテムとして心に留めておきたい。

最後に、フォスター電機がパートナー企業を募って展開していくという「FOSTER Alliance Program」ブースの展示を紹介しよう。

パートナー企業に提供されるイヤホン向けドライバー3モデル

特に気になる大口径ドライバー「MT014A」

こちらの展示では、「FitEar Air」シリーズにも採用されているモジュール構造ドライバー「MT009B」の他、特に目に留まったのは14mmと大口径の「MT014A」。こちらは振動板素材に「バイオダイナ」を採用している。今回のタイミングでは、くみたてLabがこの大口径ドライバーをBAドライバーと組み合わせた構成で、何とカスタムイヤモニに組み込んだ試作品「KL-Proto.」を展示していた。

BAとの組み合わせなので正確には「【第2位】“マルチ&ハイブリッド”が再び熱い!」のところで紹介するべきだったかもしれないが、今回はフォスター製ダイナミックドライバー「MT014A」を主体としてこちらで紹介する。

見た感じでは無理のないサイズに収まっている

違和感のない組み込みが行われている…ように見えるが、実際には相当な苦労があるはず

Just earの13.5mmをも超える大口径だけに、実際に製品化するとなるとカスタムイヤモニとしてのフィッティングは超高難度になりそうだが、「くみたてならばやりかねない……」感、ある。

【今回の規格外】歴史的逸品、beyerdynamic「ET1000」

最後はおなじみ、Music With 規格外ブース。今回「こ……これは!」と思わされたのは……これだ!

毎度おなじみ、ビンテージの森の中に……

こ……これは!

beyerdynamic「ET1000」!現在の同社のカタログに掲載されている年表においても「1976年 最初のコンデンサー型ヘッドホン ET1000発売」と記されている、まさに歴史的一品だ。

ハウジングは普通の開放型ではなく、B&Wのイヤホン「C5」でも採用の、微小な金属球を集合させたマイクロ多孔質フィルターっぽい

コンデンサー型なので専用アンプユニットで駆動

こんなものがさらりと紛れていて普通に音も聴けてしまう。Music With 規格外、まさに規格外なブースだ。

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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