HOME > レビュー > “ハイレゾ級” Bluetoothコーデックは本当にハイレゾ級か? 「NT-505」で測定した

Xperia XZ2/iPhone X/SHANLING M0を検証

“ハイレゾ級” Bluetoothコーデックは本当にハイレゾ級か? 「NT-505」で測定した

2018/07/19 海上 忍
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
このデバイスは本当に “ハイレゾ” を送出しているのか……そんな不安に駆られたことはないだろうか。

送出側には「96kHz/24bit」と表示されてはいても、受信側にサンプリングレート/ビット深度を表示する機能がなければ、送出側の表示を鵜呑みにするしかない。そのような状況にあるBluetoothの “ハイレゾ級” コーデックを、ある方法で測定した経緯と顛末をレポートする。


あのネットワークプレーヤーでビット深度を測る

我々がデジタルオーディオ機器を利用するとき、音源そのものが持つ情報量(サンプリングレート/ビット深度)と再生機器側の能力(デコードできる情報量の上限)、その信号を入力し増幅するアンプやスピーカーの能力が音に直接的に影響してくることは、改めて説明するまでもない。

しかし、機器間で信号をやり取りする過程でダウンサンプリング/ダウンコンバートにより情報量が減少する可能性もある。再生機器のディスプレイに「96kHz/24bit」と表示されていたとしても、それはサウンドファイルの情報量かも知れず、実際にどうなのかはUSB DACやDAC内蔵のプリメインアンプなど信号を入力する機器で調べないことにはわからない。

疑い出すとキリのない話ではあるが、送信側と受信側で情報量に関する表示が一致しないことには安心できない、という点に同意する向きも多いのではなかろうか。

とはいえ、入力した信号のサンプリングレートは表示できてもビット深度は表示できない、というオーディオ機器は少なくない。むしろビット深度の表示に対応しない機器がほとんどで、サンプリングレートが一致しているのだからビット深度もそうに違いない、という楽観的な見方をするしかないのが現状だ。

……などと別件で打ち合わせしていたTEAC開発チームの面々に持論を話したところ、「できますよ?」との言葉が。え? 「NT-505」や「UD-505」といった現行製品で? 「はい、ファームウェアに手を入れなければなりませんが」。LDACとかaptX HDといったBluetoothコーデックも? 「問題ないはずです」。その機能、ぜひ最初に試させていただけませんか?

果たして10日後、ビット深度表示に対応したファームウェアを積むNT-505が筆者宅に到着した。言ってみるものである。

使い方は簡単。元々NT-505/UD-505には再生中の曲のサンプリングレートを表示する機能があり、リモコンの「INFO」ボタンを押すことで表示できるが、新ファームウェアではこれを二度押し(ダブルクリック)するとサンプリングレートがビット深度に切り替わるようになる。

NT-505に付属のリモコン。「INFO」ボタンを1回押すとサンプリングレートが、2回押すとビット深度が表示される

AVIOT CASE 01に収めた「Raspberry Pi 3 B+」とUSBで接続、DSD 11.2MHzをネイティブ再生してみた

入力ソースを選ばないこともポイント。USBとネットワーク(NAS/OpenHome)で試したところ、FLACは「FLAC 96kHz → PCM 96kHz」に「FLAC 24bit → PCM 24bit」、DSD 5.6MHzは「DSD 5.6MHz → DSD 5.6MHz」に「DSD 1bit → DSD 1bit」と、どちらも期待したとおりの情報が表示された。あとは、Bluetooth/A2DPを試すのみだ。

LDAC受信時のサンプリングレートとビット深度。XZ2/M0とも一貫して96kHz/24bitだった


ネイティブ再生されるDSDはビット深度が「1bit」と表示される

あの “ハイレゾ級” コーデックを検証する

今回のレポートにおける最大の目的は、LDACやaptX HDといった “ハイレゾ級” コーデックがスペックどおりに転送されているのかを検証すること。たとえばLDACの場合、サンプリングレートは96kHzでビット深度は24bitか、それ以下に変換(ダウンコンバート)されていないか。

安易なアップサンプリング/ダウンサンプリングは音質低下を招きかねず避けるべきという考え方からすると、音源そのままのサンプリングレート・ビット深度で送出されているか、という点もチェックが必要だろう。

再生機器側には、SBC/AAC/aptX/aptX HD/LDAC対応の「Xperia XZ2(Sony Mobile)」と、SBC/AAC対応の「iPhone X(Apple)」、そしてSBC/AAC/aptX/LDAC対応の「M0(SHANLING)」という3機種をチョイス、それぞれNT-505とペアリングし各種音源を再生することで検証した。

なお、M0はデフォルトの状態で送出時に使うコーデックを自由に選択できるが、Xperia XZ2は開発者モードを有効にしたうえで手動切り替えを行った。iOSにはコーデック切り替え機能がないため、システムが自動選択したもの(AAC)でテストしている。

LDAC対応のBluetoothトランスミッタとして動作する「SHANLING M0」。送出時は右上隅に「LDAC」と表示される

今回のテストとは関係ないが、M0はLDAC対応のBluetoothレシーバーとしての機能も備える

表1からわかることは、Xperia XZ2、SHANLING M0ともLDACは3つのモード(音質優先/標準/接続優先)とも96kHz/24bitで、変化したのはビットレートのみ(NT-505にビットレートを表示する機能はないため推定)ということになる。Xperia XZ2のaptX HD再生についても、48kHz/24bitとフルスペックだ。

表1:各種コーデックの受信状況

扱いに差が生じたのは、CD音源(44.1kHz/16bit)を再生したとき。Xperia XZ2とSHANLING M0は48kHz/16bitで出力されたが、iPhone Xは44.1kHz/16bitとなった。Bluetooth/A2DPでは、音源の種類にかかわらず送出時に使うコーデックへと変換される(すべてのコーデックで非可逆圧縮によるロスが生じる、AACファイルをAACコーデックで伝送するときも例外ではない)ためにやむを得ないが、サンプリングレートに無駄がないという点でiPhone Xの仕様は一理ある。

aptX HD受信時のサンプリングレートとビット深度(Xperia XZ2)


AAC受信時のサンプリングレートとビット深度(iPhone X)

一方、「ONKYO HF Player」などハイレゾ再生に対応したアプリでBluetooth出力を行うと、iPhone Xでは96kHzなど48kHzの整数倍にあたるサンプリングレートの音源についても、一律44.1kHzに変換されていた。96kHzであれば、端数の生じない48kHzのほうが有利なはずだが、iOSではBluetooth/A2DPの出力が44.1kHzと決められているからだ。CD音源再生時のアドバンテージが、ハイレゾ音源では仇になっている格好だ。

iPhone Xの「ONKYO HF Player」でFLAC 96kHz/24bitを再生し、Bluetooth出力したところ。サンプリングレートは48kHzではなく44.1kHzとなっている

このように、受信機側でサンプリングレート/ビット深度を可視化できるということは、再生機器の特性を把握するという点においてとても重要ということがわかる。試行と検証の繰り返しが音質向上の基本、Bluetooth/A2DPに限らず、ぜひ他のオーディオ機器にも搭載してほしい機能といえる。

ところで、今回取りあげたNT-505/UD-505新ファームウェアの提供時期だが、「Roon Ready対応のファームウェアアップデートに盛り込む予定」(TEAC広報)とのこと。アップデートはPCを使いUSB経由で実行できるというから、NT-505/UD-505のユーザは公開を心待ちにしていただきたい。

(海上 忍)

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

関連リンク

トピック: