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レコード再生の未知の世界を検証する

「1954年以降はRIAAカーブ」は本当か? ― 「記録」と「聴感」から探るEQカーブの真意

2018/03/02 菅沼洋介(ENZO j-Fi LLC.)
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■Epic
フィル・ウッズ/ウォーム・ウッズ(LN3436、Mono、1958年)=Columbiaカーブ



スライ&ザ・ファミリー・ストーン/スタンド!(BN26456、Stereo、1969年)=Columbiaカーブ



マイケル・ジャクソン/オフ・ザ・ウォール(FE35745、Stereo、1979年)=Columbiaカーブ



マイケル・ジャクソン/スリラー(QE38112、Stereo、1982年)=RIAAカーブ




ColumbiaカーブとRIAAカーブの特性の比較

ColumbiaカーブをRIAAカーブで再生した時の特性

EpicはColumbia系列のレーベルであるので、Columbiaでリリースされた盤の文脈がそのまま当てはまる。年代を追って検証したが、Columbiaと同様に1980年までColumbiaカーブを使用していたようだ。

Columbiaカーブの盤をRIAAカーブで聴くと、相対的に1000Hzから上の中域〜高域にかけて大きく聴こえ、200〜1000Hzの中低域〜中域は引っ込み、100Hz以下の低域は急上昇する。この状態で『マイケル・ジャクソン/オフ・ザ・ウォール』のマイケル・ジャクソンのヴォーカルを聴くとどうなるか。独特なボーカル音作りと相まって、まるで機械音声がごとく響いてしまう。

Columbiaは前述の通り、一大レーベルであるために系列レーベルやプレスを委託していたレーベルは数多く存在する。それらの多くがおそらく無意識にColumbiaカーブでのリリースを続けてしまっていたのではないかと推測できる。

■Impulse!
オリバー・ネルソン/ブルースの真実(A-5、Mono、1961年)=MGMカーブ



ジョン・コルトレーン/バラード(AS-32、Mono、1963年)=MGMカーブ



ジョン・コルトレーン/バラード(AS-32、Stereo、1963年)=MGMカーブ




MGMカーブとRIAAカーブの特性の比較

MGMカーブをRIAAカーブで再生した時の特性

Impulse!はRIAAカーブ策定以降の1960年に設立されたレーベルではあるが、そのオリジナル盤の音質は少し疑問符が残る。現代的なワイドレンジシステムで聴くと、レンジが狭く、妙に滑らかすぎる。本来であれば音の粒子が飛び散るがごと聴こえなくてはならないシンバルがおとなしすぎる。近年復刻された高音質盤では改善されているものの、年月が経過して劣化したマスターを使った復刻の方が良いというのもどうにも腑に落ちない。当時のモニターシステムでは、現代のシステムで聴くことを想定していなかったというのは言うまでもないが、当時のエンジニアは現代に比べてプアな環境に合わせるためにそこまで音を変えてしまったのだろうか。

DECCAにしてもColumbiaにしてもBlue Noteにしても、適切なEQカーブに変えることで現代でも十分通用する音質になるのだからImpulse!も何かあるのではないかと考えていた。

何せ1960年に設立されたレーベルなのでRIAAカーブ採用が当たり前である。当時主流だったColumbiaカーブを試してみたが、これでは重心が下がり過ぎる。ふと、MGMカーブを試してみるとこれがピタリとはまったのだ。Impulse!がMGMカーブを採用していたのかはいまでは知る由もない。当時アメリカ国内の大手レコード会社としてはRCA、Columbia、米DECCA、Capitol、Mercury、そしてMGMが挙げられるが、RCAに歩調を合わせたのはMercuryとCapitolだけであった。何かしらの力関係が働きMGMカーブで製作することになってしまったのではないだろうか。

前述のように『ジョン・コルトレーン/バラード』の「All Or Nothing At All」では、RIAAカーブで聴くと金物の粒子感がかなり乏しい。タムの胴鳴りも聴こえないし、テナーサックスもいまいち精彩を欠いた演奏の印象を受ける。これがMGMカーブだと一変するのだ。金物をはじめ音数がかなり増え、楽器の存在感は増し、音像もバシッと決まる。バラードでありながら緊張感に溢れた演奏になる。これでこそオリジナル盤で聴く意義があるというものだ。

Impulse!のように大手レーベルの影響を受け、RIAAカーブを採用していなかったレーベルは多数存在すると思われる。現在ではどのレーベルがどのEQカーブを使っていたかは知る由もなく、手あたり次第試すほかない。

■Pacific Jazz
チェット・ベイカー/チェット・ベイカー・シングス(PJ-1222、Mono、1956年)=Pacific Jazzカーブ ※B面オリジナルリリースは10インチで1954年




Pacific JazzカーブとRIAAカーブの比較

Pacific JazzカーブをRIAAカーブで再生した時の特性

Pacific Jazzの本盤はA面が新録、B面が1954年にリリースされた10インチ盤のリイシューとなっている。B面はCapitolのレコーディングスタジオが使われ、プレスも同社の工場を使ってリリースされた。CapitolはRIAAカーブにすぐさま移行したと表明しているが、それ以前はAESカーブを使用している。1954年は移行期だったようで、B面の10インチオリジナル盤はAESカーブとされている。

Pacific Jazzは独自のEQカーブを使っていたものの、特にオリジナルリリースについては移行期が分からない。本盤のリリースは1956年になるが、Pacific Jazzカーブが適切だった。

Pacific JazzカーブはColumbiaカーブの低域特性とAESカーブの高域特性を合わせたような特性をしており、RIAAカーブで聴いた時の違いはFFRRカーブの盤の時とよく似ている。全体的にモコモコして聴こえ、異様にブーミーであり、ヴォーカルもこもって聴こえてしまう。Pacific Jazzカーブで聴くと、パッと華やかになる。

なお、検証した盤のマトには恐らくリカッティングを示す「RE2」という文字が付け加えられている。これが初出かどうかは分からないが、もしかすると、「RE2」という文字がない盤であれば、A面はPacific Jazzカーブ、B面はAESカーブかもしれない。

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