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レコード再生の未知の世界を検証する

「1954年以降はRIAAカーブ」は本当か? ― 「記録」と「聴感」から探るEQカーブの真意

2018/03/02 菅沼洋介(ENZO j-Fi LLC.)
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■Contemporary
ソニー・ロリンズ/ウェイ・アウト・ウエスト(C3530、Mono、1957年)=Columbiaカーブ



アート・ペッパー/アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション(C3532、Mono、1957年)=Columbiaカーブ



ビクター・フェルドマン/ジ・アライヴァル・オブ・ビクター・フェルドマン(C3549、Mono)、1958年)=Columbiaカーブ




ColumbiaカーブとRIAAカーブの特性の比較

ColumbiaカーブをRIAAカーブで再生した時の特性

Contemporaryも、使用していたカーブがはっきりしないレーベルのひとつだ。米High Fidelity誌の『Dialing Your Disks』によれば、プレスによってNABカーブとAESカーブが混在しているらしく、さらにRIAAカーブに移行した時期も分かっていない。

今回検証した3枚は全てColumbiaカーブで聴くのが正しいようだった。RIAAカーブで聴くとこれまで検証した他のレーベルの場合と同様に音は上ずり、重心は高く、音像がはっきりしない。大名盤であり、オーディオファイル盤としても名高い『アート・ペッパー/アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』をはじめRIAAカーブで聴いた時には、筆者が愛聴している復刻CDの方が良いと感じたほど。Columbiaカーブで聞くとさすがオリジナル盤、マスターの鮮度の高さからおおよそ60年前の録音とは思えない音を聴くことができた。

■DECCA
ジャン・マルティノン、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」(SXL2004、Stereo、1959年)=FFRRカーブ



アタウルフォ・アルヘンタ、ロンドン交響楽団/エスパーニャ(SXL2020、Stereo、1958年)=FFRRカーブ



ジェルヴァース・ドゥ・ペイエ、バリー・タックウェル、ペーター・マーク、ロンドン交響楽団/モーツァルト:クラリネット協奏曲イ長調、 ホルン協奏曲第1&3番(SXL2238、Stereo、1960年)=RIAAカーブ



イシュトヴァン・ケルテス、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」(SXL2289、Stereo、1960年=FFRRカーブ



ローリング・ストーンズ/レット・イット・ブリード(SKL5025、Stereo、1969年)=RIAAカーブ



ローリング・ストーンズ/ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト(SKL5065、Stereo、1970年)=RIAAカーブ




FFRRカーブとRIAAカーブの比較

FFRRカーブをRIAAカーブで再生した時の特性

英DECCAは一般に1955年にRIAAカーブへ移行としたといわれているが、実際は1966年頃までFFRRカーブでカッティングされたらしき盤があることが分かっている。詳しくは、前回の特集を参照して欲しい(関連リンク)。

今回、有名な初期盤(1955年以降リリース)を用いて改めてRIAAカーブとFFRRカーブを聴き比べると、やはりいくつかFFRRカーブのものがあった。第2、第3版レーベルの盤であってもRIAAカーブで聴くと、音場が地を這うような展開をしてしまい、かなり違和感がある。打楽器や低弦も異様にブーミーだ。一方で『ジェルヴァース・ドゥ・ペイエ、バリー・タックウェル、ペーター・マーク、ロンドン交響楽団/モーツァルト:クラリネット協奏曲イ長調、 ホルン協奏曲第1&3番』はFFRRカーブだと異様にギラギラしてしまい、これはRIAAカーブの方が適切だろう。つまりこの時代の英DECCAでは、RIAAカーブとFFRRカーブの盤が混在してリリースされていたと考えられる。

英DECCAのロック作品もローリング・ストーンズの音源で試してみたが、これはRIAAカーブが合っていた。前回の特集の通り、1966年以降にRIAAカーブにリカッティングされた盤がリリースされていることを考えると、1966年以降のリリースはRIAAカーブに統一されているとみてよさそうだ。

■MGM(Enterprise)
アイザック・ヘイズ/シャフト(ENS 2-5002、Stereo、1971年)=MGMカーブ




MGMカーブとRIAAカーブの比較

MGMカーブをRIAAカーブで再生した時の特性

本盤はMGMレーベルの親会社であるメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)が製作した、映画『Shaft(邦題:黒いジャガー)』のサウンドトラックである。アーティスト契約の関係からMGMレーベルではなく、アイザック・ヘイズが所属しているEnterprise(Staxレーベル傘下)から発売された経緯があるため、便宜的にMGMとして扱う。

一聴してRIAAカーブではないようだった。音がこもって聴こえてしまう。音場も天井方向が異様に低い。MGMカーブを試してみると、音場は上下左右に均等に広がるようになり、抜けも良くなる。特殊な事情を含んだ盤であるため、何らかの理由によりEnterpriseによるリリースだがMGMカーブになったのだろう。

MGMレーベルはColumbiaと同様、独自のEQカーブを持つほど力があったレーベルであるが、1972年には経営の悪化からポリグラムに売却されてしまう。RIAAカーブ策定には従わず、MGMカーブを売却されるまで使い続けていたのではないだろうか。

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