300B真空管を今こそ採用した意図とは?

ラックスマン「MQ-300」を聴く − 300B管の魅力と駆動力を両立させた真空管アンプ

井上千岳

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2015年11月13日
電源部には整流管5AR4を使用。さらにチョークコイルに日立金属製のファインメットを採用しているのが注目される。これら電源トランスの2次巻線以降は、左右独立である。

出力管と整流管には耐熱素材によるサポートが装着され、これによって微小な振動を抑えている。強固なシャーシ構造によって振動対策は入念だが、さらにこのサポートによって大きく音質が改善されたそうである。

出力トランスは、オリエントカットコアによる大容量タイプだ。端子は4/8/16Ωの3種類で、独立に引き出されている。また電源ケーブルは同社のJPA-15000。シャーシの底部には、グラデーション鋳鉄製のレッグを装備する。

当たりのよさ、手触りの柔らかさが生きた300Bだからこそ可能な音

当たりのよさ、手触りの柔らかさはそのまま生きている。なるほど3極管らしい出方である。ソリッドステートでもそれは不可能ではないだろうが、あえてそうする意味は薄い。300Bを使った意義は、この音の出方にある。

まずはCDやSACDを中心に試聴して、MQ-300のサウンドを探った

新イタリア合奏団と岡山バッハカンタータ協会によるヴィヴァルディの「グローリア」(マイスター・ミュージック)は、そのコーラスや弦楽器の質感がなんとも言えず好ましい。きめ細かく緻密だが重くはなく、艶やかだが刺々しくはなく、まさしくこれが古楽器と人の声なのである。瑞々しいがふやけてはいない。そして表情はしなやかに移り変わる。

反対にピアノは、こうした再現性とは逆の特質を要求する。柔らかくて当たりがいいだけでは駄目だ。外山啓介の「ショパン:バラード全集」(エイベックス)は、意外に線の太い厚手のタッチを持ち、打鍵の感触にも骨格の豊かさが感じられる。瞬発力に欠けることは少しもなく、フォルテの強靭なアタックも力強く把握するが、やや下寄りに重心を置いたのか豪快な印象が強い。余韻にまぎれて音が不明瞭になることはないが、腰を落とした鳴り方であるのは間違いない。

少し変わったところで、木管五重奏も大変魅惑的な再現を聴かせる。池田昭子クインテットによる「恋は野の花」(マイスター・ミュージック)がそれで、ファゴットとホルンの和音に乗ってフルートとオーボエが華やいだ気分のメロディを奏でる景色が、ちょうどステージを眺めるのと同じように見えてくる。楽器それぞれの音色も適確に描き分けられているが、余韻も含めて響きの出方が暖かく生々しい。ホールで聴くと本当にこういう風に聴こえるのだという実感がある、本機の最も目覚ましい瞬間のひとつと言っていい。

プリアンプにはラックスマンのプリアンプ最上位モデル「C-900u」を組み合わせた

オーケストラ(「ブルックナー:交響曲第7番/尾高=札響」フォンテック)は、やはりピアノと同じく、どっしりとした厚みに富んでいる。重苦しくはないが重量感にも溢れ、手応えのある再現を展開する。弦楽器や金管は澄んで切れがよく、立ち上がりのスピードにも不足しない。

ジャズ(「ジュビレーション」ウッディクリーク)は、余裕のある生き生きとした鳴り方をする。ウッドベースやキックドラムは深く沈んでにじみがなく、ピアノも軽快できっくりとしている。楽器それぞれのほぐれ方がよく、トロンボーンは柔らかく明るい。ちょうどいいバランスである。

ラックスマンだからこそ300Bの特質と十分な駆動力という“汎用性”を両立できた

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