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「イエスタデイ」を聴くだけでも価値がある

『ザ・ビートルズ 1』2015年版は何が変わったのか? 新リミックスされた全27曲を徹底解説

2015/11/06 大橋 伸太郎
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20. レディ・マドンナ(ステレオ)
この曲は初めてピアノが中心になったシングル曲である。ファッツ・ドミノ・リスペクトだからか。そのせいか2009年版まではビートルズステレオの中で特異なミックス。ピアノ(左)に押し出される格好で低音楽器(ベース、ドラムス)が右半分に定位していた。ただしシンバルは左という妙なミックス。これは2015年版でも変えなかった。ポールのお気に入りの曲で、これが決定版的バランスということなのだろう。

21. ヘイ・ジュード(ステレオ)
ピアノ右、アコギ左、ドラム左といった楽器の定位は同じ。センターのベースの量感が格段に増し、地響きのように歌い鳴る。

22. ゲット・バック(ステレオ)
リミックスの意図が鮮明なトラック。バンドサウンドへの復帰がテーマのセッションだったわけだが、2009年版までで左右にずれていた低音リズム楽器の縦の線、つまりリンゴのドラムとポールのベースがセンターでしっかり繋がった。ボーカルとベースもセンターで上下に定位するので、ポールがバイオリンベースを弾いて歌う姿が浮かんでくる。シンバルの「ジャーン」という響きも歪みが減り、硬質な迫力がある。

23. ジョンとヨーコのバラード(ステレオ)
この曲はジョンとポールの二人で多重録音した。ギターのオブリガードを左から右にパンしたりのお遊びは変えていないが、そうした音のエレメントが2015年版では切れ味を増した。ポールのベースの脈動感も躍進。

24. サムシング(ステレオ)
これと「カム・トゥゲザー」が8トラック録音。同時にモノミックスが存在せずリリース(LP/シングル)時からステレオのみ。元来完成度が高く定位はほとんどいじっていない。この曲はベーシスト志願者の教科書である。今回ベースの低音階の音圧がきれいに揃い、2009年版に増してベースラインが鮮明に聞き取れる。

25. カム・トゥゲザー(ステレオ)
ドラムが右、ギター左という、ビートルズとしては変則定位だが、2015年盤もこれは不動。名盤であり名録音なのでいじらなかったのだ。2015年版のジョンのボーカルは鮮度を一気に増し、奥行きのある音場にくっきりとした輪郭でシャウト。

26. レット・イット・ビー(ステレオ)
2009年版ではやや左に寄っていたピアノがセンターに定位し、ボーカルと重なって自然になった。ブリュートナー(ピアノ)の硬質な音色、ビリー・プレストンのオルガンの音色が鮮度と透明感を増した。ポールがピアノ担当なので、本来ここにはベースプレーヤーがいない。ジョンがその代わりを控えめにやっているのだが、2015年版では、それがポールのプレイのように厚く太く聴こえるのは違和感がある。

27. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード(ステレオ)
ポール脱退の原因の一つになった曲。英国のジャーナリスト、リッチー・ヨークはアメリカ人プロデューサー、フィル・スペクターが嫌いだからか「ピカソのデッサンにトマトケチャップを投げつけたような代物」とこきおろした。しかし、優れたオーケストレーションであることは事実。ポールがこの曲を現在ステージに掛けるときも、間奏部のアレンジはこれをそのまま使っているのである。ビートルズはこれ以前もレコーディングに弦やブラスを使ってきたが、これだけ厚いオーケストレーション(50人編成)はなかった。ここまで厚いとバンド演奏はカットしてもいいくらい。往時より賛否両論のオーケストレーションが、2015年版は格段に歪み・ノイズが減り、美しくビートルズの白鳥の歌(挽歌)を哀切に奏でる。

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