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「イエスタデイ」を聴くだけでも価値がある

『ザ・ビートルズ 1』2015年版は何が変わったのか? 新リミックスされた全27曲を徹底解説

公開日 2015/11/06 14:18 大橋 伸太郎
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『ザ・ビートルズ1』全27曲解説

『ザ・ビートルズ 1 + 〜デラックス・エディション〜』CD+2DVD ¥8,800(税抜・品番:UICY-77526)CD+2BD ¥9,800(税抜・品番:UICY-77527) ※完全生産限定盤

1. ラブ・ミー・ドゥ(モノ)
2. フロム・ミー・トゥ・ユー(モノ)
3. シー・ラヴズ・ユー(モノ)
以上モノラル、3曲を比較する。2015年版の方が音圧が大きい。ワイドレンジ化し、垂直方向の広がりがある。リマスターで不満だった高域(シンバル、ハーモニー)のシャリ付く歪みが改善されたことにより、シンバルは硬質な金属感が安定してくっきり表現される(シー・ラヴズ・ユー)。モノながら楽器の分離がよくなり塊感が消え、楽音の輪郭が鮮明で太くなりクリアになった。つまり、見通しがぐんとよくなった。

4. 抱きしめたい(ステレオ)
音圧は2015年版の方が大きい。楽器の定位はほとんど変わらない。クリアになり楽器の輪郭が鮮明になったのはモノラル楽曲と同じ。特にポールのベースが下に伸び、別物のように太くずっしりとした量感になった。

5. キャント・バイ・ミー・ラヴ(ステレオ)
これは激変。2009年版で左に定位したドラムとベースが中央へ、右だったジョージのソロも中央へ。シンバルが左右にきれいに広がる。プリアンプのモノスイッチを押してみると定位が同じ(笑)。

6. ア・ハード・デイズ・ナイト(ステレオ)
前曲ほどの変化はない。やや中央寄りに修正されたが、シンバルは左、ギターは右寄りに定位。前曲はシングル曲だが、これはアルバム曲。最初からステレオミックスがあるので極端な修正を避けたのか。

7. アイ・フィール・ファイン(ステレオ)
ドラム左、ギター右の定位は変わらないが、ベースが中央に移動。低音が伸び輪郭が引き締まり、弾力性を増し音程が鮮明化した。

8. エイト・デイズ・ア・ウィーク(ステレオ)
これまで手拍子のチャチャチャ以外、ジョンのリズムギター、ポールのべースは左に集まっていた。2015年版はベースが中央へ修正され、センターラインを強調。イントロの打楽器が強調され、しっかり右から音が出る。

9. 涙の乗車券(ティケット・トゥ・ライド)(ステレオ)
この曲は、もともとステレオ録音テクニックが進歩・消化され不自然さが減っているので、極端な修正ではない。ドラムは左寄りに定位、ベースは2009年版では左ドラムに寄り添っていたのが中央に移動し、どっしり構える。タンバリンは中央からやや右、ギターは右。

10. ヘルプ!(ステレオ)
ドラム左、ベース中央、ギター右の定位は変わらない。むしろ2009年版で不満だったシンバルのレベルがやや抑えられ、歪みっぽさが低減したことが大きい。

11. イエスタデイ(ステレオ)
元来がボーカル、アコギ、弦楽四重奏(左寄り)というシンプルな編成故、定位はそれほど変わっていない。チェロが従来中央右にオフセットしていたのが中央に修正された程度だ。しかしこの曲が今回の2015年版のうち、最大の聴き物である。ノイズフロアが下がり音場空間が深まりポールの声が素晴らしく生々しい。マイク越しに聴いているようだ。楽曲の彫りの深い陰影美、そしてポールの歌の上手さが際立ち、聴き惚れてしまった。これ一曲だけでも買う価値がある!

12. デイ・トリッパー(ステレオ)
2009年版は、ドラム左は共通だがギターがセンター(というか左右から鳴る、ツーコーラスへ行く前のインスト部は右)に定位した分、ボーカルコーラスが中央から右にオフセットして定位。これは2015年版も同じで、ビートルズステレオミックス中の異端といえよう。

13. 恋を抱きしめよう(ステレオ)
これも2009年版では、リズムギターのカッティングが左から出る分、ポールのボーカルが右寄りに定位していた。ベースが中央で声が右というのは変だ。2015年版はベースがやや左にオフセット。バランスはよくなったが、ポールのボーカルが右寄りにエネルギーがあるのでやはり不自然。ただしアコーディオンの音圧がやや高まり、ふくよかさを増した。

14. ペイパーバック・ライター(ステレオ)
これは激変した。2009年版で左から出力となっているイントロのジョージのリードギターが、2015年版はセンターへ移動した。セカンドコーラスへ移る前のコーラスのリバーブ量が増し効果を高めた。全体的にモノラルらしいまとまりに変わった。本曲もシングル曲。つまりキャピトル盤用のステレオミックスだった。

15. イエロー・サブマリン(ステレオ)
この曲はとてつもない激変を見せた。2009年版はボーカルが右から出て、左から出るアコギと掛け合いをやっていた。ドラムも左。それが2015年版はボーカルがセンターへ移動し、ドラムを含め全楽器がセンター近くに集まり(アコギは中央やや左)、効果音と吹奏楽が背後に広がるミックスに変わった。ステレオで聴くと別の曲と言っていい。アコギの量感も増した。

16. エリナー・リグビー(ステレオ)
これも大激変した楽曲。2009年版、というか元来のミックスは、ポールのソロボーカルが最初は右から出てBメロ(クラシックの第二主題)へ入るとパンニングでセンターに移動した。2015年版は最初からセンターで歌う。最後にコーラスとの掛け合いになり、ここのみ右へ行く。また、元来のミックスは弦楽四重奏(×2)がボーカルの代わりにモノっぽくセンターに集まっていたが、2015年版は弦楽四重奏本来のレイアウトで第一、第二バイオリン、ビオラ、チェロの順で左右に広がって定位する。旧盤まではポールの歌と弦楽四重奏のどっちが主役か分からなかった。それだけ実験的楽曲といっていいのだが、今回ポールがカルテットを従えて歌うオーソドックスなバランスに変わった。これも別の曲になったと言っていい。

17. ペニー・レイン(ステレオ)
元々楽器、ボーカルがセンターに集まっている自然なバランス。歪みが減り格段にクリアになった。鐘の響きが美しい。ポールのベースの低音の伸びは素晴らしく、太い芯を感じさせ、地響きのようだ。最近トランペットソロなしのバージョンが発見されたが、2009年版はトランペットソロが最初センターでやや右に移動し、終わり近くで左になるが、2015年版はセンターへ移動し、終結部で左へ移動する。

18. 愛こそはすべて(オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ)(ステレオ)
「LOVE、LOVE、LOVE」のコーラスの歪みが減り、メッセージソングらしさがさらに強くなった。聴こえにくかった弱音が存在感を増し、ピアノがはっきり聴こえる。バックのオケの弦がなめらかさを増し、音楽としての美しさが増した。でも個人的にはイントロの歪みっぽい「ラ・マルセイエーズ」の響きが好きだ。2015年版は音楽として立派過ぎる。この曲はある意味パンクでサブカル的なのだから。ポールのベースが音圧を増したが、これも違和感を覚えた。ここでのポールのベーシストの仕事は彼にしては平凡だし、この曲はお祭りであって、バンドサウンドを聴かせる曲ではないからだ。

19. ハロー・グッドバイ(ステレオ)
1966年までのステレオミックスの定型であるドラム左、ギター右というミックスで、2015年版も修正をしていない。格段に歪みが減り低音の支えがしっかりして、この曲の特徴のアイリッシュダンス風味が増した。

次ページまだまだ続く全曲解説

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