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【連載】山之内正のオーディオ・アナリシス

「衝撃的なほど生々しいサウンド」。DSDライブストリーミング公開実験の舞台裏

公開日 2015/05/08 12:16 山之内 正
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1週間後、今度はベルリンのフィルハーモニーホールで行われたベルリンフィル定期演奏会のDSDライヴ中継を聴く。再生に用いたパソコンとUSB-DACは自宅システムと同様だが、ここでは出張先の限られたネット環境での試聴となった。実効速度は今回の実験の条件として公表された数値の3分の2程度しか出ていない。音が途切れずに再生できるかどうか、かなり不安な状況だ。

最初に2.8MHzでつなぎ、途切れなく再生できることを確認したあと、5.6MHzにおそるおそる切り替えてみると・・・・・・不安は杞憂に終わった。約2時間の配信中に1回だけ音が一瞬途切れたものの、それ以外はトラブルと無縁の安定した再生を行うことができた。おそらくネットの速度に余裕があれば、5.6MHzでも完全に途切れなく再生できたと思われる。

KORG「PrimeSeat」でベルリンフィルによる5.6MHz DSDライブストリーミングを視聴している画面


PrimeSeatの設定画面

ライブ/オンデマンドで視聴可能なコンサートの一覧を表示しているところ

それ以上に衝撃的だったのは、再生システムから流れてくる音の圧倒的な生々しさである。今回のプログラムはベルリオーズの『ファウストの劫罰』全曲という大作で、管弦楽と合唱、独唱が織りなす音響的スケールの大きさが際立っている。そして、フィルハーモニーホールがそのまま引っ越してきたような立体的な音響空間。ベルリン19時、日本は深夜2時という時間帯にも関わらず、音の鮮度の高さにびっくりして、すっかり目が覚めた。

ベルリンフィルのデジタル・コンサートホールはライヴやアーカイヴで何度も体験しているが、ここまでの臨場感を体験するのはさすがに難しい。それは、演奏会が始まる15分ほど前の会場の生音を聴いただけですぐに実感した。同じライヴストリーミングでも、いつもとは明らかに空気が違う。客席の話し声やステージ上の物音が驚くほどリアルで、約9000kmの距離を隔てているとは、とても信じられない。マルグリート役のディドナートがソット・ヴォーチェで歌う繊細な表情やファウスト役カストロノーヴォの張りのある音色は、ロッシー音源はもちろんのこと、CDスペックでも表現できない領域だ。

自宅でのDSDライブストリーミング試聴には、ソニーのポータブルヘッドホンアンプ/USB-DAC「PHA-3」を用いた

ここまでリアルな音が聴けるなら、「デジタル・コンサートホール・プレミアム版」として追加料金を払っても構わないので、できるだけ早い時期にDSDライヴストリーミングを導入して欲しいと思う。映像が付いていれば文句なしだが、たとえ音声だけでも、これまでのリスニング体験を大きく上回る感動が待ち受けている。

音楽再生環境の未来に大きな影響を与えるからこそ、さらなる検証に期待したい

自宅に戻ってから、今度はオンデマンド配信でベルリンフィルの演奏を聴き直した。いつもの再生環境で聴いてあらためて感じたのは、録音された音源にも関わらず、ライヴ配信のときとほとんど印象が変わらないという点だ。既存のライヴストリーミングでは多かれ少なかれライヴとアーカイヴの違いに気付かされることが多いのだが、DSD配信は両者の差がきわめて小さいと感じる。

そうした差が生まれる理由がどこにあるのか、十分な検証が必要だと思う。演奏の躍動感とコンサート会場の空気感を忠実に伝えるシステムをネット上に構築できるかどうかは、近未来の音楽再生環境の動向に大きな影響を与える。今回の公開実験が成功したことは、ライヴストリーミングの成否という枠を超えた深い意味を持っているのだ。

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