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【連載】山之内正のオーディオ・アナリシス

「衝撃的なほど生々しいサウンド」。DSDライブストリーミング公開実験の舞台裏

公開日 2015/05/08 12:16 山之内 正
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5日に東京文化会館で行われた『東京・春・音楽祭』のプログラムは、《古典派》〜楽都ウィーンの音楽家たち〜というテーマでウィーンに縁のある作曲家の作品を室内楽形式で演奏するスタイル。ハイドンやモーツァルトの交響曲やヘンデルの声楽曲をピアノを含む小編成で再現するスタイルは、小ホールの親密な空間にぴったりで、ほぼワンポイントのシンプルなマイク配置との相性も抜群だ。

そのリアリティは未体験の領域と言わざるを得ない

小ホールの音響を確認したあと、別室に用意された再生システムでライヴストリーミングの音を聴く。まず、チューニングの音が鳴り始めただけで部屋の空気が一変した。コンサート会場と同じ心地良い緊張が身体を包む。そして、演奏が始まると、そこには背筋がゾクゾクするような圧倒的体験が待ち受けていた。あまりのリアリティにマイクの出力をそのまま聴いているかと勘違いしてしまったのだが、実際には、ストリーミングの音なのだという。ピアノもフルートも弦楽器も、いままさに目の前で音を出しているようにしか思えない現実感があり、奏者のブレスなど、パッケージメディアでは聴いたことのない生々しさも未体験の領域と言わざるを得ない。

東京文化会館内に設けられた試聴ルーム。スピーカーにはソニー「SS-AR2」が用意された。アンプは同じくソニーの「TA-A1ES」を使用

信号の流れはこうだ。まず、マイクの出力をUSBインターフェースとエンコーダーでリアルタイム処理。それをインターネット回線でHTTPサーバーにアップロード。そして、再びインターネット経由で受信した信号をパソコンでデコードし、USB-DACで再生して聴くというプロセスを経ている。スムーズな信号処理のために約1分のバッファを介しているとのことだが、ほぼリアルタイムと言って問題ないだろう。むしろ、それだけの処理を僅か1分ほどのバッファで実現していることに注目する必要がある。

ソニーのUSB-DAC内蔵アンプ「UDA-1」(中段)とパソコンを組み合わせてDSDライブストリーミングを再生しているところ

こちらはKORGのDSD対応USB-DAC「DS-DAC-100」を使って再生を行っているところ

今回、ソフトウェアを開発したコルグの大下氏は、既存のエンコーダーや再生ソフトの動作を軽くすることに取り組んだという。さらに、通信回線を受け持つIIJは欧州のサーバーの動作に最適なチューニングを施し、タイムラグや不安定な動作を極力排して、安定した再生環境の実現を目指した。今回の公開実験ではそうした努力が実を結び、鮮度の高さと安定した再生環境を両立させることに成功したのである。

自宅環境で改めて確認した圧倒的な生々しさ

東京・春・音楽祭のオン・デマンド配信も、自宅の再生システムで試聴した。手持ちのWindowsパソコン(インテルCore i5 2.6GHz、メモリ4GB)に前述のPrimeSeatをインストールし、ソニーのPHA-3を接続した一般的な再生環境である。スピーカーに加えてヘッドホンでも再生してみたが、特に5.6MHzの音源はライヴに遜色ない空気感があり、奏者との距離や楽器の配置が目に浮かぶような生々しさがある。フルートの息の勢いや弦楽器の倍音が生む柔らかさなど、オーディオ装置を介した再生では伝わりにくい要素も確実に聴き取れる。その圧倒的な現実感はPCMではなかなか体験できないもので、原音に忠実なDSDのアドバンテージを実感することができた。

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