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3名の評論家がその実力へ徹底的に迫る

“ソニー史上最高の音再現力“のモニターヘッドホン/イヤホン「MDR-Z1000/EX1000」登場

公開日 2010/12/06 12:00
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文 / 山之内 正(プロフィール

■アーティストが今そこで弾いているような鮮度の高い音で鳴ってくれる

MDR-Z1000は従来の密閉型のイメージを覆す軽さと自然なフィット感が心地よさを与えてくれる。ところが、音が出た瞬間、今度はダイレクトで力強い音のプレッシャーに圧倒され、別の意味の心地良さが訪れた。余分なものが間に介在しないストレートで粒立ちの良い音は、まさにスタジオ仕様。楽器やボーカルの実在感は群を抜いていて、抜けの良さが実に気持ちいい。

パッド内のクッション材に低反発ウレタンを採用した「ノイズアイソレーションイヤーパッド」などによる自然なフィット感も魅力のひとつ

最初に聴いた『ムジカ・ヌーダ』はイタリアのデュオで、力強く個性的なベースとボーカルでおなじみの曲から新鮮なイメージを引き出すのが得意だ。MDR-Z1000で聴くと、弦の張りが強いウッドベース特有のタイトな発音、リリースの速いタッチが非常にリアルで、リズムがまったく緩みを見せない。ペトラ・マゴーニの限界を感じさせない高音域の伸びは圧巻で、声の輪郭はまったくにじみがない。最高音域まで芯がある声の音色を正確に再現しているので、ヒステリックな細い音にならず、どんなに高い音でもしっかり量感と温度感が伝わることにも感心した。

ベースに余分な付帯音が乗らないので、ジャズの名盤を聴いてもサウンドに古さを感じさせないのがいい。ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』はその好例で、エヴァンスのピアノ、ラファロのベースが、今そこで弾いているような鮮度の高い音で鳴ってくれる。小さめの音量で聴いてもベースラインが曖昧にならないのは、各楽器のセパレーションが優れていることに理由がありそうだ。モニター用途を想定したヘッドホンなので大音量に強いのは当たり前だが、小音量でのダイナミックレンジの広さは、鑑賞用途で大きくものをいう。

製品を試聴する山之内氏

ダイナミックレンジの広さを体感するにはオーケストラやオペラを聴くのが早道だ。ほとんど無音といっていいピアニシモから始まるシベリウスの『ヴァイオリン協奏曲』(独奏:ヒラリー・ハーン)を聴くと、まずは冒頭の微弱なトレモロの動きが正確に聴き取れることに気付く。

そして、次第に音数が増えてエネルギッシュなクレッシェンドからフォルテシモにいたると、オーケストラのなかから湧き上がるようにエネルギーが溢れ、雄大なスケールのサウンドが広がっていく。弱音の領域のグラデーションの豊かさも見事だが、爆発的大音響でも飽和しない余裕はちょっと他の機種では真似のできない領域に入っていると感じた。ソニーの歴代モデルと比べても、確実にゆとりが生まれている。

オペラは『ラ・ボエーム』(独唱:ネトレプコ、ビリャソン他)を聴いた。プッチーニの書いた管弦楽は音色の幅が広く、サウンドが強靱だが、それに拮抗するソプラノとテノールのエネルギーの密度の高さが素晴らしい。この二人が声の限界をきわめて歌う二重唱など、ヘッドホンで聴いていることを忘れさせるようなパワーと力強さがある。声と楽器の響きが溶け合うブレンド具合と、空間の広がりの大きさも聴きどころだ。

■チェロの響きはインナーイヤー型とは思えないほどの深み

MDR-EX1000は、MDR-Z1000に比べて音色に適度な厚みと柔らかさが加わり、特にクラシックとの相性の良さが際立っている。ソル・ガベッタが独奏を弾いたエルガーの『チェロ協奏曲』では、豊かなホールトーンに包まれたオーケストラの柔らかく一体感のある響きと、その柔らかいハーモニーと自然に溶け合うチェロの音色の美しさに感嘆した。

私が使ったMサイズのイヤーピースはちょうどよいサイズのおかげで高い遮音性を発揮し、独奏チェロがピアニシモで演奏するフレーズでも驚くほどニュアンスは豊かだ。微妙な音色のコントロールを隅々まで聴き分けられるし、弓の圧力やスピードの違いは音に含まれる空気の感触で聴き取ることができる。

チェロのC線の響きはインナーイヤー型とは思えないほどの深みがあり、オーケストラの低弦は意外なほどオープンな空気感をたたえている。音が出る瞬間のフワッとした空気の押し出し感は、大口径のオーバーヘッド型ヘッドホンに通じるものがある。

試聴の様子

ヘンデルの『メサイア』(ジョン・バット指揮、ダンディン・コンソート合唱)では、合唱のセパレーションの高さが聴きどころだ。この演奏は通常の演奏に比べて編成が小さいこともあり、合唱部分においても一人ひとりの声の特徴を聴き取れるほど、透明度の高い響きを作り出している。

MDR-EX1000はそうした演奏の特徴を正確に引き出しており、独唱と合唱のバランスも忠実に再現する。各声部のバランス、オーケストラと声楽陣のバランスにまったく違和感がないのは、このイヤホン自体の周波数バランスが優れているためだろう。ヘッドホン/イヤホンはスピーカー以上に製品ごとの周波数バランスの偏差が大きいのだが、MDR-EX1000はその点でも不満を感じることはない。

キャスリーン・バトルの『ソー・メニー・スターズ』は、クラシックのソプラノ歌手がジャズのテイストでおなじみの曲を歌った珍しいアルバムだ。特に、いろいろな打楽器を巧みに生かしたアレンジが秀逸で、すべての音を正確に再生すると、曲ごとに変化のある彩り豊かなサウンドを楽しむことができる。

MDR-EX1000はピアノやギターを透明感の高いサウンドで再現することに加え、パーカッションの音色、距離感、質感をきめ細かく再現し、このアルバムの魅力をフルに引き出してくる。そして、肝心のバトルの声は絹のように柔らかくしなやかな質感をたたえていて、高音部までその質感を失うことがない。音色が美しいことにかけて、この人の右に出るソプラノはいまでもそう多くはないが、その美声の特徴をここまで精妙に再現するイヤホンは希少な存在というべきだろう。

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