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山之内 正が技術と画質を徹底検証

「クアトロン」の衝撃 − “液晶のシャープ”が起こした「50年ぶりの革命」の真価とは

公開日 2010/06/07 11:01 山之内 正
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読者の最大の関心は、クアトロン技術を導入したモデルの画質が具体的にどう進化しているか、という点だろう。ここからはLX3ラインとLV3ラインの代表機種について、筆者が見た試作機の印象を紹介することにしよう。

なお、新製品群の仕様や機能については関連記事を参照していただくことにして、ここでは「クアトロン」の第一印象に的を絞ってレポートする。

■色数が多いのに抜けが良い、清新でリアルな映像

RGBにYを追加することによる画質メリットのなかで一番大きなものは、再現可能な色領域の拡大である。具体的にはイエローとシアンが対象となり、それぞれの領域で顕著な差を見出すことができる。

シャープが用意したデモンストレーション映像からは、花や風景のなかに浮かぶ鮮やかな黄色、吸い込まれるような青緑色が目に飛び込んでくる。同じ被写体をLX1ラインの映像と比べてみると、黄色や青が明らかに濃密さを増し、色純度が上がっていることがわかるし、同じ黄色や青色のなかでのグラデーションをきめ細かく再現していることにも気付く。

従来の3原色パネル(左)と4原色パネル(右)の映像比較。発色の良さが全く異なることが一目で分かる

LV3ラインの実際の映像。青空と黄色い花の発色の良さはこれまでの3原色テレビと一線を画している

濃密な色再現という表現を使うと、こってりとした質感を想像するかもしれないが、実際の印象はそれとは逆で、透明感が高く、くすみやにごりが非常に少ない。こってりというよりは、むしろすっきりとした印象の方が強いほどだ。色が濃いのに抜けが良い色再現は、これまでディスプレイで見慣れた色彩とはタッチが異なり、とても新鮮な印象を受ける。記憶色特有の鮮やかさと言っても間違いではないと思うが、感覚的にとてもリアルに感じることは事実だ。

■金色の深みのある光沢を製作者のねらい通りに再現

同じ色のなかでのテクスチャーの豊かさについては、黄色やシアンにとどまらず、様々な色で従来との違いを確認することができる。

最もわかりやすい例は金色で、金管楽器の艶やかで深みのある光沢などは誰の目にも違いがはっきりしている。私たちの身近に存在する色のなかで、テレビでの再現が難しい色の一つが金色なのだが、身の回りにたくさん存在するだけに、その違いには敏感に反応する人が多い。

具体的な例を挙げておこう。有名なニューイヤーコンサートの舞台、ウィーンの楽友協会大ホールの映像を見る。彫刻を施した著名な黄金色の柱が映し出されているが、この色が、実際の金色にかなり近い輝きを再現していることに気付く。このホールの演奏会はポスターまで金色で統一し、ゴールドを象徴的に扱っているのだが、それだけにオーストリア放送協会(ORF)製作の映像でも、金色の輝きにはこだわりがある。本機が描き出す質感は、そうした製作者の狙いを忠実に伝え、強い説得力がある。

■肌色の柔らかな印象を的確に再現 − 精細感向上効果も顕著

金色とは別の意味でクアトロンの効果を実感させるのが肌色である。肌色と一口に言ってもその範囲は非常に広く、色の成分はそれぞれ微妙に異なるわけだが、クアトロン搭載モデルは、かなり幅広い領域の肌色について、階調の柔らかさを引き出すことに成功している。シャドウ部も含めて非常に柔らかい質感があり、ハイライトから暗部に至るレンジも広い。特にシネマモードで見たときのしっとりとした質感は、これまでのテレビでは再現が難しかった微妙なタッチを巧みに引き出している。

「クアトロン」はイエローを追加することにより、3原色ディスプレイに比べて画素構成が細密になっている。それを利用したサブピクセル制御による精細感の向上については、映像のこの部分、という形で指摘することはなかなか難しいのだが、たとえば木々のある風景など、ランダムなディテールを含む映像で、明らかな抜けの良さを感じる。実際の製品が登場した段階でじっくり検証してみたい技術の一つである。

4原色サブピクセルを利用した精細度向上技術の例。写真はオフ

こちらが精細度向上技術オンの映像。ディテールが克明に浮かび上がり、なおかつ自然さもキープしている

■通常のリビング環境で楽しめる明るい3D映像

「クアトロン」搭載AQUOSにおけるハイライトは、やはり3D映像の明るさがもたらすインパクトの大きさだ。専用メガネを使うこともあり、一般的に「3D映像は暗い」という印象を拭い去ることは難しいのだが、シャープの3D映像についてはその例外とみなして良いだろう。

かなり明るめのリビングに相当する環境で、映画を含む複数の3Dコンテンツを視聴したのだが、端的に言って、絶対的な明るさの不足を感じることはなかった。CGやスポーツの映像でコントラスト不足に悩まされる心配もない。

LV3ラインに同梱される3Dメガネ。これを通してみても2D映像と同等の明るさを確保できる

もちろん、2D映像とは異なる3Dならではの没入感を追求するなら、できるだけ大きな画面サイズを選んだ方がいい。その点は他社の3Dテレビと同様だが、普通のリビングルームの環境で楽しめる明るさを確保していることについては、いまのところ明らかにシャープが優位に立っている。

■3Dにも4K2Kにも関わる本質的な画質改善技術

液晶テレビ市場を牽引するシャープが、同社の液晶生産において中核技術となったUV²A技術を基に、「クアトロン」のように本質的な画質改善技術をこの時期に導入した意味は非常に大きい。試作機の映像を見て、その印象をさらに強くした。

テレビの進化は再び速度を増し、2Dから3Dへと向かう流れに加え、4K2Kなどさらなる高精細化を志向する動きも具体化し始めている。「クアトロン」はそのどちらにも関わりがあり、進化を加速させるポテンシャルを持っているだけに、今後の展開も含め、目を離すことができないのだ。

山之内 正
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻し、在学中よりコントラバス演奏を始め、東京フィルハーモニー交響楽団の吉川英幸氏に師事。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。

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