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日本、そして世界に届けるために

世界1億世帯以上が見るNetflixのアニメづくりとは? 『テルマエ・ロマエ』ヤマザキマリなどがトーク

2020/10/27 編集部:押野 由宇
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Netflixは、2020年後半〜2021年配信作品の最新情報を発信する『NETFLIX アニメフェスティバル 2020 〜君とみるアニメの未来〜』を、本日10月27日に開催。新規作品の発表とともに、Netflixが力を入れるアニメ作品の展開について語られた。

Netflix アニメチーフ・プロデューサーの櫻井大樹氏は、イベントにおいてNetflixアニメの歴史を「2016年の『BLAME!』がNetflix初のアニメーション映画作品。まだ映像配信サービスがここまで認知されていなかったころに、我々を信じてコンテンツを預けてくださったパートナーの方々にはとても感謝している」と振り返った。

櫻井大樹氏

「2017年にはネトフリアニメ クリエイティブ チームが日本を拠点に始動し、いまでは11人がメンバーで、Netflixが手がけるアニメを模索している。2018年にはProduction I.G、ボンズと包括的業務提携を結んだ。Twitterではネトフリアニメ部を開始し、AnimeJapanにも初出展した。2019年にはアニメ制作会社との提携を拡大。仏アニメーションアカデミーのゴブラン校との提携も行った。そして2020年は日本を代表する6名のクリエイターや、制作会社とのパートナーシップを拡大。日本やアジア圏、世界に向けて皆様に楽しんでいただける作品を届けることがミッションと考えている」

またNetflixのアニメ展開が世界的に人気を博していることのサンプルとして、全世界1億以上の世帯がアニメを再生していることを紹介。これは前年から50%増加したものとなる。さらに約100の国と地域でアニメ作品が視聴ランキングTOP10にランクインしており、日本ではNetflix加入者の約半数が、アニメ作品のおよそ1シーズン分である5時間程度、1ヶ月のなかでアニメの視聴に費やしていることを発表した。

世界で1億以上の世帯がNetflixアニメを視聴している

日本、そして世界に目を向けたアニメ制作

イベントでは漫画家・随筆家のヤマザキマリ氏、『スプリガン』の制作を手がけるディヴィットプロダクション プロデューサーの田中修一郎氏を招いたトークセッションも開催された。司会は映画解説者の中井圭氏が勤めた。

左から中井圭氏、ヤマザキマリ氏、田中修一郎氏、櫻井大樹氏

漫画家・アニメ制作の世界を目指すきっかけについて、ヤマザキマリ氏はもともとイタリアで美術を勉強していた際に、イタリアではカーニバルでルパン三世のコスプレが町中に溢れるほど日本のアニメが人気があり、イタリア人から漫画を描いてみたらどうかと勧められたと語る。滞在時は日本のアニメをイタリア語で視聴しており、吹替版の主題歌も歌えるそうだ。

田中氏は学生時代に演劇をしており、エンターテインメント業界に関われるようトイメーカー、ゲーム会社と渡り歩いたが、そこでの仕事は事業という感じがしていたという。一方で傍らにあるアニメが、「もちろん商業作品ですが、外からだと自由に見えていた」こともあり、2005年に縁があってタツノコプロに入ったのがキッカケと述べた。

テーマが「アニメ制作の現状」に移ると、田中氏は「With/アフターコロナで、どういった作品を作っていけばいいのかは、各クリエイターたちも考えている」とアニメ制作の現場でも新型コロナウイルスの影響があるとした。そのうえで、「『スプリガン』はコロナの前から企画・制作を進めているが、日本国内だけではなく世界を舞台にしたファンタジーを届けられるのは結果としてよかったと思う。日常とかけ離れたところに連れて行ってくれる作品が増えるのでは」と述べ、ヤマザキマリ氏もそれに同感した。

テーマに沿ったトークセッションを実施

Netflixとの取り組みについてヤマザキマリ氏は、「いままでは翻訳されないと漫画を届けられなかったが、これからは世界のことを知って、伝え方を考えるようになる。日本の人しか見ないからこれでいいんだ、ではなく、価値観の違いなども考慮して、惰性で作っていけばいいということがなくなる。見る方も想像力を問われるというステージになる。Netflixが分断していた地球を共有観念、良識で1つにまとめることができるきっかけになるかもしれない。いい刺激です」と、広く世界に向けたサービスであることが与える影響について触れた。

一方で田中氏が「1億以上という世帯や約100カ国というあまりにも大きな世界に、どう届ければいいのかを模索している。逆に、まずは日本という目線で作っていくというのもいいかなと考えている」と述べると、櫻井氏は「2人の話していたことは腑に落ちる。あえて“世界に向けて”をことさらに意識しなくていいけれど、クリエイターがそうしたい、ということは推奨したい。これまで日本のマーケットに向けて作っている、と思い込んでいたが、世界に目を向けることができるようになった」と双方の意見を受けてコメントした。

最後に未来に向けた展望として、「アニメの未来は〇〇だ」をそれぞれがフリップに書いた。櫻井氏は「無限」とし、「アニメがTOP10入りすることが話題になるが、アニメが特別なものではなく実写などと同じように扱われるようになるのでは」と考えを述べた。

田中氏は「ボーダレス」とし、「国際化というボーダレスもあるが、例えば監督が脚本も書く、というようなクリエイターのボーダレス化がある。そこから生まれるものを支えるスタジオになりたい」とコメント。

「アニメの未来は〇〇だ」の穴埋めに櫻井大樹氏は「無限」、田中修一郎氏は「ボーダレス」と回答

そしてヤマザキマリ氏は「世界が共有するコミュニケーションツール」であるとし、「どこにいってもあのアニメがね、という会話ができる。Netflixというプラットフォームを通じて、それがどんどん顕になっていく」と考えを示した。

ヤマザキマリ氏は「世界が共有するコミュニケーションツール」と答えた

長く見続けられるアニメにするために

また、イベント後にはプレス向けラウンドテーブルが実施され、3人がプレスからの質問に答えた。

世界に目を向けたコンテンツとしての構想を問われたヤマザキマリ氏は、「アニメ『テルマエ・ロマエ』で描き下ろしている物語には、原作でやりたかったけどできないものがある。例えば現代より少し前の時代にタイムスリップするということがそれで、現代だけでなく、過去の日本ではどういうふうにお風呂にこだわっているのか、ということを皆さんにお伝えできるのではと考えています。でも無理に膨らませて、平たい顔をさらに平たく、など世界向けだから、と考えているということはありません」と回答して会場の笑いを誘った。

田中氏は配信というサービスを展開するNetflixだからこその特色として、「配信でアニメが流れるようになってきて、ロングテールと呼ばれる作品が見られる期間がすごく長くなる」と話す。「5年後、10年後、30年後にもNetflixで見られるというところまで含めた仕上げ方を考えています。HDRやドルビーアトモス音響への対応など、将来的にも見続けられるような技術を導入してコンテンツを作る、ということが強く感じられた」というように、最新フォーマットへの対応についても触れた。

Netflixでは4K HDRアニメ『Sol Levante』を配信している。これは「世界から愛される日本のアニメコンテンツを、新しい技術と組み合わせてクリエイターとともに発表したい」という理念からスタートしたプロジェクトで、2年をかけてハイクオリティな作品が制作されたが、そこではノウハウとともに、必要十分なスペックのハードを揃えることも課題として挙げられた。

オリジナルアニメ制作における予算規模について、櫻井氏は「ぼくらが目指している映像のクオリティと期間に必要なお金はすべて負担します」とクリエイターに話しているという。そして田中氏も「最も大きい予算をもらえている。だからこそ、ハードルも自ずと上ってくる。そのチャレンジの過程において、社内のシステムを変革していけるかもしれない。これからの作品に活かせるインフラを、作品とともに作っていける」とNetflixとの取り組みがアニメ制環境の発展につながる可能性を語った。

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