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2年を掛けて制作されたハイクオリティ作品

4K HDRアニメは「宝の山」、観るなら“鬼ループ”推奨。Netflixオリジナル『Sol Levante』試写会レポート

公開日 2020/03/30 16:26 編集部:押野 由宇
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4K HDRによる手書きアニメプロジェクト、『Sol Levante』。4月2日の16時より世界190カ国で配信されることが決定した本作の、試写会が実施された。その模様をレポートしたい。

『Sol Levante』試写会レポート

『Sol Levante』は2019年夏に制作が発表され、2020年頭についに完成。映像・音のクオリティにおいて、従来より一段高いレベルでの追求がなされたオリジナル作品となっている。

『Sol Levante』場面写真

『Sol Levante』場面写真

ではどの点が違うのかといえば、4K HDRにて制作が行われているということ、そして4K HDRを前提として、映像や音がクリエイティブされていることが挙げられる。Netflixでコンテンツ制作の可能性を研究しているクリエイティブ・テクノロジーチームのエンジニア 宮川 遙氏は、Netflixのミッションを「制作者に喜びを」「視聴者に最高のユーザー体験を」と考えており、取り組みを行っていると語る。

Netflix クリエイティブ・テクノロジーチーム エンジニア 宮川 遙氏

Netflixでは、2015年より4K解像度の配信を開始し、2016年からはHDR配信にも対応。2017年は立体音響技術Dolby Atmos(ドルビーアトモス)に対応し、没入感、臨場感あるオーディオ配信を実現した。「こうした環境をどのように利用するかはクリエイター次第。どれだけ細かく描くか、幅広い色域・明暗に対してどの色をどのように使うかはクリエイターの自由」であるとして、最新技術が活かせる環境を用意している。

実写作品はすでにNetflixにて、ドラマや映画、ドキュメンタリー、バラエティ番組でも4K HDRを採用したものが配信されてきた。しかし、日本のアニメは手描きであることや、制作環境のハードといった問題もあり、4K HDR制作を実現することが難しかったという。その上で、「世界から愛される日本のアニメコンテンツを、新しい技術と組み合わせてクリエイターとともに発表したい」という理念が『Sol Levante』プロジェクトのスタートとなった。

『Sol Levante』の監督・演出を務める齋藤 瑛氏と宮川 遙氏による対談も行われた。齋藤監督は『イノセンス』をはじめとした押井守作品の最終クオリティを作り上げるポストを歴任してきた人物だ。プロジェクトは、齋藤監督率いる少人数の経験豊富な制作チームにより手がけられている。

齋藤 瑛氏

『Sol Levante』は2年間を掛けて制作された作品だ。その作業は手探りで進んできたが、作品が完成しての感想を問われると、齋藤監督は「『Sol Levante』では4K HDRの可能性の一部を提示しただけで、4K HDRはまだまだ宝の山だな、と思います。次はこんなことができるのでは、とどんどん考えてしまう。配信サービスで質の高い映像を提供できることの意義がますます高まるなかで、自分たちも頑張らないといけないと日々話し合っています」と答えた。

試写会では齋藤 瑛氏(右)と宮川 遙氏(左)の対談も行われた

そして実作業においては「新しいツールを持つことに抵抗があるクリエイターは多いと思いますが、ストレスのないハード環境を揃えることができたので、水を得た魚のように作業が進められた」という。「日本のアニメはもともと非常に細かく描かれている。4K HDRでの制作環境が整えば、それをネイティブで出すだけであり、そこまで作業において苦労することはないのではと思う」と述べられたことから、クリエイターのレベルの高さがそのまま活かせるのも4K HDRアニメの特徴と言えそうだ。

その一方で、「4K HDRで制作するベストといえる環境までは見いだせなかった。この点は、時間的にもクオリティ的にも、今後の課題」として、必要十分なハードを揃えることのハードルの高さも課題に示された。それぞれの作業担当者に求められるスペックや、プロのクリエイターが必要とする水準を備えたモデルを精査することは、労力としてはもちろん、費用的にも負担は大きい。制作会社が一斉に導入するというわけにはいかないだろう。

また解像度が上がることの負担がないということではない。具体例として、キャラクターの胸部にあるプレートから映像がスタートして、画面を引いていって頭から腰下までをワンカットに収めるシーンにおいては、「最初のプレートが4Kなので、引いた全体イメージはどれだけサイズの大きなものになるのか。以前、地下鉄の通路の壁一面に『攻殻機動隊』の絵を載せるという際には1万ピクセルだった。このワンシーンは2万ピクセルを超えるサイズで、もしかすると学校の校舎の壁を埋められるかもしれない」ものだという。それを24fps(1秒あたり24コマ)で制作するため、カットアウトなどを駆使して作業は進められた。

胸部のプレートのアップからスタートして引いていくような映像では、全体イメージのサイズは膨大になる

それ以外にも、4Kではこれまで意識してこなかったような微細な線の表現が可能なことから、アニメーターの江面 久氏は、キャラクターを描く上での筆圧を調整。通常よりやや柔らかいタッチにしたほうが説得力のある絵になると結論づけた。さらにHDRにより、エフェクトを使わずに色だけで、これまで叶わなかった表現が可能となったという。

線の異なるパターンを用意して検討を重ねて、4K HDRに向くタッチを探した

サウンド面でも工夫が多い。『Sol Levante』はドルビーアトモスが採用されており、米国を拠点とする音響チームが初期工程から参加している。サウンドクリエイターもまた、制作自由度が上がり、また映像意図を理解することで、例えばあるシーンではトランペット担当の人間が演奏しながら立ち上がり、主人公の目線とシンクロするように音の位置が移動する、といったアイディアを実現することができるようになった。

こうしたノウハウを蓄積していくことも、本プロジェクトの目標の1つだ。プロジェクトはオープンソースとして扱い、配信とほぼ同時期に、実際に仕上げで作られた非圧縮の連番画像やProToolsの設定などをダウンロードできるようにする。

『Sol Levante』プロジェクトのノウハウは、オープンソースとして広く公開される

精鋭チームがチャレンジを繰り返して制作を進めた『Sol Levante』プロジェクトは「4K HDRのPRを兼ねていると思っているので、 “4K HDRはこの程度なんだ” と思われたくなかった」と齋藤監督。限界まで挑んだという4K HDRアニメだが、「また機会があったら、シンプルなものをやってみたいなと思いつつ、『Sol Levante』とは別の魅せ方でのハイクオリティを追求したい」と、まだまだ意欲を見せる。

そして視聴者に対しては、「4KやHDRという技術的な部分より、ただただ観て、感じてほしい。映像も音も、一度観ただけでは受け止めきれない情報が入っている。ぜひ “鬼ループ” してほしい(笑)。これが次世代の映像なのか、と楽しみになっていただけると思う」とコメントした。

最後に記者が視聴した感想を簡単に。アニメの映像クオリティが上がっていくと、新海誠監督作品のような “実写と見紛うばかり” のものになると思っていた。しかし、『Sol Levante』は違った。美麗なイラストがそのまま動き出したようだ。 “絵” のテイストはそのままに、これほどまでに微細な線と、豊かな色をアニメとして表現できるのかと度肝を抜かれた。

4K HDRテレビ(右)とマスターモニター(左)で視聴

『Sol Levante』はエンドロール含めて全編約4分の作品だが、見どころが多すぎて脳の処理が追いつかない。まずぼんやりと全景を眺め流れを掴んだら、次は流れる髪の毛や目の光を、次は背景を、またキャラクターに戻って、今度は音楽を、というように何度でも観ていられる。

『Sol Levante』場面写真

『Sol Levante』場面写真

いち視聴者としてはまず、『Sol Levante』を短編映画として観てみたい。また先述のようにハードなどの問題があるとしても、環境が整いさえすれば、各社のアニメが4K HDRで制作されることも夢ではないはずだ。様々なクリエイターの才能が、よりダイレクトに感じられる4K HDRアニメの発展が楽しみでしょうがない。

【オリジナルアニメ『Sol Levante』Introduction】
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『Sol Levante』場面写真

『Sol Levante』場面写真

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