折原一也氏が語る − 愛機“Xビデオステーション”の使いこなしから考える「未来の録画機の条件」

2008年08月12日
筆者が所有するAV機器の中で、最も長い間愛用している製品にソニーの“VAIO Xビデオステーション”がある。本製品は2005年に発売された、アナログ8chが同時に録画できる機能を搭載したPC製品だ。現在は生産を完了しており、アナログ放送のみの対応であるため、2011年のアナログ放送終了時には影響を受ける製品である。このごろ地上アナログ放送の番組に「アナログ」のロゴマークが表示されるようになったが、筆者はアナログ放送終了の日まで、本機を徹底的に活用していきたいと考えている。


筆者宅にて現役の録画機として活躍する“Xビデオステーション”
普段からBDレコーダー3台体制でハイビジョン録画環境を整える筆者が、なぜここまでXビデオステーションにこだわるのか。それは、Xビデオステーションは、「テレビ放送を楽しむ」という行為について、筆者に"ある一線”を踏み越える感覚をもたらしてくれた唯一の製品であるからだ。


テレビ番組の録画には「時間の制約」と「場所の制約」がある

「テレビを楽しむ」という文化のはじまりは、その放送開始に遡ることができる。国内では1950年代の地上アナログ放送開始以来、視聴場所は街頭テレビからお茶の間へと進出し、その時代の文化や娯楽を発信する中心となった。当時のテレビが文化的に強い発信力を持てたのには、家庭のテレビの前に座って視聴するという「場所の制約」、あるいは一度しか放送されない番組を決まった時間に見なければならないという「時間の制約」がもたらす緊張感があった。そして、最高の娯楽であったテレビ番組を、人々が一斉に視聴するという文化的環境によって影響力を大きなものにしていた。

1970年代半ばから登場した録画機は、テレビの進化の延長線上にあった。ビデオテープという録画メディアによって、番組を見逃せないという「時間の制約」は緩和された。そして、後に登場するHDD/DVD録画機は、録画時間や操作性の向上によって、視聴者の自由度をいっそう高めていった。また、ビデオやDVDがセル・レンタルマーケットを作り出したことにより、映画はもちろん、テレビ発のドラマやアニメもパッケージとして発売されたことも、映像文化の進化に貢献してきた。


「時間の制約」を解決してくれた“Xビデオステーション”

世代的にはVHSの登場以降に属する筆者だが(もっとも筆者自身はVHSを熱心に使った記憶はないけれども)、録画機が登場し、発展した後にも、テレビ放送を楽しむにはまだある程度の「時間と場所の制約」が存在していると感じる。例えば、録画機で昨日の夕方のバラエティ番組を録画しても、それをいつでも・どこでも再生して楽しめる人が果たしてどれだけいるだろうか。

録画機の登場、そして現在に至るHDD内蔵DVDレコーダーの普及は、私たちにとって「時間の制約」を緩和してくれたものの、放送コンテンツの持つ制限性を完全に取り払うほどに革新的なものではなかった。そう感じていた頃、筆者が巡り会った製品がXビデオステーションだった。


最大2TBの内蔵HDDに全8chのアナログ放送が、最長約3週間録画できる
Xビデオステーションでは、テレビの番組表に表示される番組を丸ごと録画する感覚で、最大2TBの内蔵HDDに全8chのアナログ放送を、最長で約3週間分すべて録画しておける。これは一度使うと手放せなくなる便利さだ。単純に完璧なタイムシフト視聴として「時間の制約」からほぼ解放される。「見たい番組を、録画する」ものから、「見たい番組は、すべて録る」使い方に感覚が変わる。Xビデオステーションには特によく見るジャンルの番組を長期間残す設定もできるのだが、例えば映画やドラマなどを過去2ヶ月に遡り、録りためた番組を一眺しながら、見たいものを検索して楽しむような使い方も発見できたのだ。

Xビデオステーションは画質を重視した製品ではないため、他方でクオリティにも思い入れのある筆者としては、数ある録画機をXビデオステーションで一本化するというものではない。しかし、“テレビ録画を楽しむ”という行為において、どこか放送スケジュールに拘束されていたような感覚を取り払い、テレビ視聴をライフスタイルの一部としてより身近にしてくれた製品であることは確かだ。


「場所の制約」を解放してくれるデバイスはあるのか?

「時間の制約」はXビデオステーションでほぼ解消されても、「場所の制約」は依然として残ったままになる。「場所の制約」を解消するためにはワンセグ放送を直接受信するという試みもあるし、以前にはソニーの“ロケーションフリー”を活用する方法もあった。また、最近ではソニーのBDレコーダー「BDZ-A70」などが搭載する“おでかけ・おかえり転送”もあるが、これらについては視聴・録画をする際の「時間の制約」が残る。この制約を回避する方法について、筆者は以前から様々な方法を試してきていた。


Xビデオステーションに録画したファイルを携帯電話に持ち出すことで、「場所の制約」からも解放される
Xビデオステーションでは、録画した番組がMPEG2ファイルの状態で保存できる。これに「携帯動画変換君」という高機能で汎用性の高い動画変換アプリケーションを活用し、かつてはPSPや第5世代iPodとの組み合わせで動画を持ち出すスタイルも検証してみた。そしてここ約2年では、携帯電話のMPEG4動画再生機能に目を付け、PCで映像を変換して再生する方法に辿りついた。

この方法だと動画の変換時間が長く、実時間以上かかるという欠点こそあるものの、最近の携帯電話は2GBクラスのmicroSDHCカードが使えるということもあり、リアルタイムではないものの「時間の制約」と「場所の制約」にとらわれずに視聴が可能になる。ただ、それでもやはり常用するためにはあと一歩足りない感じだ。なお、iPhone 3G対応のVNCクライアントと常時接続回線を活用すれば、Xビデオステーションで録画した動画ファイルにiPhoneからの遠隔操作でアクセスして、視聴が楽しめるのではないかと睨んでいる。また、iPhoneがなくてもノートPCと“ロケーションフリー”を使って同じことができるのだろうが、筆者は地下鉄を利用する機会が多いことと、遠隔アクセスに余所行き感を感じてしまうためか、このような活用方法を遠慮してしまっている。


デジタル放送の機能を活かした新しい録画機に期待

長々とXビデオステーションへの愛着について語ってしまったが、筆者がテーマにしたいのは、今後のデジタル録画がどれだけ快適に楽しめるようになっていくのかということだ。筆者はXビデオステーションを軸に、録画関連機器の新製品が発売される度に組み合わせてそれぞれの機能を試し、何か新しい使い方ができないかと検証を重ねてきた。しかし、Xビデオステーションはあくまでアナログ放送の録画機であり、2011年には放送が終了してしまうため、以後活用することが難しくなってしまう。その後には、著作権保護技術によって厳重に管理されたデジタル放送を視聴・録画するしかないのだ。今までのように、ユーザーが自分の手で様々な楽しみ方が模索できるようになるのか、いささか不安も感じてしまう。

もちろん、デジタル放送だから全てが不便になると言う訳ではない。例えば、ソニーのBDレコーダー「BDZ-A70」の“おでかけ・おかえり転送”は操作性もよく練られ、PSPや携帯電話など対応するモバイル機器を所有する方にであればすぐにでもオススメしてもいいくらい、実用性が高い。しかし、かつてPC動画の世界にYouTubeやニコニコ動画が登場して世間をアッと言わせたような、また個人的にはXビデオステーションで感じたような、新しい映像との対峙の仕方がデジタル放送の時代にも生まれるのだろうか。

筆者としては映像配信と、デジタルホームネットワーク、番組のデータ放送、ネット機能などの情報を相互に連携させながら、「時間と場所」を意識せず、求めるコンテンツにアクセスできるパーソナライズドホームのような方向に新しい可能性があるのではないかと睨んでいる。そもそも、HDDレコーダーの先駆けだったソニーは2002年の時点で”おまかせ・まる録”搭載のチャンネルサーバー「CSV-S55」を発売していたのだ。そろそろ他社の製品も、単純に見たい番組を簡単手軽に録画できる録画機という段階から、デジタル放送のメリットを活かしつつ、ユーザーを時間と場所の制約から解放する新たなステップに進んでも良い頃ではないかと期待している。Xビデオステーションのデジタル放送対応機も、ぜひ2011年頃までに実現することを期待したい。

(折原一也)

執筆者プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。

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