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【特別企画】開発者が技術の詳細を語る

テクニクス秘伝の技術を投入。“OTTAVA S”「SC-C50」のサウンドはワイヤレススピーカーの概念を覆す

2019/03/08 聞き手・記事構成:生形三郎
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ーー 音の広がりという点は、「SC-C500」や「SC-C70」においてもテーマのひとつだったと思います。今回はそこをさらにフォーカスしたということですね。

奥田 「どの場所から聴いても良い音」であることは、OTTAVAシリーズに共通するコンセプトです。ただ、製品の形態もアプローチもそれぞれ異っています。SC-C500はそもそもLRのスピーカーが独立していますし、初の一体型スピーカーとなったSC-C70は「音響レンズ」と呼ばれる技術によって広い指向性を確保しています。

湯浅 今回のSC-C50は本体前面に3.1chのスピーカーユニットを搭載して、前方の180度へ音を放射することを可能にしました。3ch分のユニットは左右と真正面に60度の間隔で配置されていて、これでステレオ再生を行うのです。さらに、スピーカーの指向性を制御するホーンを各ユニットの前に備えて、ユニットを近接配置しつつ音の干渉を防ぐことを可能にしています。

ラウンドした筐体に3.1chスピーカーを配置してステレオ再生することで、正面以外の場所で聴いても豊かなステレオ感が味わえるように設計されているという

ーー なるほど。

湯浅 ユニット構成は、トゥイーターとウーファーを各chにそれぞれ1基ずつと、サブウーファーを1基という構成です。合計7基のユニットを搭載しているということですね。また、トゥイーターとウーファーは同軸配置にすることで、コンパクトにしつつ、上下帯域の音圧差や位相差の問題を解消しています。また、本体前面をラウンド形状にし、各スピーカーの角度を振ることで、左右の広がりを豊かにしています。

SC-C50のフロントグリルを取り外したところ。3ch分のユニットは奥側にウーファー、手前側にトゥイーターが同軸配置されている

ーー 3.1chでステレオ再生を行うわけですが、信号の振り分けはどのようになっているのでしょうか。

湯浅 LchとRchは純粋にLとRの信号を再生します。センターchとサブウーファーchにはL+Rの信号を入れて、L/Rchとセンターchのレベル差を調整し、どの方向から聴いても均一にステレオ感が味わえるように設計しています。

奥田 複雑に見えますが、できる限り特殊な方法を用いずに、素の音を良くする手法を取っています。一方、L/Rchとセンターchとの距離によって生まれる時間差はデジタル領域で調整して、どのリスニングポイントでも音のタイミングが合うようにしています。

サブウーファーはユニットサイズが大きいため、高域に比べるとどうしても音が遅れてしまうので、デジタル領域の信号処理でタイミングを合わせています。このようにして、サイズを超えた広がりのある音場を再現しています。

ーー 内部を拝見すると、コンパクトな筐体の中にぎっしりと中身が詰まっています。低域を増強するバスレフポートもかなりの長さで、大きなスペースを占めています。

SC-C50の筐体を2つに割った、正面(スピーカーユニット)側の内部。大型のバスレフポートが見て取れる

湯浅 バスレフポートは、ポート径を小さくすれば短くても低い音を得られます。しかし、それだと風切り音が大きくなってしまうので、十分な長さと太さを確保しました。また、限られたスペースでポートをなるべく長くするために湾曲させた形状にすると、今度は空気の乱流が発生します。そこで、できるだけストレートにして、空気の流れをスムーズにしました。ポート自体が微妙に振動するので、リブを付けて補強も入れています。

ーー 箱のつなぎ目に密封テープのようなものが貼られたり、スピーカーケーブルにもクッションテープのようなものが張られています。

湯浅 サブウーファーのバスレフ共振をしっかり出すために、筐体は高い機密性を確保しています。スピーカーケーブルも共振によるノイズを発生しないようにクッション材を巻きつけています。

ーー コンパクトなワイヤレススピーカーとは思えない配慮の細かさです。

湯浅 ただし、ノイズ源となる振動は極力抑えつつも、音自体の躍動感は損なわないように、吸音材は一切入れていません。筐体自体がラウンド形状なので、内部で定在波が生じにくいことも、吸音材が不要な秘訣です。また、バスレフポートの入り口付近に位置するバッフル内壁を少し凹ませることで、空気がスムーズに流れる形状としています。

さらに、スピーカーユニットを実際に取り付けているバッフルの材料も、一般的なプラスチックではなく、グラスファイバーを混ぜ込んだABS樹脂として、剛性を向上させてスピーカーの余分な振動もしっかりと抑えられるようになっています。

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