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<連載>オーディオSUPREME

角田郁雄がB&W「802 D3」を導入した理由 - 自身のスピーカーに対する思想も語る

2016/09/21 語り手:角田郁雄
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ーー 色付けの少なさ、歪の少なさが802 D3の魅力のバックボーンにあるのですね。

角田氏 加えて、ドラマチックな進化と言えるのはウーファーですね。キャビネット構造は新しいマトリックス構造によって、ダブルウーファーなのにその振動がほとんど伝わらない。バスレフポートが踏ん張っているという感は全くありません。

802 D3に搭載されたエアロフォイル・コーン・ウーファー

この部屋で別のスピーカーを使っていたときには、アキュフェーズ「DG-58」で補正をかけていました。しかし、802 D3を導入してから現在のところは補正をかけていません。従来使っていたスピーカーでは低音が出すぎて、定在波もありました。しかし、802 D3では定在波も出ません。バスレフポートの付近に耳を近づけると、本当に静かな風みたいな低音のみが出ています。それはスペック値にも表れていますが、驚くべき“静かな低音”です。

キャビネット振動の排除と正確なインパルスの再現

角田氏 もうひとつ、802 D3を語る上ではずせないポイントがあります。キャビネットの不要振動を極力発生させないということは800 D3シリーズの大きな特徴ですが、ユニットとキャビネットとの接合は徹底的に密着度を上げるという方法ではなく、適度なアイソレーションを確保する手法が採られています。これが優れた空間再現やリアルな音像再現につながるのです。キャビネットの不要振動がないので、楽器や声のアタックを強調しないのです。逆に言えば一般的なスピーカーは、キャビネットを“踏ん張り”にして音を出していると言えます。だから、キャビネットによって楽器や声のアタックが強調されてしまうのです。

802 D3のエンクロージャーを構成するマトリックス構造

この点についてもう少し細かく話しましょう。インパルス応答という言葉がありますね。インパルス応答とは瞬間的な音の立ち上がりのことです。オーディオ再生において、この瞬間的な音の立ち上りの前後には「プリリンギング」と「ポストリンギング」という音のにじみが発生します。これは自然界にはないものです。

これは私の推察ですが、802 D3においてはこの音の瞬時の変化、すなわち過渡特性が大幅に改善されているのでしょう。これにより、弱音から強音までの自然な音の階調を再現できるようになったのです。

また、リバースラップ・キャビネットと呼ばれる流線形のキャビネット形状も、最適なユニット配置と合わせて、空間再現に大きく寄与していると思います。

自分の想いが反映されるスピーカー

ーー 先ほど、「良くも悪くも」自分の音作りが反映されてしまうスピーカーだとお話されていましたが、この点について詳しく聞きたいです。

角田氏 802 D3は、組み合わせたDACやアンプの質がほとんどストレートに出てしまうスピーカーと言えるでしょう。コンポーネントの組み合わせが、ストレートに音に反映される。付け加えるならば、組み合わせるスピーカーケーブルやオーディオアクセサリーの質まで、なんでも音に出てしまう。恐ろしいスピーカーです。よい言い方をすれば、802 D3は自分の想いが反映できるスピーカーです。

ーー ところで、802 D3はどのようなシステムと組み合わせているのでしょうか。

仕事の上では、システムのほぼ全てをアキュフェーズをリファレンスにしています。例えば、プリアンプ「C-3850」やパワーアンプ「A-70」です。これはオーディオ評論家としての仕事を行うリファレンス、基準の音です。他のモデルと比較するときも、アキュフェーズを基準にしています。S/Nの良さ、歪みの少なさ、ダンピングファクターの高さが非常にストレートに出ています。リファレンスにしていて良かったとつくづく思います。

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