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登場から1年あまり、その魅力を改めて検証

【特別鼎談】PC-Triple C開発陣×貝山知弘 - 「ペンクラブ音楽賞」受賞や開発秘話を語る

公開日 2015/06/02 10:00 構成:編集部 小澤貴信
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結晶粒界を廃するために開発された単結晶素材PC-OCC

貝山 PC-Triple Cについては以前のファイル・ウェブのインタビュー(PC-OCCを超える? 注目の新銅素材「PC-Triple C」開発者インタビュー)でも、お二人に詳しくお話いただきました。しかし登場から1年4ヶ月を経たことで、採用したメーカーやユーザーから様々な反響もあったでしょうし、開発者として新たな気づきもあったのではと想像します。そこで改めて、PC-Triple Cについても伺いたいのです。

矢口 PC-Triple Cについて語るには、やはりPC-OCCの説明がまず必要です。オーディオ・ケーブルによる音質変化が議論され出したのは20数年前ですね。それまではタフピッチ銅(TPC)がオーディオ・ケーブル用の導体として使われてきましたが、無酸素銅(OFC)を用いることで音質が向上することが認識されるようになりました。

PC-OCCの開発にも携わった矢口氏は、PC-OCCの長所と改善点の両方をPC-Triple C開発に活かしたと語る

その後、銅線に含まれる異物や酸素成分などの不純物が、結晶粒と結晶粒との間に存在する「結晶粒界」に含まれていることに注目が集まりました。この結晶粒界が、信号伝送に悪影響を与えていたのです。そして結晶粒界を避ける目的でOCC法によって鋳造したのが、単一結晶無酸素銅「PC-OCC」でした。

芥田 当時、銅線の導電率向上には、高純度化と巨大結晶化の流れがあったと言えます。過焼鈍して結晶粒を大きくした「LC-OFC」というものもありましたが、これも結晶粒界の発生を避ける目的で作られていたのです。一時はこの二つの流れを融合させた導体7N PC-OCC AS-CASTが古河電工より発売されたこともありました。

■結晶粒界が持つ振動吸収効果が音質を向上させる

貝山 PC-OCCは、信号伝送に悪影響を与える結晶粒界が原理的に発生しない単一結晶の素材として開発されたわけですね。

矢口 そうです。オーディオ信号は結晶粒の中だけを通れば劣化も少ないですが、高純度銅を含む一般的な導体には、結晶粒界が存在しています。そこに含まれる不純物が信号の流れを阻害しているのです。結晶粒界を信号が通過する時、「迷走電流」のような現象が起きているという言い方ができるのです。

そこで単結晶であるPC-OCCを開発したのですが、当初は一切アニール処理(焼鈍)を行わずに硬材でケーブルに使用していました。PC-OCCは単結晶ですが、アニール処理を行うと結晶粒界が再生されてしまうわけです。

編集部 アニール処理とはどのようなものなのか、改めて説明いただけないでしょうか。

芥田 アニール処理とはいわゆる「焼鈍」のことです。銅の素材に温度をかけてなますことで、絡まっている結晶構造を解きほぐして、元にもどしてあげるための処置です。

貝山 このアニール処理によって結晶粒界が生まれてしまうのでは、本来の目的に反してしまいますね。

矢口 しかし、ケーブルメーカーやオーディオ評論家から「どうもハイ上がりの傾向ではないか」「高域が歪みっぽい」などの指摘を受けました。これは改善する必要があると、PC-OCCにアニール処理を施したPC-OCC-A導体を作ったのです。

貝山 なぜアニール処理を行うことで、音質が改善できたのでしょうか。

矢口 先ほど申した通り、アニール処理によって結晶粒界が生まれます。あくまでもイメージですが、この結晶粒界が、銅の結晶粒の振動をうまく吸収してくれているようなのです。それがPC-OCC-AがS/Nの上がった1つの理由でしょう。PC-Triple Cにおいては、鍛造により結晶粒と結晶粒界が層になるので、さらなる振動吸収効果があると考えられます。

芥田 アニール処理は導電率の向上にも寄与します。導電率の基準にIACS(国際焼鈍銅標準)というものがあり、軟銅線においてはIACSが100%の導電率です。アニール処理前のPC-Triple CではIACSが97〜98%ですが、アニール処理後は101.5%という値を得ることができました。導電率の向上は、結晶格子欠陥の改善と、信号伝送に直接影響しない結晶粒界の再現によるものだろうと推測できます。

貝山 結晶粒界が振動に対する効果を持つことについて、これまで指摘したオーディオ評論家はほとんどいませんでしたね。

矢口 そうですね。普通に考えたら、せっかく結晶粒界を避けるために単結晶のPC-OCCを開発したのに、そこに結晶粒界を発生させるアニール処理を行うという手段は思いつかなかったでしょう。しかしオーディオの視点では、得たものをいったん捨てる発想も必要だったのです。

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