HOME > インタビュー > “torne”発売から「約3ヶ月」の開発期間で実現したファームウェア「Ver.2.00」の中味とは

SCE開発担当者にインタビュー

“torne”発売から「約3ヶ月」の開発期間で実現したファームウェア「Ver.2.00」の中味とは

公開日 2010/06/29 20:05 インタビュー・レポート/鈴木桂水
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

■AVC長時間録画の実力やいかに!?

━━ 2010年3月の発売以来、torneの販売は好調ですか。torneが発売されて、PlayStation3の売れ行きにも影響はあったのでしょうか。
渋谷氏:販売台数については公表していませんが、私たちが想像していた以上にご好評をいただきました。PlayStation3(以下:PS3)の売れ行きについては、torneの発売前後でとくに比較はしておりませんが、torneが登場してからは「セットで購入した」という方の声もいただいています。購入を検討するときも「PS3ならゲームだけでなくレコーダーとしても使える」という事で、家族を説得された方もいらっしゃると聞いています (笑)。


(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント 渋谷清人氏
━━ 「Ver.2.00」へのアップデートサービスが行われることになったきっかけを教えてください。
渋谷氏:地デジの視聴・録画ができるとあって、幅広いユーザーからご意見を頂戴するようになりました。アプリケーション開発担当の石塚のところには、torneの発売以後、カスタマーサポート経由で寄せられたユーザーの声をはじめ、様々な要望が入ってきています。それらの要望を現時点で可能な限り反映させて、「Ver.2.00」と呼ぶにふさわしい機能を盛り込みました。torneの発売から3ヶ月が経ちましたので、この辺りでもう一度、torneの大きな波をつくることも狙いとしてありました。

━━ 発売から3ヶ月で、ここまで大幅にバージョンアップを加えるのはたいへんだったのでは。
石塚氏:それはもう (笑)。ようやくtorneを完成させたと思ったら、休む間もなく開発に取り組みました。本来ならもう少しのんびりしたかったのですが、今年はサッカーのワールドカップというビックイベントがあり、少しでも多くの方にtorneを使って、テレビ録画をしていただきたいと思い、頑張りました。


(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント 石塚健作氏
━━ 今回実施されたファームウェア「Ver.2.00」へのアップデートサービスはどのようなかたちで実施されるのでしょうか。
石塚氏:ネットワーク経由でのアップデートは無料で提供します。ただし、PS3とtorneをネットワークにつながずに、オフラインでご利用いただいている方もいらっしゃいますので、アップデートプログラムを収録したディスクを有償でご提供するサービスも行います。この場合は発送費等を含む750円を実費として申し受けるかたちとさせていただいております。

渋谷氏:カスタマーサポートとして、オフラインの方々にも楽しんでいただけるよう、ディスクによるアップデートサービスも準備することにいたしました。ただ、どうしてもオフラインのユーザーの方々には、サービスを楽しんでいただけるタイミングが遅れてしまったりなどご不便が発生してしまいますので、今後もし可能であれば、ぜひオンラインでも楽しんでみていただきたいと考えています。

━━ 「Ver.2.00」で実現するAVC長時間録画対応については、やはり多くのユーザーから要望がありましたか。
渋谷氏:そうですね、非常に多くのご要望をいただきました。torneは発売してから様々なご意見をいただきましたが、やはり「長時間録画」と「追いかけ再生」にはとても多くのご要望をいただきました。

今回のAVC録画は、もともとtorneに実装しているハードウェアエンコーダーで実現しています。発売以後、どこかのタイミングでAVC録画の機能追加を実現しようと計画していましたが、サッカーのワールドカップがあるのでということで、当初の予定よりも早めてご提供させていただくことになりました。石塚のチームが一所懸命に頑張ってくれたおかげで、6月29日から何とかサービスをスタートすることができました。本当はワールドカップ前に出せれば良かったのですが(笑)。

石塚氏:ええ、私たちのスケジュールは度外視でした(笑)。今回のAVC長時間録画対応は、製品の発売直後に開発をスタートして、検証を含めて3ヶ月でスピード実現しました。発売後、およそ3ヶ月でプログラムのメジャーアップデートですので、普通はあり得ないのですが、ユーザーの方々の期待を受けて何とか間に合いました。


ソニーオフィシャルスポンサーとして支えるサッカーのワールドカップ。本来ならtorneのバージョンアップの提供は、その開幕時が開始時期だったのかもしれない。しかしその内容を考えると、開発期間がタイトなのが手に取るようにわかる。日本代表選手の活躍もあり、ビッグマッチ「日本×パラグアイ」戦に間に合って、開発陣もホッとしていることだろう。

AVC圧縮による長時間録画への要望もかなり多かったようだ。前述したように地デジ録画を楽しむには少なめに見積もってもHDDの容量は500GBは欲しい。しかしHDD容量が少ないPS3では、すぐに録画時間に不満が出てしまう。実に順当な機能追加だ。




録画モードを「DRモード」と「3倍モード」から選べるようになった
━━ 「3倍録画」というと、一般の長時間録画に対応するBDレコーダーでいう所のどのモードに相当しますか。
石塚氏:「3倍」と銘打っているのですが、実はいわゆるBDレコーダーのそれと同じではありません。torneでは元々DRモードでの録画時にデータ放送を記録していませんので、地上デジタル放送の最大16.8Mbpsよりもデータ量は少なくなり、1時間番組の録画で約6GBのHDD容量が必要となります。

今回の3倍録画では、AVCエンコード時のビットレートを約4Mbpsに設定し、DRモードの約1/3に相当する「1時間番組を約2GBのHDD」で記録します。この数値をBDレコーダーのビットレートに当てはめると、だいたい6倍モード相当の画質ということになります。

私たちも開発している段階で、レコーダーと同じ表記にしようかという意見もあったのですが、やはりお客様から見た時に、元のどの数値に対して何倍なのか、かえってわかりにくくなってしまうのを避けたいという意図と、ビデオテープの時に普及した「3倍録れる」というイメージがお客様にわかりやすいのではないかと考えて、実際にはもっと圧縮しているのですが、今回は敢えて「3倍録画」という言葉を使っています。

━━ 今回視聴させていただいた感触としては、なかなか良い画質だと思います。ふだん使いで楽しむのには申し分ないですね。
石塚氏:ありがとうございます。できれば「3倍録画」の機能はtorneの発売時に入れたかったのですが、「追いかけ再生」も含めてかなり技術的な難易度が高かったんです。いちばん敷居が高かったのはメモリーの管理でした。やはりAVCのデコード処理にかなり負担がかかるのですが、CPUの処理とメモリーとの兼ね合いで、どうやって画質を損ねることなく長時間録画ができるか、バランスを計りながら画質を追い込んでいく必要がありました。この調整に、開発期間の3ヶ月間のうち、かなりの時間を注ぎ込みました。

ソニー・コンピュータエンタテインメント本社にて、「3倍モード」の視聴などを行った

torneには「トルミル情報」表示機能がありますので、お使いいただいているユーザーの志向性を、ある程度視聴番組のジャンル情報やストリーミング状況から把握できます。この機能を利用して、特定のジャンルや番組に合わせて映像チューニングを施しました。

例えばワールドカップを快適にご覧いただきたいということもありましたので、「芝」の映し出される映像など、サッカーの視聴にもふさわしくなるよう追い込みました。それにしても、サッカーの映像は「芝」と「紙吹雪」が難しかったですね。スタジオの観客席を遠景で撮ってパンした映像など、厳しい素材でした。

渋谷氏:画質のチューニングに関しては、ソニー本社からBDプレーヤーやBDレコーダーの開発に携わっているスタッフにも評価に参加してもらいました。その成果もあって、長時間録画の画質はだいぶ丁寧に追い込むことができたと思います。

石塚氏:地上デジタル放送の映像は元々ブロックノイズが多いので、そこを考えながらうまく圧縮のコントロールをかければ、逆にブロックノイズを減らすこともできます。このため、AVCモードとDRモードの映像ではノイズの出方が若干変わることもあると思います。適正な視聴距離で映像をご覧いただいた際にも、アラが見えづらいようAVC圧縮を行っています。かつての「ビデオテープの3倍録画」をイメージされているユーザーの方々にとっては、だいぶキレイと感じていただける映像だと思います。


Ver.2.00の3倍モードの画質を評価したところ、ハイビジョンの解像感はそのままに再現できていると感じた。木々の葉やスタジアムの観衆などでブロックノイズが発生する場面も見られたが、レコーダーと同等レベルの画質だった。BDなどの光ディスクに保存できるBDレコーダーに比べ、HDDにしか録画できないtorneの場合、「観たら消す」視聴スタイルになる。画質にこだわるよりも、多くの番組を録画できる利便性を優先するなら、満足できる画質だ。

次ページ進化した「トルミル情報」や、その他の主なアップデート機能

前へ 1 2 3 4 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE