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公開日 2025/07/15 06:40
ドルビーアトモスやDTS:Xとは異なる独自規格

アップルの空間オーディオフォーマット「ASAF」とは? 独自音声コーデックも開発

海上 忍

イマーシブ(immersive)とは没入感がある、実体験のように感じられる、という意味で用いられる形容詞だが、オーディオビジュアルの分野では、オーディオという単語と接合させて「イマーシブオーディオ」と呼ぶことが多い。


このイマーシブオーディオは、コンテンツの世界観に浸れるようリスナーの周囲にスピーカーを配するなどして立体的な音場を実現する一連の技術の呼称となり、「空間オーディオ」や「立体音響」と同義語として用いられることもある。


そのイマーシブオーディオは、ドルビーアトモスやDTS:Xなど、音響技術企業発のフォーマットが知られており、実際多くのAV機器に採用されている。


どちらも映画および映像コンテンツ産業とのつながりが強く、いわゆるプリプロダクションの段階からシアターで上映されるまで、さらにはディスクや映像配信サービスをもカバーした一種のエコシステムが存在する。


空間オーディオコーデック「APAC」や空間ビデオなどをMP4に格納


アップルがWWDC 2025で発表した「ASAF(Apple Spatial Audio Format)」は、Apple Vision Proなどアップルデバイス向けオーディオフォーマットだ。


同時発表されたMacOS用アプリ「Apple Immersive Video Utility」で映像とともに処理し、MP4コンテナに格納される形で提供される。



当面は主にApple Vision向けのフォーマットと考えて差し支えないだろう


アプリが「イマーシブ」を標榜することからも伺えるように、空間オーディオ/立体音響フォーマットの一種と考えて差し支えない。


Apple Immersive Video Utilityが生成するMP4ファイルの要求スペックは、映像パートがApple Immersive Video Universal (AIVU) ファイルとメタデータ(Apple Immersive Media Embedded)、音声パートがiPhone 16からサポートされた空間オーディオ/立体音響コーデック「Apple Positional Audio Codec(APAC)」で構成される。



紹介動画に書かれたASAFの特徴


映像そのものは4320×4320ピクセル/90fpsのMV-HEVCフォーマットとされ、2025年7月現在では8K/視野角180度の3Dビデオに対応した「BlackMagic Cine Immersive」など、ごく限られた機材での撮影となる。



映像表現やフォーマットと撮影できるカメラなどを整理した表(アップル作成)


一方のAPACは、Pro ToolsプラグインやBlackmagic DesignのDaVinci Resolve Studio Editorといった比較的安価なソフトウェアで生成できる。


「あらゆる方向、あらゆる位置、あらゆる距離から音が届く」


WWDC 2025で開発者向けに公開されたビデオによれば、アップルのイマーシブ対応音響フォーマット、ASAFの肝は「音データのレンダリングに音響的な手がかりを確実に使う」ことだという。


リニアPCMと組み合わされたメタデータと、アップルのプラットフォームに組み込まれた強力な新しい空間レンダラーにより、オブジェクトの位置と向き、リスナーの位置と向きに完全に適応したオーディオとして再生されるというから、ヘッドトラッキングに対応したオブジェクトベースのオーディオフォーマットと表現してもいいだろう。


既存のオブジェクトベースのオーディオフォーマットとの違いを語るにはソースが不足しているが、どうやら「きめ細かさ」に差があるらしい。ビデオでは具体的なスペックについて触れられていないものの、「多数の点音源と高解像度のサウンドシーン(numerous point sources and high resolution sound scenes)」、さらに「あらゆる方向、あらゆる位置、あらゆる距離から音が届く」と説明されていることからすると、オブジェクトの最大数は相当な水準となりそうだ。


この再生環境を実現するのが、iOS 26とvisionOS 26でサポートされる「Immersive Media Supportフレームワーク」だ。フレームワークが公開されれば対応アプリ/デバイスが現れることは確実で、アップルはそこから生まれるエコシステムを見据えているに違いない。


ところで、ASAFの音声パートであるAPACは、HTTP Live Streamingでの配信にも対応している。対象プラットフォームはwatchOSデバイス以外のアップル製品、ビットレートの下限は64kbpsというから、ライトユースも想定されているようだ。


アップルがどのような用途をイメージしているかは不明だが、Apple Vision Proほど “ガチ” ではない、気軽に楽しめるイマーシブもターゲットにしていることは間違いないだろう。


 

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