クルマを“音”で選ぶ新提案!三菱自動車・アウトランダーPHEVが到達したカーオーディオの比類なき音質
山之内 正クルマを選ぶ際に、何を判断基準として選ぶだろうか? 走行性能、インテリアデザイン、燃費、もちろん価格も重要だ。家族のライフスタイルに合わせた使い勝手の良さもゆるがせにはできない。だがそこに、PHILE WEBは新たな価値観として “音” を提案したい。「音質」の良い車は、クルマの走りをより一層魅力的で特別なものにしてくれる。
“威風堂堂” をコンセプトに掲げた三菱自動車「アウトランダーPHEV」は、2024年のマイナーチェンジの際、動力性能の向上や機能・装備の充実化に加え、新たにヤマハと組んだ新たなカーオーディオシステムを導入。通常のカーオーディオの常識を超え、音楽家の息吹そのものを伝えるシステムとして新設計された。その中でも最上位グレードとなる「Dynamic Sound Yamaha Ultimate」のサウンドを、オーディオ評論家の山之内 正氏が体験する。
※写真の車両は、ムーンストーングレーメタリック/ブラックマイカ(有料色)、ルーフレール(シルバー)等オプション装着車
上質な音がもたらす快適さと心地良さ
多忙な日々のなか、車での移動時間はじっくり音楽を聴ける貴重なひととき。とはいえ車内で心地良く音楽に浸れるかどうかはカーオーディオの音質次第だ。良い音は運転の疲れを忘れさせてくれるが、音に不満を感じながらの移動はストレスが募り、むしろ疲れがたまってしまう。
上質な音がもたらす快適さと心地良さに思いが至ったのは、三菱のアウトランダーPHEVが採用したヤマハと共同開発のオーディオシステムの音を聴いたことがきっかけだ。ノイズ対策を強化して静粛性を高めたアウトランダーPHEVでの移動は快適そのもので、クリアで力強いボーカルとベースが刻むキレの良いリズムに身を委ねていたら、アッという間に目的地に到着。途中で遭遇した首都高の渋滞もどこ吹く風、イライラするヒマがないほど没入感あるサウンドでリラックスでき、運転に集中することができた。音楽の力はかくも絶大なのだ。
試乗したのは、アウトランダーPHEVの最上位グレードとなるP Executive Packageの7人乗り仕様。三菱とヤマハが共同で開発したオーディオシステム「Dynamic Sound Yamaha Ultimate」の音を検証するために、一般道と首都高を運転席と助手席で体験した。
先述の快適さと心地良さはその純正システムのなせる業で、カーオーディオに本格参入を果たしたヤマハのこだわりの成果でもある。
ヤマハ専用設計の12スピーカーをクラスDアンプで駆動
システムの概要を紹介しておこう。アウトランダーPHEV専用に開発した「Dynamic Sound Yamaha」には「Ultimate」と「Premium」の2つのグレードがあり、P Executive Packageは上位の「Ultimate」を標準装備する(なお、「BLACK Edition」には「Dynamic Sound Yamaha Ultimate」を標準装備。PならびにGではメーカーオプションとしてDynamic Sound Yamaha Ultimateを選択可能)。
12個のスピーカーを2基のクラスDアンプで駆動する贅沢な仕様で、SUVの広々とした室内空間を密度の高い音で満たすのが設計陣の狙いだ。ウーファーとトゥイーターには「YAMAHA」のロゴを配した専用グリルを装着。セミアニリンレザーのゴージャスな内装との調和が美しい。
フロントはドアパネルのウーファー、ダッシュボード奥のミッドレンジ、Aピラー下部のトゥイーターで構成される3ウェイで、ダッシュボード上のセンターミッドレンジも駆使して定位(音源の位置や距離感)の改善を狙う。
リアは2ウェイ構成で、サブウーファーは荷室内(左リアフェンダー内側)に配置。ドライバーユニットはいずれもヤマハ独自の技術を駆使して新規に開発されたものだ。2台のパワーアンプは、低音用側は4チャンネル、中高音用側は7チャンネル分の回路を内蔵するが、コンパクトな筐体に収め、左右フロントシート下に格納している。
自動車メーカーだからこそできるドアの剛性設計
オーディオシステムの真価を引き出すために、車のボディ側に通常とは異なる振動対策を実施していることも今回の共同開発のキモだ。補強材でドアアウターパネルの制振性を高めつつ、サービス用の開口部を塞いで音漏れを防ぐなど、どの対策もきめが細かい。Ultimate搭載グレードではスポット溶接を増やしてさらに強度を上げ、大型の補強パーツを用いることでドアパネルの剛性を1.5倍に強化したという。
カーオーディオショップのカスタマイズではデッドニングなどの振動対策がおなじみの手法だが、自動車メーカー自らが純正オーディオの音質改善を目的にここまで徹底するのは珍しい。
当然ながら補強材を増やすと重量が増える。軽量化を目指すクルマの基本設計と逆行するため、できれば避けたいというのが本音だろう。とはいえ不要な振動とノイズを抑えれば乗員の満足度は上がり、音質以外のメリットもある。
エンジンが始動するハイブリッドモードや、充電モード時の時も入念な遮音が功を奏し、EV走行時に限らず車内はとても静かだ。60km/h以下に終始した今回の試乗環境ではロードノイズや風切り音の影響もほぼ気にならなかった。
専用設計の手間をいとわずダッシュボード奥にミッドレンジドライバーを配置したことも、明瞭で密度の高い中域を実現するための踏み込んだアプローチの一つだ。フロントガラスの反射を活かす手法は、ドライバーユニットの設置場所が限定される車載オーディオ特有の制約を逆手に取る発想だが、入念なシミュレーションの成果により、ボーカルや旋律楽器の音像定位はブレがなく、発音にも誇張やくせがない。
音質劣化を抑える機構上の工夫に加え、エレクトロニクス面からの音質改善にも妥協はない。スマートフォンなど外部入力も含め、ヘッドユニットからパワーアンプへの信号経路は、一貫してデジタルで処理して音質劣化要因を排除している。
さらに車速連動と雨天連動の音量調整機能は周波数特性の最適化を伴う精密な動作を特長とし、オフ以外に車速連動は5段階、雨天連動は2段階の補正レベルを設定可能だ。エアコン連動機能を含むこれら外来ノイズ対策は走行時の音質改善に直結するもので、動作条件に応じてきめ細かく補正ができるのは純正システムならではの強みだ。
演奏の躍動感を確保した鮮度高いサウンド
USBメモリに保存したハイレゾ音源を用いて、走行時と停止時それぞれの環境で再生音を確認した。4種類のサウンドタイプのなかから、アコースティックなサウンドとの相性が良いSignatureを中心にボーカル、ビッグバンド、オーケストラ、金管アンサンブルなどさまざまな曲を聴く。
ヤマハの設計陣が吟味を重ねたSignatureは、演奏の躍動感を確保しつつ、音色を描き分ける精度の高さも狙ったモードだ。金管アンサンブル(フィルハーモニック・ブラス)で聴いた「アイーダ」のバレエ音楽は、トランペットの柔らかい響きとピッコロトランペットの鋭く艷やかな音色を正確に鳴らし分け、奏者ごとの音の違いまで聴き取ることができた。金管の楽器ごと、プレーヤーごとの音の違いを熟知しているリスナーなら、音色を描き分けるレベルの高さにすぐ気付くはずだ。楽器メーカーでもあるヤマハがオーディオを設計する強みはまさにそこにある。
ドミニク・フィス・エメのボーカルはダッシュボード中央やや右に鮮明な音像が定位し、リズムを刻むベースの動きと忠実な音色再現に感心させられた。ウッドベースならではの豊かなボディの響きと、弦が指板に当たる硬質な打音、どちらも生々しく鮮度が高い。サブウーファー帯域で基音を震わせつつ、ミッドレンジが担う音域では素早い立ち上がりが要求される。それが両立しないと不自然なダルい低音になってしまうのだ。
一般的なカーオーディオではかなり難度が高いが、「Dynamic Sound Yamaha Ultimate」が鳴らすベースはアタックが揃い、最低音域まで切れが良い。ウッドベースらしさを満喫できたのは今回の試聴の収穫の一つだ。
クリスティアン・マクブライド率いるビックバンドもSignatureモードの自然なバランスが好印象だが、Livelyで聴くスティングのボーカルの実体感とボディ感にも強い魅力を感じた。
自動車メーカーの積極的な音響設計に期待
オーディオを含むカーエンタテインメントは自動車のハードウェア&ソフトウェアとの統合が進み、AIがシステムに関与するインフォテインメントシステムとして高度に進化していくことが予想される。そんな環境下で優れた音楽再生環境を構築するためには、自動車メーカー自らが積極的に音響設計に関与するか、経験豊富なオーディオメーカーとのコラボを緊密化することが不可欠だ。
今回の三菱とヤマハの協業は、前者と後者を両立した総合的な取り組みであり、初の共同開発とは思えないほど重要な成果を上げている。さらにラインアップを充実させるなど、今回の成功を起点にした今後の展開にも大いに期待したい。
Photo by 井上良一
(提供:三菱自動車工業)