AVアンプは、ブルーレイディスクにHDオーディオが搭載されて以来8万円台の価格帯が激戦区だが、その下の6万円台が最近とくに充実し新たな<主戦場>出現の予感がある。中でも、今季注目したい新製品がヤマハの「RX-V571」である。

ヤマハ AVアンプ「RX-V571」。

最大の魅力は8万円台と同等の7.1ch構成を採用し、サラウンドバックスピーカーを加えたシステムが組めることにある。

 
RX-V571の背面端子部。6万円台のモデルだが、スピーカーは上位モデルと同様の7.1ch出力に対応している。

しかも、上級機で効果が実証済みの「VPS(バーチャル・プレゼンス・スピーカー)」機能をエントリーモデルで初めて搭載した。これはフロントスピーカーの上方位置に仮想のフロントプレゼンススピーカーを作り出す技術で、フロントプレゼンススピーカー(実音源)の設置なしで、「シネマDSP<3Dモード>」の音場拡張効果を楽しめる機能である。

エントリーモデルとして初めてVPSを搭載。仮想のプレゼンススピーカーを作り出す同技術により、「シネマDSP<3Dモード>」に対応可能となった。

「シネマDSP<3Dモード>」は、HRTF(頭部伝達関数)理論を応用したバーチャルプレゼンス信号をサラウンドスピーカーから出し、音場に高さ方向の広がりを加えるヤマハ独自の拡張機能だ。センタースピーカーから左右クロストークキャンセル信号を出し、音場の明瞭化を図っている。

さらに、これにサラウンドバックスピーカーの実音源を使用した場合、9.1ch音場を仮想的に出現させることが出来る。¥61,950(税込)の価格で、である。これからサラウンドと映像音響の世界に入っていこうというユーザーにとって、これ以上の「エントリー機」はないといって良いだろう。

一方、現代のAVアンプに課せられた役割は多い。音楽配信とPCオーディオの台頭以降、家庭の音楽再生のプラットフォームであるAVアンプは変革を迫られている。RX-V571はそうした要請にもきちんと答えている。フロントパネルには、USB入力を装備。このあたりも、昨年発売の「RX-V3067/2067/1067」の設計が、エントリーモデルに降りてきたわけだ。

フロントにUSB端子を備えるのも、上位モデルの設計を投入した

加えて、本機はiPod/iPhoneのデジタル入力にも対応。iPod/iPhoneの接続もエントリーモデルでは初めてフロントUSBからダイレクトに可能となった。従来機種「RX-V567」では、iPod/iPhoneとの連携はオプションのユニバーサルドック「YDS-12」の使用が前提で、映像再生に対応するため音楽もアナログ再生だった。

iPod/iPhoneのデジタル入力に対応した(同時発売の「RX-V471」も同様)。

しかも本機は、ヤマハ独自の音源補間技術「ミュージックエンハンサー」機能も引き続き備えているため、MP3やAAC圧縮音源のFレンジと解像感の不足を改善することが可能だ。まさにiPodユーザー待望の入門機である。

GUIは日本語表記を実現している。映像上にオーバーレイ表示が可能となり、従来機種と比較して格段に操作がしやすくなっている。表示は一階層構成なので、エントリーユーザーも戸惑うことがないだろう。

日本語GUIに対応。エントリーモデルにこそ求められる使いやすさを備えた。

従来ヤマハのAVアンプにおいて、日本語GUIが採用されているのは中級機以上のモデルで、エントリーモデルは英語表記のみであった。今回日本語GUIが搭載されたことにより、RX-V571は従来機種と比較しエントリーモデルとしての使いやすさが格段に向上したといえる。

また、ヤマハ独自の音場補正技術である「YPAO」にも引き続き対応。こちらも日本語GUIにより操作がしやすくなっている。

 
独自の音場補正技術「YPAO」にも引き続き対応。日本語GUIで操作しやすくなった。

さらに、従来機種RX-V567で4系統備えていたHDMI入力は6系統に増設。そのうち1系統をフロントに装備する上位機種の設計も備えることで、より幅広い接続シーンに対応可能となった。なお、映像アップスケーラーは引き続き1080/60Pまで対応する。

RX-V571は、HDMI入力を6系統備えている。1系統をフロントに備える構造は、上位モデルの設計を投入。接続機器の幅と使用シーンが広がる。

そのほか、東芝の液晶テレビREGZAとの連携が強化され、Z2シリーズ以降のテレビのリモコンで、ヤマハAVアンプのGUI表示と操作も可能となっている。「AVシステム操作」→「画面表示」の順でメニューに入れば操作が行える。

7.1ch構成でしかもこれだけ多機能なのに、待機電力の大幅低減をいち早く実現したことにも注目したい。AVアンプはテレビ/プロジェクターなどのディスプレイと、BDレコーダーなどのソース機器のインターフェースを務める、いわばHDMIリンク機能のハブ的存在であるため、スタンバイスルー状態に置かれていることが多い。本機はその状態でHDMIセレクターとしても使える。よって、消費電力を低く抑えることが急務である。

RX-V571の場合、「いま、求められる賢いエコのかたち」でも取り上げた通り、スタンバイスルー時の消費電力は1.2W(スタンバイ時0.1W以下)という優秀な数値である。今夏の電力逼迫を考えた場合、時代の要請にいち早く応えた製品といっていい。

音楽再生と映像音響の充実、そしてアップ・トゥ・デートな多機能を実現する一方で、省電力性まで先取りして登場した今季注目の製品がRX-V571だ。次回「気になる音質は?(6月3日公開予定)」では、いよいよ注目の音質を検証してみよう。

<執筆者プロフィール>
大橋 伸太郎
1956年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。




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