3月11日に起こった大震災による原発事故は、関東を中心に電力の供給不足を引き起こし、今後の電力確保については暫く予断を許さない状況が続きそうだ。今や電気がなければひと時も生活することができないことを、この震災で多くの人が痛感したことだろう。夏場の電力需要のピークに向け、東日本では15%の省エネが求められており、企業のみならず一般家庭でも節電に協力しなければならない。

ただ、省エネを含めた「節電」や「エコ」は地球規模での取り組みが求められる時代の流れがすでにあり、これまでもエネルギーの消費についての見直しが提唱されてきていた。従来、エコや省エネというと「面倒くさい」「したいことをガマンして節約する」といったイメージが強く、長続きしないことが多かったように思う。

そこで、今回の事態をきっかけに、改めて電気の使い方や生活のしかたについて見直すチャンスとしては如何だろう。知恵と工夫でライフスタイルを見直し、賢く省エネするワザ「スマート消費」を身に付けることによって、ガマンしないで良い持続可能な“エコAV"ライフを手に入れることも可能になるはずだ。

では、AVライフを楽しむ「スマート消費」のポイントとは何か?

それは待機電力の低減であろう。待機電力とは、家電製品の本体が動作していないときに消費される電力のことだ。使用中の消費電力は気になることが多いのに対し、使用していないときに消費される待機電力の方は見過ごされがちだ。ほとんどのAV機器やIT機器は、使用している時間よりも、コンセントに接続されたまま使用していない時間の方が圧倒的に長く、待機電力は想像以上に多い。

待機電力を簡単に減らすには、コンセントからプラグを抜いたり、“スタンバイ機能"をOFFにすれば良い。しかしAV機器の場合、それでは本来の目的を果たせなかったり、使い勝手を極端に悪くすることも多い。

便利な機能を使うため、AV機器は普段から通電したままでいることが当たり前になっている。これらの使い勝手の良さを損なわず、上手にエコを実現したい。

エコのために本来の目的をトレードオフすることになれば、本末転倒である。従って、待機電力を低く抑えらる省エネ型の製品を選択することで、本来求められている性能や機能を損なうことなく省エネを実現することが重要なポイントになる。

2006年に市場に登場し、現在ではホームシアター機器に標準装備されつつあるHDMI CEC規格(HDMIリンク機能)は、AV機器間の操作性を飛躍的に向上させた。

これと同時にAVアンプの場合、そのほとんどが、本体の電源OFF時にもHDMI接続された機器の映像・音声等を受け渡せる「スタンバイスルー」機能を搭載している。これにより、AVアンプ本体の不使用時にも、HDMI接続中の各機器を使用できる。

AVアンプの「スタンバイスルー」機能。AVアンプを使わないときも、本体にHDMI接続されたテレビやレコーダーなどの機器の映像・音声信号を受け渡しできる。

しかしこの機能を使用するには、AVアンプに常時通電しておかなくてはならない。結果、かつてのAVアンプはスタンバイスルーON時で20〜30Wの待機電力を消費するものが多く、待機電力の低減はこれまでも課題とされてきた。

早くからこの問題に取り組んできたのがヤマハだ。昨年発売されたAVアンプ「RX-V567」では、スタンバイスルーON時の待機電力を一気に2.7W以下まで低減した。そして2011年の新製品「RX-V571」では、そこからさらに50%以上の省エネ化をはかり、なんと1.2W以下というきわめて低い待機電力を実現している。

ヤマハ AVアンプ「RX-V571」。

AVアンプにおける待機時(スタンバイスルーON)の消費電力推移。ヤマハは昨年発売の67シリーズで2.7W以下まで消費電力をカットしたが、今年発売の71シリーズでは、さらに1.2W以下を実現している

待機電力の大幅な低減のため、RX-V571ではメイン回路とスタンバイ時の回路の電源部を分離し、それぞれに専用の電源トランスを配置する回路構成としている。高級機では、音質向上のため電源トランスや回路を分離する手法はしばしば見られるが、コストアップにつながるため、エントリークラスでの採用はたいへん画期的である。また、メイン回路用には音質面で有利なアナログ電源を、待機時用回路には省電力のデジタル電源を採用することで、省エネと同時に高音質化も実現している。

従来AVアンプでは、メイン回路とスタンバイ用の電源は同一なので、スタンバイスルーON時は使っていないメイン回路にも通電している。しかしRX-V571は電源トランスまで含めて分離しているので、不使用時はメイン回路に通電せず、スタンバイ用の回路だけに通電する。

待機電力の低減効果がどのくらいなのか、HDMIリンク機能が登場した5年前と、最新機種「RX-V571」で、仮に1年間ずっと待機状態(スタンバイスルーON)だった場合の比較をシミュレーションしてみよう。

1年間の通電時間が8,760時間で、電気代を1kWh=22円として計算すると、5年前の待機電力が20Wのとき、1年間の消費電力量は約175kWh/年、電気代が3,854円となる。一方「RX-V571」は約10.5kWh/年、231円となる。その差は約165kWh/年となり、40〜50型の薄型テレビの年間消費電力量に匹敵し、10年間では36,000円以上の電気代の節約になるという大きな効果を得られることがわかる(なお、実際には電源ONにして使用する時間も含まれるうえ、現実の使用状態とは異なるため、あくまで参考値と考えてほしい)。

仮に1年間ずっと待機状態(スタンバイスルーON)だった場合の消費電力と電気代のシミュレーション。その差は約165kWh/年にもなる。
(1年間の通電時間=8,760時間(24h×365日)、電気代=22円/kWhとして計算。)

加えて本機は、AVアンプの電源OFF時(スタンバイスルーON)にHDMI入力を切り替えられる「スタンバイインプットセレクト」機能を搭載し、消費電力を低下しながら使い勝手の良さを確保している点も魅力である。

RX-V571が対応する「スタンバイインプットセレクト」機能のイメージ。AVアンプの電源OFF時(スタンバイスルーON)も、HDMI接続している各機器の入力を切り替えられる。

さらに、長時間HDMI入力がないと自動的に電源をOFFにする「オートパワーダウン」機能も装備しており、“ついうっかり"の電源消し忘れを防いでくれるのが心強い。電源OFFまでの時間は4/8/12時間の3種類から選択が可能だ。また、30分単位で設定できる「スリープタイマー」機能も省エネスタイルに活用できる便利な機能だ。

オートパワーダウン設定画面。電源OFFまでの時間は、4/8/12時間の3種類から選べる。

使うときには思い切り楽しみたいが、無駄な電力は消費したくない。かといって、省エネしたために便利機能を犠牲にして、使い勝手を悪くするのでは意味がない。ホームシアターにおいて使い勝手と省エネの両立は、エントリークラスにこそ求められるコンセプトであり、ヤマハのAVアンプ「RX-V571」はまさに今一番求められる製品といえるだろう。

また、本機の端子数を一部変更することによって価格を抑えたモデルが、同時発売の「RX-V471」だ。本機で6系統を備えるHDMI入力は4系統に省略されているが、機能・省エネ性能などテクノロジー面では本機と同一の仕様を備えており、こちらも見逃せない。

同時発売の「RX-V471」。機能・省エネ性能などテクノロジー面は「RX-V571」と同一。

最後に、家庭内で使用する電力全体のバランスを調整することも重要だ。家庭内で使用される家電製品のうち、消費電力量の6割近くを占める「エアコン」「冷蔵庫」「照明」を上手に選び、上手に使うことで省エネが実践できる。例えば、グリーンカーテンやすだれで窓からの太陽光を遮ることや、フィルターの掃除をこまめに行ってエアコンの効率を向上し、設定温度を2度高めることで約10%の省エネが可能だといわれている。

こうして、家庭内全般においても何かを犠牲にしたり生活のレベルを下げることなく、「無駄」な電力消費を減らす「スマート消費」を実践することが、結果的にホームシアターなどAVライフに使う電力の確保に繋がるだろう。

<文・戸川 健一>





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