HDMI 1.4 に対応したケーブルが各社から発売されるなか、ソニーから待望のHIGH SPEED with ETHERNET対応HDMIケーブルが発売された。TA-DA5500ESの開発と並行して音質の吟味を重ねたソニーの自信作であり、素材と構造のこだわりは半端ではない。価格が高価なこともあって、オーディオビジュアルファンのあいだでも大きな話題を集めている。
私自身もソニーの試聴室やイベントなどでそのパフォーマンスを何度か確認してきたが、いよいよ製品版が完成したので、早速自宅で試してみることにした。いうまでもなくHDMI 1.4対応機器ではなく、既存のBDプレーヤーやAVアンプでの比較である。
信号線の導体は銀メッキ純銅線(0.08mm×40本撚り)のツイストペアを使用しており、ソニーの標準的なHDMIケーブルに比べて導体の断面積は約4倍に及ぶという。シールドはノイズ除去性能にこだわった4重構造で、内側からアルミ箔シールド、銀メッキ銅編組シールド、2重の銅箔シールドという複雑な構成だ。被覆は当然ながら誘電率の低い発泡テフロンを採用しており、ハイエンドクラスのオーディオケーブルを思わせる外見はかなり迫力がある。ただし、ケーブル自体は意外なほどしなやかで、取り回しに苦労する心配はない。
プラグとケースは堅牢かつ精度の高い亜鉛ダイカスト製で、クローズアップ写真だけを見ると、これだけでちょっとしたコンポーネントのような雰囲気がある。内部にリブを入れるなどの対策を施して剛性と制振にこだわるのは、プラグとケース部の共振が音質に大きな影響を与えるという事実に開発陣が気付いたからで、私自身もその事実は経験的に認識している。
ケース部に重量のあるパーツを採用すると、それ自身の重みで機器の端子側に垂直方向の力が加わる心配があるが、BDP-LX91への接続例からもわかる通り、ケーブルの取り回しに注意すればそれほど神経質になる必要はなさそうだ。ラック背面などで管理が難しい場合は、市販のケーブル用インシュレーターを併用するといいだろう。
接続方向を指定したケーブルの端末側には樹脂製チューブと金属製スタビライザーが装着されているが、この素材、重量、位置は試聴を繰り返すことによって厳密に決められている。ケーブル自体の振動モードを解析すれば、特定の位置に異種素材を組み合わせることで効果的に不要振動を打ち消すことができる事実を実証できると思うが、今回はおそらく聴感で適切な位置や重量を追い込んでいるのだと思う。この構造を見て、私は弦楽器の弓の重心調整と音質調整用パーツを思い出した。弓の場合も僅かな重量差や位置の調整が音色に大きな影響を及ぼすことが知られている。
ワイヤーワールドやエイム電子のHDMIケーブルはフラット構造を採用して等長伝送にこだわっているが、ソニーのDLC-9150ES/DLC-9240ESはツインナックスを組み合わせた同軸構造で、ケーブル断面はほぼ円形である。この対照的な構造が画質、音質にどんな影響を与えるのか、非常に興味深いので、映像と音声の両方について、簡単に比較してみることにした。
今回の比較対象はエイム電子のRシリーズだが、長さはソニーが1.5m、エイム電子が3mと異なるため、同一条件での厳密な比較ではないことをお断りしておく。
まずはパイオニアのBDP-LX91とビクターのDLA-HD100をダイレクトに接続し、画質の違いを検証した。『ブレイブハート』では標準レンズ領域の画角での遠近感に差が認められ、ソニーは奥行き方向のなめらかな距離感、エイム電子は人物の立体感がそれぞれ際立つことに気付いた。どちらも不自然な強調感とは無縁なのだが、何度繰り返し見ても、風景全体と人物という具合に視覚上の注意が集中する対象が両者で異なるのは不思議な経験である。『きみに読む物語』でも同様な違いを見出せるが、この作品ではブルーとグリーンの彩度に差があるように思われ、あえて言えばソニーは透明感重視、エイム電子は鮮やかさ重視の傾向がある。しかし、その差は僅かなものだ。
次に、BDP-LX91とオンキョーのTX-SA805をそれぞれのHDMIケーブルで接続し、BDの音質を聴き比べた(TX-SA805はプリ部のみ使用)。発売からしばらく経つTX-SA805では差が出にくいかとも思ったが、厳密に聴き比べるまでもなく、映像以上に大きな違いを聴き取ることができた。
結論から言うと、ソニーのESシリーズは分解能と空間再現力に優位性があり、エイムのRシリーズは主に低域のエネルギー感にメリットがある。ESシリーズは、ハイティンク指揮コンセルトヘボウ管のBDにおいて、このホール特有の天井の高さ、ステージ上方に抜ける温かい残響感が耳に蘇ってくる。同じNHKのBDを例にとると、エイムのRシリーズは小澤指揮の『幻想交響曲』の最終楽章、低弦と金管楽器の重量級のサウンドに説得力がある。そのほかにも音色やスピード感に微妙な差を聴き取ることができるが、3次元の音場再現力を重視するなら、ソニーの新しいHDMIケーブルは有力な候補になると思う。
3D機器や4K2Kディスプレイが登場すると、否応なくHDMI 1.4対応ケーブルの話題が盛り上がると思うが、その前に、既存のAV機器でも顕著な差が出ることがわかった。今回の画質&音質比較の最大の成果は、その違いの大きさにあらためて気付いたことである。