クアルコム、AI時代のスマホ&PC向け最新Snapdragonを発表。独自CPU「Oryon」による性能向上を加速
米クアルコムが、コンシューマ向けデバイスの最新世代のチップセットを発表するイベント「Snapdragon Summit 2025」をハワイのマウイ島で開催。
先に概略だけが公開されていたモバイル向けの「Snapdragon 8 Elite Gen 5」の詳細と、新たなコンピューティングデバイス(PC)向けのフラグシップである「Snapdragon X2 Elite Extreme」「Snapdragon X2 Elite」を正式に発表した。
イベントの初日にはCEOのクリスティアーノ・アモン氏による基調講演が行われた。
「AIスマホ」の進化を促すSnapdragon 8 Elite Gen 5
最初に各チップセットの特徴を紹介する。モバイル向け、PC向けのチップセットに共通する点は、クアルコムが自社で設計するCPU「Oryon(オライオン)」の最新第3世代のプロセッサーが採用されたことだ。
まず、Snapdragon 8 Elite Gen 5(以下:8 Elite Gen 5)はプレミアムクラスのモバイルデバイスに搭載されることを想定したチップセットだ。
クアルコムは、初めての開催から今年で10周年を迎えたSnapdragon Summitでプレミアムクラスのチップセットを発表してきた。2024年に発表した「Snapdragon 8 Elite」についても筆者は本誌でレポートしているが、今年のチップセットは名称がいきなり「Gen 5」になっている。
その理由は同社のプレミアムラインアップ内の「新階層」であるEliteシリーズの高い性能を持ちながら、2021年に発表したSnapdragon 8 Gen 1以降に確立されたフレームワークを踏襲する「第5世代」のチップセットだからだ。なお名称にEliteを冠した時から、モバイル向けチップセットにも初めてOryon CPUが搭載された。
8 Elite Gen 5は、第3世代となるカスタム設計のOryon CPUを核とし、チップセット全体のパフォーマンスと電力効率を引き上げている。製造プロセスには3nm(ナノメートル)技術を採用した。
CPUは最大4.6GHzの速度でピークパフォーマンスを発揮する。Adreno GPUも全体のパフォーマンスが23%向上し、消費電力を20%削減した。クアルコムは特にゲーミングやマルチタスクの応答性能に違いを実感できるとしている。
Hexagon NPU(Neural Processing Unit)は、スマホなどモバイル端末における効率的なAIタスクの処理を担う。近年のSnapdragonのチップセットにおける中核部分だ。
クアルコムが長年開発するDSP(デジタルシグナルプロセッサー)は、元はオーディオやセンシングの処理を低い消費電力でこなす演算処理の役割を担っていた。
2018年に同社が発表したSnapdragon 845以降から、Hexagonにも1回の命令で複数のデータを並列に処理するベクトル拡張を加えて、画像処理や機械学習の推論処理を含む、いわゆるAI系のタスクをこなす中核部として位置付けられた。
さらにSnapdragon 855世界以降はTensorアクセレレーターを加えて、AI推論処理の精度を高めている。
現在はHexagon NPUとして進化し、Adreno GPU、Oryon CPUとともに複数のコンポーネントで構成されるSnapdragonのAI Engineが連携して、全体として負荷の高いAI処理を素速く、消費する電力を抑えながらこなす。
Snapdragonには低い消費電力で様々なセンサーから集まるデータを処理する専用のサブシステム「Qualcomm Sensing Hub」が統合されている。
8 Elite Gen 5では、このSensing Hubに「Qualcomm Personal Scribe」という新しいAIアクセラレータを追加。デバイス上(オンデバイス)でのAI学習機能を高めることにより、パーソナライズされたAI体験と、日常のより快適なアプリの操作性などを実現する。
クアルコムでは、モバイルデバイスにおける「AIエージェント体験」のレベルアップに貢献すると説明している。
オーディオ・ビジュアル体験は何が変わる?
スマートフォンにおけるオーディオ・ビジュアル体験、あるいはそのクリエーション体験を高める新しい要素も8 Elite Gen 5チップに加わった。
イメージセンサーと連動する画像信号処理プロセッサー(ISP)「Qualcomm Spectra」は3つの20bit深度のAI-ISPを搭載したことにより、リアルタイムのセマンティックセグメンテーション処理の精度を高めた。被写体の種類を個別に認識しながら、より高品位な写真の記録等を実現する。
ビデオコーデックにはサムスンが開発を主導し、Android 16以降に採用が始まった「Advanced Professional Video(APV)」コーデックが新たに採用された。主にプロフェッショナルの映像クリエイターによる、ポストプロダクションワークフローに貢献するコーデックになりそうだ。
パフォーマンスが23%、消費電力が20%削減されたAdreno GPUには、Adreno High Performance Memory(HPM)が導入され、画像のレンダリング処理性能を高めている。Unreal Engine 5もフルサポートし、モバイルデバイスに最良のゲーミング体験を実現するプラットフォームとした。
サウンドは2023年に産声をあげた、BluetoothオーディオのプロファイルをWi-Fiプロトコルの上に走らせて、優れた音質と高いロバスト性能、低遅延伝送を実現するワイヤレスオーディオの新技術「Qualcomm XPAN」に8 Elite Gen 5も対応する。
さらに、スマートフォンの内蔵マイクによるプロレベルのサウンド収録を可能にするマイク技術のスイート「Snapdragon Audio Sense」も新たに加えた。
Snapdragonのモバイル・PC向けチップと、クアルコムによるBluetoothオーディオ向けチップの最先端については、別途今年のSnapdragon Summitで取材した成果をレポートしたい。
その他、5G Advanced・ミリ波・sub-6GHzに対応する「Qualcomm X85 5G Modem-RF」はダウンリンクが最大12.5Gbps、アップリンクが最大3.7Gpbsをサポートする。
メモリはLPDDR5xをサポートし、最大24GBのメモリ実装が可能。Qualcomm Quick Charge 5の充電技術も採用する。
PC向けSnapdragonのプレミアム級チップが第2世代に
PC向けのチップセットはプレミアムクラスの「Snapdragon X2 Elite」に加えて、さらに高性能なWindowsのラップトップPC向けを想定した「Snapdragon X2 Elite Extreme」を新しくプロダクトのラインナップに加えている。
クアルコムはSnapdragon X2 Eliteを搭載するデバイスが発売される時期を、2026年前半に見込んでいる。
いずれのチップセットも、製造プロセスには3nm(ナノメートル)技術を採用する。
先述の通り、クアルコムによる第3世代のOryon CPUを載せた。クアルコムはWindows PCに実装した時に、優れたパフォーマンスと高い電力効率の両方を実現すると説いている。
Snapdragon X2 Elite Extremeは最大18コアを備え、5.0GHzに達する初のARM互換CPUとなる。Snapdragon X2 Eliteは新しいプライムコアアーキテクチャによるハイパフォーマンスを特徴としている。
マイクロソフトのCopilot+ PCが次世代のAI PCが搭載するNPUの性能の公式要件としている40 TOPS(Trillion Operations Per Second)の2倍となる80 TOPSの処理性能を持つNPUを統合している。負荷の大きなワークロードを高速に、かつ正確にこなすという。
ほかにもGPUアーキテクチャのアップグレードを図り、5G対応のQualcomm X75 5G Modem-RF SystemとセキュリティサブシステムのSnapdragon Guardian Technologyによる高速でセキュアな通信を実現すると同社は説明。
また、Wi-FiにBluetooth、UWBなどワイヤレス通信の技術を統合したチップセット内のモバイルコネクティビティシステムは最新世代のQualcomm FastConnect 7800を実装している。
AIエッジデバイスとクラウドが連携する豊かな未来の生活
Snapdragon Summit 2025の開催初日には、クアルコムの社長兼CEOであるクリスティアーノ・アモン氏による「あなたのためのエコシステム」と題した基調講演が開催された。
アモン氏はクアルコムが考える、AIが人々の生活の中心的なテクノロジーとなる未来の展望を様々な視点から語った。
クアルコムは今回のイベントで発表したモバイルデバイスやコンピューティングデバイスに加え、オートモーティブ、ウェアラブル、ワイヤレスオーディオ、スマートグラス、さらに産業用機械やロボティクスなど、社会インフラを支える幅広いエレクトロニクス製品の頭脳となるチップセットを手がける半導体メーカーだ。
多種多様なデバイス上(エッジ)で、高性能なチップセットが人間中心の豊かな体験を支え、同時に大規模な学習や複雑な処理はクラウドを介して連携させることで、「あなた(=人々)のためのエコシステム」を実現する。アモン氏は、そうした現代のAIテクノロジーを俯瞰した未来像をスピーチの壇上から共有した。
筆者にとっては、アモン氏が今後将来にAIエージェントを実装し、「あなたのためのエコシステム」の中で重要な役割を果たすキーデバイスとしてワイヤレスイヤホンのようにウェアラブルなオーディオ機器を挙げたことが印象的だった。
また、アモン氏は、「5Gの次の世代である6Gのように、(AIが生成する膨大なデータをやり取りできる)さらに高速でインテリジェントな通信技術が不可欠」であるともコメント。AIテクノロジーを中軸としながら、より豊かな社会と生活を実現するため、ハードウェアの刷新とともに通信技術のさらなる高速化が必要なのだと述べた。
アモン氏によるスピーチの壇上には、ゲストスピーカーとして米グーグルのプラットフォーム&デバイス部門SVPであるリック・オステルロー氏が招かれた。同氏はGoogle Pixelデバイスの発表会にも毎度登壇する、グーグルのコンシューマーデバイスの“顔”としても知られている人物だ。
アモン氏とオステルロー氏は互いに旧知の仲であり、 両社の協力関係もAndroidの黎明期である2006年にまで遡るという。当時はフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行期であり、最初のAndroidスマホを開発して以来強いパートナーシップを築いてきたという。
現在も両社はAndroidデバイスにおける協力を深めつつ、Google Pixel WatchではSnapdragonシリーズのウェアラブル向けチップセットを搭載するモデルも商品化した。両社にサムスン電子を加えたパートナーシップでは、現在Android XRをベースとしたXRヘッドセットやスマートグラスなどの製品まで幅広く共同開発を行っている。
グーグルといえばAIエージェントの「Gemini」を、スマートフォンや同社のソフトウェアなどにも幅広く実装し、今では多くのユーザーから認知を得ている。
SnapdragonとAndroid、そしてGeminiが加わることにより、今後もクアルコムが提唱する「あなたのためのエコシステム」やAIエージェントを中心に置いたユーザー体験がどのように進化していくのか注目したい。






























