前代未聞の静寂。“純マグネシウム・カップ”をまとったティグロンのインシュレーター「MZ-Grande」レビュー
ロシアンバーチ材のカップにマグネシウムインシュレーター。ティグロンを代表するインシュレーターとしてロングセラーを記録しており、実際に使用している方も多いだろう。ここに、その進化系とも言える「MZ-Grande」が登場した。新たに純マグネシウム製のカップを開発、その効果を林 正儀氏が体験する。
ティグロンの起源となったインシュレーターが大幅刷新
インシュレーターとスタンドは、ティグロンの発祥となる製品だ。20年ほど以前から振動理論の研究、製品作りに励んできた歴史があるが、そのインシュレーターから史上最強の最高峰、グランデの名を冠した「MZ-Grande」が登場する。純マグネシウム製の新開発カップ、グランデカップにマグネシウムインシュレーター、MZ-1/2を収めたハイブリッド構造だ。その秘められた技術ポイントと効果を検証したい。
ティグロンのインシュレーターといえば、マグネシウムとバーチ/ハイブリッドのTMXシリーズだ。M1、M2+カップセットで、シックな天然バーチ材が美しい。このカップルは音質的な相性もよく、筆者も愛用したものだが、惜しくも生産完了となった。
これを引き継ぐのが、マグネシウム材をベースとした今回の「MZ-Grande」だ。開発の背景には世界戦略がある。欧米やアジアとワールドワイドに展開した場合、ウッド材だと個体差が出る。水分量も違えば作りも若干異なる。国によって湿気があったり、木の水分がマグネシウムに悪さをする等々……。そこでカップの方をマグネシウムに変え、なおかつ独自のエージングプログラムである「マグネティック ZERO プロセス」をかけて飛躍的に性能と安定度を向上させた。
チューニングリングも初搭載。設置時の方向性も指定する
シャープで精密な質感だ。サイズはφ53×345Hmm。純マグネシウム同士のカップとインシュレーターで、カップ内にはGMRラックで初採用された「D-REN Tuning Ring」も搭載。これはフッソ系ゴム素材の表面に、レアメタルの金属を何と4工程も蒸着したものだ。適度な弾力でインシュレーターを受ける。
側面の2本のリング(溝)は反響止め。設置面には十字の細い溝とファントムアースダクトを呼ぶセンター穴も見える。これはTMB-500EXボードと同じく、中の圧を自由に外に開放するのが目的だ。平らな面にセットすると穴が塞がるため、十字のスリットが設けてある。深さ1mmほどだが、スリットのあるなしで全く音が違うという。
実は設置にも方向性があり、正面から見てXの中央が手前にくるようにする。このため7月発売の完成品ではTiGLONマークを貼るそうだ。グランデはオーディオラックやHSEトリートメントなど、ティグロンの最高グレードだけに許された命名だ。新型カップもグランデカップと呼ばれる。これは理にかなったインシュレーターの進化形といえる。
シャープな立ち上がりと明瞭で広大な音場を生む
立ち上がりのシャープさやクッキリと明瞭で広がりのある音場など、様々なノウハウの集大成を感じることのできる効果である。いくつか音楽ソースを聴いたが、S/Nは限界知らずだろう。汚れや滲み、そしてあらゆるノイズが恐れをなして消え去るような、この静寂さは前代未聞である。
「椿姫」などのオペラアリア集は息を呑む多彩な表現力で、叙情を込めた微細音がことさら瑞々しい。これは美しく泣ける名曲だ。最新録音の「春の祭典」は、高性能レンズで覗いたようなリアルな音像定位にのけぞった。実に彫りが深く音像に芯が生まれる。遠近の空間表現や魂をゆさぶる起伏のダナミックさもまさに最高だ。純マグネシウムのグランデカップとD-REN Tuning Ringのコラボが、隅々まで効いているなと実感した。
アレッサンドロ・ガラティ(P)など、欧州ジャズの麗しくも繊細なニュアンスをより引き出すのはスリットチューンの巧みさだろう。ブラス付きバンドやエレクトリック系は、爆音がうるさくなるどころかスカっとして気持ち良い。ファントムアースダクトででピークがさらに伸び、天まで駆け上がっていくイメージだ。二重のリングは純マグの丸棒削り出しによる反響止めだが、確かに共振モードをずらす効果があるようだ。十字のパターンはちょっと向きをかえただけで敏感に反応する。ぴたっと合えばフォーカスが痛快に決まる。“見える音” が欲しければこのインシュレーターだろう。
「MZ-Grande」は3個入りと4個入りを用意。プレーヤーやDAC、ネットなど上流ソース機器の効果は格別で、コンポの性能を100%発揮させよう。これは鳥肌もの。インシュレーター好きのオーディオファンにぜひ薦めたい。使いこなしとしては複合共振止めのD-REN Proとの併用がベターだ。
(提供:ティグロン)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー197号』からの転載です































