PR 公開日 2025/05/30 06:30

米国屈指の人気スピーカーブランド「Polk Audio」、隠された“ハイコスパの謎”に迫る

高音質を手軽に叶えるスピーカーを5モデルで比較検証

2020年の日本再上陸から、瞬く間に根強いファンを獲得した米国のスピーカーブランド「Polk Audio(ポークオーディオ)」。今回はオーディオ評論家の中で“自作派”として名高い炭山アキラ氏に、Polk Audioが「ハイコスパで高音質を実現した秘訣」を主要モデルから紐解いていただいた。

左から「MXT15」(275,00円)、「ES15」(46,200円)、「R100」(77,000円)、「R600」(206,800円)、「MXT60」(66,000円)。いずれも税込・ペアの価格。

各シリーズや各モデルに合わせ入念に設計している

ポークオーディオのスピーカーは、プライスタグを見る限りでは初級 - 中級スピーカーという印象を持たれるかもしれないが、中身をのぞいてみるとユニットやキャビネットにとてつもないコストと技術、ノウハウが込められていることが分かる。

最も廉価な“MONITOR XTシリーズ”にしてユニットは完全自社開発・生産だし、巨大なマグネットを背負っている。特にMONITOR XTシリーズのトールボーイはユニットがたくさんついているが、例えばMXTの上位2モデルはパッシブラジエーターだ。動作的にはバスレフと相似だが、キャビネット内にこもる嫌な音を表へ出さぬため、あえてこのコストをかけている。

ウーファーの振動板面積に比してキャビネットが大きいのは、そうすることでパッシブラジエーターの性能が最大化されるからだ。上級の“SIGNATURE ELITE”と“RESERVE”いずれのシリーズもユニットには大変な技術が投入されており、前者はマイカ強化PPコーンのウーファーに大径のソフトドーム、後者は独特の凹凸を持つタービンコーンのウーファーとリングラジエーターのトゥイーターという、このクラスでは考えられないユニットである。今回は取り上げていないが、最上級のR700にはアルミ/PP複合の200mmウーファーも投入されている。

 

キャビネットはすべてのモデルに肉厚なMDF材を用いており、バッフルの構造、内部補強も一切の妥協がなく、定在波を抑えて不要な共振を排除するように設計している。

上位2シリーズはバスレフだが、あるモデルはダクトの前面にディフューザーを設け、また他の製品はダクトの共振を排除するX-Port技術を採用する。いずれも中域の音漏れを最小化しつつ低域を稼ぐ、同社の特許技術である。キャビネットは比較的軽量だが鳴きは少なく、大きなトールボーイでも箱の共振が音を濁さない。

クロスオーバー・ネットワークもクラスとしては考えられないようなコストがかかっており、コイルは定数に応じて空芯とコア入りを使い分け、上級機はコアにケイ素鋼板積層のプレミアムな素材が用いられている。コンデンサーは下位2シリーズは電解が中心だが、われわれ自作派がよく知る一般的な電解コンデンサーのブヨブヨと不自然な音は、同社製品からは一切出てこない。よほど巧みに素子の選別がなされているのであろう。RESERVEシリーズは高価なフィルムコンデンサーが多数用いられている。

同社のノウハウによる巧みな補正、そして高品位パーツを用いたクロスオーバーネットワーク。左からMONITOR XTシリーズのMXT15、SIGNATURE ELITEシリーズのES15、RESERVEシリーズのR100。

ほぼすべてのモデルに40kHzまでの超高音域に対応するトゥイーターを搭載。さらに最上位のRESERVEシリーズのみ、50kHzに及ぶピナクル・リングラジエーターを採用する。

 

エントリーのMONITOR XTシリーズ

 

「MXT15」 27,500円(税込/ペア)
SPEC ●トランスデューサー:25mmテリレン・ドーム・トゥイーター、130mmバイ・ラミネート・コンポジット・ウーファー●エンクロージャー形式:リア・バスレフ型●再生周波数範囲:48Hz - 40kHz●インピーダンス:4Ω(4Ω - 8Ω出力のアンプに対応)●感度 (2.83V/1m):86dB●クロスオーバー周波数:2.2kHz●サイズ:166W×270H×183Dmm●質量:4.1 kg

MXT15から聴く。クラシックはこの小さいスピーカーが部屋中を音場にしてしまうことに痺れる。音離れ良く、やや陽性だがしっとりとした潤いも感じさせる。クラスというものを完全に無視したクオリティだ。オケは広大な空間の中へ有機的な響きをまといつつすっくと定位し、低弦やティンパニーの帯域まで結構な質感とスピード感で描き出す。

成分無調整サウンドのジャズはさすがに高品位とまではいかないが、鳴りっぷりと生々しさにかけては一流だ。猛烈なパワーと低域の量感を必要とするフュージョンも、難なく聴かせてしまうことに驚愕した。全然無理した素振りを見せないのに、この器の大きさはどうだ。見た目とのアンバランスに混乱を覚えるレベルである。

 

MXT15のウーファー用磁気回路には、3個のマグネットを組み合わせることで磁束密度を十分に高め、クリーンかつパワフルな低音再生を実現。リア・バスレフを採用する。

ポップスは、高級スピーカーと比べれば両端のレンジ、音場の重層的な展開、音像の実体感とも少しずつ減退するのだが、類稀なバランス感覚で過不足なく聴かせてしまうのが凄い。常識外れの物量投入に加え、音作りを担うエンジニアの感性が確かなことも、音質からありありと伝わってくる。

次はグッと大きなMXT60を聴く。振動板が大きくなると、時に音は鈍くなりがちだが、本機にその心配はない。鳴きの少ない振動系を強力極まる磁気回路がしっかりとグリップしている、そんな第一印象である。

「MXT60」 66,000円(税込/ペア)
SPEC ●トランスデューサー: 25mmテリレン・ドーム・トゥイーター、165mmバイ・ラミネート・コンポジット・ウーファー●エンクロージャー形式: パッシブラジエーター型165mmパッシブラジエーター×2●再生周波数範囲:38Hz - 40kHz●インピーダンス:4Ω(4Ω - 8Ω出力のアンプに対応)●感度(2.83V/1m):86dB●クロスオーバー周波数:2.2kHz●サイズ:229W×925H×251Dmm●質量:9.1kg

クラシックは弦も声も存在感が太く、重厚かつ軽やかな表現が素晴らしい。オケはMXT15と同じく広大で濃厚な音場の中に有機的な音像が定位、ティンパニーやグランカッサがホールの空気を揺り動かすさまを深々と表現するところなど、僅か6万円ほどのスピーカーとはとても思えない。

ジャズの成分無調整サウンドは、しっかりと楽器そのものの質感を描いてみせ、目を閉じると演奏者がいるような錯覚に陥る。超パワーのフュージョンは最低域こそ若干不足するが、このあふれるパワーとスピードをかなりのレベルで再現するのが凄い。思い切って大きなキャビネットに2発のパッシブラジエーターを備えた本機ならではの旨味であろう、と感じる。

MXT60は2基のパッシブラジエーターを搭載。ダブル・ダンパーを用いることで低域の歪みを低減し、広い空間でもスケール感と切れの良さを兼ね備えた低音再生を可能にした。

ポップスは難しい音場の重層性をしっかり描き出してくることに舌を巻く。最低域の僅かな不足を除き、ほとんど文句なしといって良い。大きなキャビネットでウーファーが楽々と動く旨味が存分に発揮されているのであろう。

ミドルクラスのSIGNATURE ELITEシリーズ

「ES15」 46,200円(税込/ペア)
SPEC ●トランスデューサー:25mmテリレン・ドーム・トゥイーター、130mmマイカ強化ポリプロピレン・ウーファー●エンクロージャー形式:バスレフ型(リアPower Port)●再生周波数範囲:44Hz - 40kHz●インピーダンス: 4Ω●感度(2.83V/1m):85dB●クロスオーバー周波数:2.4kHz●サイズ:192W×306H×259Dmm●質量:5.9kg

SIGNATURE ELITEシリーズからは、ブックシェルフのES15を聴いた。クラシックは音の品位が上がり、MONITOR XTシリーズよりも若干ゆったりした鳴り方になる。声には潤いが通い、弦の艶が濃厚さを増す。低弦の厚みも、キャビの大きさを考えたら大したものだ。オケは大迫力で音像が前へせり出し、しかし一切耳に触らず余裕たっぷりに歌わせている感が強い。グランカッサもローエンドまでよく伸びる。

ジャズの成分無調整サウンドは、生々しさと勢いをほとんど削がず、それでいて巧みに聴きやすく仕上げてくる。フュージョンは持ち前のパワーと厚みをしっかり表現し、結構なコクをつけてくるところなどに器の大きさが知れる。これは大したものだ。

 

EX15を含むSIGNATURE ELITEシリーズは全てのモデルにPower Portを搭載。緻密に設計された形状によって、一般的なバスレフポートに比べて約3dBの出力アップを実現。

ポップスは声の質感が太く豊かで、思わず聴き惚れる。ドラムスも厚くパワフルに鳴りまくり、一歩の余裕を残しつつこれだけ躍動感を引き出すのだから、改めて優れたスピーカーだなと感心した。

 

最上位のRESERVEシリーズ

「R100」 77,000円(税込/ペア)
SPEC ●トランスデューサー: 25mmピナクル・リングラジエーター・トゥイーター、130mmタービンコーン・ミッド/ウーファー●エンクロージャー形式:バスレフ型(リアX-Port)●再生周波数範囲:44Hz - 50kHz●インピーダンス: 4Ω●感度(2.83V/1m):86dB●クロスオーバー周波数: 2.7kHz●サイズ:166W×324H×260Dmm●質量:5.5kg


さぁ最上級のRESERVEシリーズへ進もう。ブックシェルフのR100から聴く。クラシックは第一音が出た瞬間からそのコクの深さ、スケール感、絡み合うハーモニーの美しさ、音場の濃厚さがはっきりと違う。“上位概念”とはこのことかと身にしみる。声の実体感、弦の瑞々しさ、まるで何倍も上級のスピーカーを聴いているようだ。オケはスケール感とパワー、厚みが大幅向上。普段の取材で用いるレファレンスのアキュフェーズのパワーアンプP-7500、プリアンプC-3900、SACDプレーヤーDP-770を使っているから、価格的にクラス違いなのは間違いないが、これだけの品位で音楽を鳴らすのであれば、決して無駄な出費といい切れないところがある。

ジャズの成分無調整サウンドは生々しさと勢いに厚みと艶が乗り、何倍も高価な楽器に買い替えたようなサウンドを聴かせる。振動板もキャビも余分な音が出ず、持ち前の器の大きさとソフトのキャラクターが万全に生きるのであろう。フュージョンはMONITOR XTシリーズと比べれば若干大人しいが、パワーと厚みを表現しつつ粗野にならないところが素晴らしい。ローエンドもよく伸びる。

R200はX-Port(エックスポート)を採用。中低音域に最も効果的に作用し、バランスのとれたクリーンな中低音域を確保しながら、ディテールとダイナミクスの強化を図っている。

ポップスは重層的な音場を巧みに分解しつつ、そこへ厚みと気品を加えてくるのがさすがだ。声はハスキーさが耳に障らず、歌手の抑揚をよく表現する。いやはや、何という“小さな大物”っぷりであるか。驚愕の他ない。

最後はR600のお出ましを願おう。脚はゴム製かと思ったら、スパイクにゴムのカバーがかかった構造で、どちらか好きな方で聴いて下さい、ということのようである。もちろん私はスパイクで聴く。

「R600」 206,800円(税込/ペア)
SPEC ●トランスデューサー:25mm ピナクル・リングラジエーター・トゥイーター、165mmタービンコーン・ミッド/ウーファー×2●エンクロージャー形式:バスレフ型(ボトム Power Port 2.0)●再生周波数範囲:35Hz〜50kHz●インピーダンス:4Ω●感度 (2.83V/1m):87.5dB●クロスオーバー周波数:2700Hz●サイズ:281W×1,064H×382Dmm●質量: 21.5kg

クラシックは声が遥か奥から朗々、滔々と響き渡る。音離れ良く音楽を積極的に鳴らしつつ、荒れたりはしゃいだりしないのが実に好ましい。品位の高さと鳴りっぷりの良さをかなり高いところで融合したという印象だ。オケはスケール大きく、各楽器の遠近感を濃厚で見晴らしの良い音場の中にしっかりと描き分ける。まるでスピーカーが音楽を鳴らしたがっているような、そんな積極的な表現に惚れた。

ジャズの成分無調整サウンドは反応が極めつけに良く、立ち上がり/立ち下がりに優れ、それでいて背伸びをしたようなところがなく余裕たっぷりに鳴らしまくっている感じがよく出る。フュージョンはパワーとスピードを楽々と表現しつつ、キリッと音像を締めてくるところが凄い。何よりハッピーで楽しい演奏にスッと入っていける音の素直さ、フレンドリーさが素晴らしい。

R600は独自のバスレフポート技術「Power Port 2」を採用。低音域をより深く、高い出力レベルで再生することができ、床近くに配置することで、音響特性と美観を向上させている。

ポップスは重層的な音場をこともなげに表現するのみならず、スピーカー2本でさながらサラウンドのように部屋中ヘ音を広げる。微小域の再現がよほどしっかりしていなければ、この表現は覚束ない。ゲートのかかったドラムスのパワーと切れ味も上々で、どこにも弱点のようなものが見当たらない。いやはや、凄いスピーカーだ。

ここまではレファレンスの高級セパレートアンプで聴いていたが、ここでデノンのエントリーからミドルクラスにあたるプリメインアンプPMA-900HNEをつないでみると、もちろん同じにはならないが、それでも結構なレベルでガンガン鳴ってくれるのに驚く。うむ、これは十分以上に実用範囲だ。

デノンのHEOS Built-in プリメインアンプ「PMA-900HNE」132,000円/税込

一方で、比較的廉価なスピーカーケーブルからコードカンパニーのハイクラス「SarumT Speaker Cable」に交換してみると、猛烈に音が伸びて音場が広がり、貴族的な気品で音楽が朗々と奏でられるではないか。ケーブルの持つ力量もさることながら、その違いを遺憾なく表現して見せるR600とPMA-900HNEの組み合わせには脱帽だ。次回からこの両モデルがレファレンスになっても、私は一切困ることがないだろう。

本記事は『季刊・Audio Accessory vol.197』からの転載です

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