“あんスタ”のブルーノート・ジャズライブをドルビーアトモスで生配信 !高音質の舞台裏を訊く【後編】
ゲームアプリ『あんさんぶるスターズ !!』に関わる楽曲収録や、登場キャラクターの声優によるライブ活動における、サポート・ミュージシャンたちで構成されたESバンド。ジャズの殿堂ブルーノート(会場は恵比寿にあるブルーノートプレイス)にて、彼らが主役となり行われたコンサートは、会場にいたファンだけでなく、その素晴らしい演奏を求める多くのファンに向けて、ドルビーアトモスで生配信された。

さて、前編ではポップス系では日本初となるドルビーアトモス生配信を支えた外部施策ディレクターHA氏、そして、サウンド・エンジニア入交英雄氏のインタビューを敢行した。
そして、後編では、ドルビーアトモス生配信を実現したKORG(コルグ)社のインターネット配信技術「Live Extreme」(ライブ・エクストリーム)の開発/運営を行うエンジニア、今回のライブを成功に導いたブルーノート・ジャパンの福田安男氏、そして、ESバンドの皆様からコメントをいただいた。
1つのライブ配信に対して、様々な役割の人がいかに関わっていたのか。ぜひ最後まで読んでいただければ幸いである。
“オーディオファースト” Live Extreme担当者インタビュー
昨年の8月、9月にブルーノートプレイスで行われたESバンドのドルビーアトモス生配信。配信の要になったシステムがコルグ社の“Live Extreme(ライブエクストリーム)”。どんなシステムなのか。担当者の山口創司さんと堀 雄輝さんにお話をうかがった。
――早速ですが、Live Extremeの特徴をお話しいただけませんか?
山口 一言でいうなら、PCにASIOを使って音声信号を、HDMIもしくはSDIで映像信号を入れて、コンテンツを流すだけで配信できるというシンプルなものになります。
堀 はい。普段はデスクトップPCで動作させているんですけど、ESバンド・ライブの配信当日は、トラブルが起きたときの冗長用にノートPCを持っていきました。1台でもできるのですが、基本的には2台体制で行っています。その音声と映像のデータは、PCからコルグのサーバーに送られて配信されます。
――ESバンドのライブ時、映像はSDI(FHD/1,080p)を送っていたと思いますが、資料を拝見すると転送レート最大1,024kbpsとあります。映像信号もここに入っているのですか?
堀 いえ、音声だけで最大1,024kbpsです。ただし、今回はリアルタイム配信なので768kbps(Dolby Digital Plus)でした。いま、わかりやすいようにLive Extreme Encoderを立ち上げました。入力しているのはLive Extremeが立体音響に対応した時に作っていただいたテストトーンと音楽で、作曲は砂原良徳さんです。
――ユニークですね。遊び心を感じます。ESバンドのミキシングを担当された入交英雄さんにインタビューした際「オブジェクトは固定している、というイメージを持った方が良い」と話されていました。
山口 入交さんのお話は、生配信であるというのが、一番大きな理由だと思います。例えば64chとか、演者に立てられたマイキングを行い、「この音は右のハイト」「この音は左サイド」「後ろはこの音で包もう」など、事前にミックスするなら7.1.4chで作り込むことができるでしょう。でも、生配信ですから、定位を変化させることまでやるのは難しい。なので、ほぼチャンネルベースの話になったのだと思います。
堀 ライブではLFE(サブウーファー)を使っていないので7.0.4chでした。
――その状態で、初日の生配信を行なったそうですが、次のライブまで2週間ぐらい空いたので、さらに音質をよくできないかといろいろ試されて、5.0.4chにすると音が良くなることがわかったそうです。
山口 チャンネル数を減らせば、1chあたりのデータが増える、という考えですね。確かに効果はあります。
――入交さんは配信時に音声を聞きやすくするため、ターゲット・ラウドネス値(1つのコンテンツ中の平均音量)を-14LUFSと決めてミックスしていました。-14LUFSは、YouTubeでも推奨されている値ですよね。
山口 配信では、この値が結構重要になってくるんですよ。確かにライブ配信の時は、-14LUFSぐらいにするとバランスが良いんです。
映像との同時配信でもビットパーフェクトを実現
――Live Extremeは、できてからどのくらい経つのでしょうか?
山口 私達がLive Extreme開発を始めて、世に出てから5年ですね。この5年間で、最大PCM 384kHz/24bit、DSDは5.6MHzのハイレゾを可逆圧縮のFLACで配信するところから始まって、立体音響のAURO-3D、MPEG-H 3D Audio、ドルビーアトモス、HPL(Head Phone Listening)まで対応しています。おかげさまで段階的に利用者も増えています。
配信方式は、私たちのエンコーダーとサーバーを使うだけで、基本的にはYouTubeなどと同じようなごくごく一般的な配信の仕組みです。ただし、サーバーに上げて、リスナーに降りるまで音が劣化しないように、ロスレスを使用して、ブラウザで受け取る。そこに工夫がありまして、うまくサーバーでの再圧縮を回避して配信しているのが、Live Extremeの最大の特徴(下図)です。
そうした仕組みを作っているのですが、まだ384kHzを使ったお客様はいません(笑)。192kHzまでは使ったことがあります。
――そうでしょうね(笑)。でも、384kHzを聴くと世界が変わります。以前、384kHz、DSD 11.2MHzで録音するという検証実験に同席したんですけれど、音がめちゃめちゃよかったです。
山口 もうひとつ特徴を上げると、DSDを扱う場合、途中でサンプリングレート・コンバーターを通ったり、サーバーで再エンコードされたり、そういうことが起きるとノイズになってしまいます。Live Extremeでは、映像が付いていてもビットパーフェクトで送信できる仕組みになっています。
――もう少し詳しくお願いします。
山口 映像と音声の同期は、映像配信では必ずしなければなりません。通常は映像信号に対して、音声信号を合わせていくというやり方をします。ただし、同期させなければいけないので、音声信号は必ずサンプリングレート・コンバートを通るのが、映像機器の宿命なんですよね。
映像でいうとこれをエンベデットと言います。エンコーダーがエンベデッドする時もありますし、スイッチャーにミキサーからオーディオ信号を入れてエンベデッドして次に渡す。その後、必ず音声信号と映像信号のサンプリングレート・コンバートを統一します。リサンプリングと言ってもいいかもしれませんね。
この時点で、データに欠損のないビットパーフェクトが崩れるんですね。そうするとDSD信号は通らずノイズになります。そこでLive Extremeの仕組み(下図2)は、音声信号と映像信号の両方ともデコーダーに入ってきた時から常にカウンターで監視します。
映像と音声では、クロックが違うので徐々にずれてくる。もうこれ以上ずれたら同期が外れるという時、音声信号は一切触らずに、映像信号を必ず音声信号に合わせる。このようにして、音声信号のビットパーフェクトを担保しています。
――今回のESバンドでも同じように配信したんですね。
山口 もちろんです。Live Extremeは、この仕組みがコアです。
各種立体音響フォーマットの配信にも力を入れる
――あくまでも音声信号が最優先する、と。
山口 そうですね。でも、映像にも力を入れていて、最大4K60fpsまで、HDR10にも対応しています。
――Live Extremeは、5年前にサービス開始ということですが、この5年間の変遷を教えてください。
山口 先ほどもちょっと触れましたが、最初からLive Extremeはロスレスを使って、ハイレゾ(最大384kHz/24bitとDSD 5.6MHz)までのステレオ音源の配信ができました。映像は4K対応だったので、4K+ハイレゾという所から始まっています。
その次に着手したのはサラウンド(5.1ch、7.1ch)。あまり皆さんに知られていないんですけれど、どのウェブブラウザも8ch信号を扱えるんです。それならサラウンドが通せるよねというので、サラウンド配信も行えるようにしました。
その次に、僕らはオーディオが好きなので、映画が中心だったドルビーアトモスより先にAURO-3D配信に手を付けました。AURO-3D配信と同時にバイノーラル・プロセッシング技術HPLにも対応しました。
私たちがサラウンドや立体音響を配信しても、ホームシアターのようなスピーカーを使ったマルチch環境がある方はとても少ない。そこでヘッドホン、イヤホンのためにHPL処理した信号も送る。そうすると、サラウンドや立体音を一般のリスナーは聴くことができるようになります。
――立体音響はAURO-3Dから始まっているのですね。
山口 AURO-3Dもけっこうな作品数を数えます。東京藝術大学の作品がデジタルツインというところで発表されていますが、それらもAURO-3Dです。他にもWOWOWと協力して、アメリカに向けて世界初の96kHz/24bitでAURO-3Dのリアルタイム配信を行いました。その時は複雑なリモートプロダクションをやりました。公演会場は山梨県清里でしたが、その場ではミックスせずWOWOWのスタジオへ信号を一度送って、再び清里にある会場に戻す、という取り組みでした。
あとはWOWOW主催の人気コンテンツ『JAZZ NOT ONLY JAZZ』。これもAURO-3Dで配信されています。
その次に対応したフォーマットはMPEG-H 3D Audioです。これによってNHKの22.2chの配信できるようになっています。
そして、2025年初頭にドルビーアトモスのエンコード機能を載せました。最初のドルビーアトモス・コンテンツは、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)が長年やっているクラシック音楽の祭典『東京・春・音楽祭』でした。その中で、ベルリンフィル・メンバーによる室内楽をリアルタイム配信しました。
今回の恵比寿のブルーノートプレイスで行われたESバンドの配信では使われなかったんですけど、Live Extremeは青山にあるブルーノート東京にも導入していただいています。いままでは配信用のミックスをPAミキサーで配信のためにBUSを作ってもらって、それを配信するのがブルーノートのスタイルでした。
現在は、恵比寿にドルビーアトモスに対応できるスタジオができたので、青山からの音声を一度Live Extremeで恵比寿へ非圧縮リニアPCM配信し、改めて恵比寿でミックスした音声をお客様にロスレス配信するというスタイルもとっています。
また、Live Extremeのエンコーダーは、ノートPCでもほとんど負荷なく動かせるので、どこでも配信することができます。今後はそういう使われ方もされていくと思っています。
オーディオ配信の未来を開拓し続ける
――今後の展開は?
山口 いま九州大学が実験で、DSDでアンビソニックスを配信するという実験を行っています。2026年春以降Live Extremeのエンコーダーに、新しい配信フォーマットとして導入予定です。ポイントは、Aフォーマット配信したものを再生側でBフォーマットに変換すること。キューブ、デュアル、クワッドなどの配信や再生ができるようになるところですね。
これでLive Extremeでは、今あるほぼすべての立体音響フォーマットに対応したということになります。
面白いのは、アンビソニックスは1970年代からある技術ですけれど、いま再評価されており、Apple Vision Proの音声フォーマットがアンビソニックス・ベースで追加されています。メリットは、ゲームやVRで使い勝手が良いことです。
チャンネルベースやオブジェクトベースでは、音が移動する効果が充分に感じられる場所に座らなければ、音の移動感を感じにくい。対して、アンビソニックスは、自分が中心となり音が移動するので、VRとの相性の高さはすでに知られています。
もう1つ、いまヒビノイマジニアリングと一緒に全国の映画館を繋ぐインフラ網を作っているんです。
――空いているスクリーンを使ってコンテンツを流すというのは、今の流行ですね。
山口 ええ、ご存知の通り映画館に行って映画を観るというのは縮小傾向にありますが、そうした現状で伸びているのがODS(Other Digital Stuff)と言われる、スポーツや音楽ライブの配信(ライブビューイングと呼ばれる)などを映画館で観るというものです。
それを効率的にかつ投資は少なく、高いクオリティで届けるということをヒビノイマジニアリングと一緒に構築しているところです(「JUUQXジュークエックス」として2026年3月よりサービス提供を開始)。
このシステムでは、非圧縮音声のサラウンドはもちろんのことドルビーアトモス・ホームで仕上げられた音声配信を、ドルビーアトモス・シネマのシステムに送ったり、どのスクリーンに何を流すか管理する仕組みまでトータルでマネジメントするシステムになっています。
――映画館でも御社の技術が使われるんですね。Live Extremeでは、最近、どんな作品が配信される予定なのでしょうか。
山口 3月4日から8日まで、松任谷由実さんが2月に新潟県苗場で行ったライブ『SURF&SNOW in NAEBA Vol.46』がLive Extremeでオンデマンド配信されました。2年前にユーミン配信チームがライブのハイレゾ配信を検討していたところ、ロスレスで配信できるLive Extremeを採用していただいたのです。ユーミンの配信は最大96kHzで配信されます。
――とても興味深いお話でした。Live Extremeは、配信というワードをコアに様々な取り組みを行って、5年間でハイレゾ、立体音響、アンビソニックス、リアルタイム・ライブ配信と様々な分野を開拓しましたね。
山口 Live Extremeは、単なる配信システムで終わることなく、他ではやっていない領域にまで広げていきます。今後もLive Extremeにご注目ください!
ブルーノートプレイス 福田さんメールインタビュー
高音質な配信システムを導入した理由
――BLUE NOTE PLACEというライブハウス自体のコンセプトについて教えてください。
福田 食と音楽を融合させた新たな体験の場として恵比寿ガーデンプレイス内に2022年にオープンしました。吹き抜け2階建の開放的な空間、ゆったりした客席と上質なインテリアの中、ライブハウスとは一線を画したリラックスした時間を味わえる場所になっています。
出演アーティストは、新進気鋭のジャズを基本線にジャンルを横断。いつものライブ編成とは異なるお店ならではの特別編成で観られることが多く、ジャズファンからライト層まで幅広く満喫できる内容となっています。
――なぜにドルビーアトモス対応のスタジオを建てたのでしょうか。
福田 自社コンテナンツを多くの方へハイクオリティで届ける運用(配信、放送、パッケージ化などの展開)として、イマーシブに対応することの重要性を感じていました。また、多くのミュージシャンに利用していただきたいという思いとしてレンタルの運用も行っています。このほか、様々な思いが詰まっているスタジオになっています。
――BLUE NOTE PLACEにあるBNJ STUDIOの特徴を教えてください
福田 BNJ STUDIOには、コルグ社のLive Extremeを導入し、青山のBLUE NOTE TOKYOとBLUE NOTE PLACE間の回線を強化しました。BNJ STUDIOでBLUE NOTE TOKYO公演の音源をリアルタイムでミックスし、配信を打ち上げるといったこともできます。もちろんBLUE NOTE PLACEのライブ配信も可能になっています。
ESバンドメンバーにも高音質配信の魅力をメールインタビュー
yas nakajimaさん(Gt)
――今回のライブ配信を聴いて、率直な感想をお願いします。
yas nakajima(Gt) 様々なプロジェクトに携わっていますが、ここまで音が良い配信はなかなかないと思いました。ライブに行くことのできない方が、それぞれの空間でこのクオリティのものがリアルタイムで聴けるということはとても素晴らしいことだと思います。
――これまで体験なさってきた配信とどんな違いがあったのか教えてください。
yas nakajima まず、ライブミックスが素晴らしい。というところから始まり、各ミュージシャンの出す音の解像度が高い。しかも立体的な空気感があるので、まるでその場所にいるかのような感覚になれました。まさにドルビーアトモスによる“立体”音響という所が、他とは違うポイントだと思います。
――今後のお仕事でもアトモス配信をやってみたいですか?
yas nakajima もちろんやりたいです!!
宇都圭輝さん(Pf)
――今回のライブ配信を聴いて、率直な感想をお願いします。
宇都圭輝 配信でもこんなに生の音質を体感出来るんだなと驚きました。
――これまで体験なさってきた配信とどんな違いがあったのか教えてください。
宇都圭輝 とても綺麗な音質かつステレオとは違う臨場感があってとてもライブ感を感じました。
――今後のお仕事でもアトモス配信をやってみたいですか?
宇都圭輝 是非やってみたいです!
裕木レオンさん(Dr)
――今回のライブ配信を聴いて、率直な感想をお願いします。
裕木レオン 音が生き物みたいでした!
――これまで体験なさってきた配信とどんな違いがあったのか教えてください。
裕木レオン こんなに臨場感あるサウンドは初めてでした!
――今後のお仕事でもアトモス配信をやってみたいですか?
裕木レオン はい!
石井裕太さん(SAX)
――今回のライブ配信を聴いて、率直な感想をお願いします。
石井裕太 音質がとてもよくて驚きました!
――これまで体験なさってきた配信とどんな違いがあったのか教えてください。
石井裕太 クリアで立体感のある音質だったと思います。
――今後のお仕事でもアトモス配信をやってみたいですか?
石井裕太 ぜひまたやってみたいです。
ENSEMBLE STARS!! BAND LIVEが今年も開催決定!
昨年のこのライブの反響を受け、今年も同じ恵比寿ブルーノート・プレイスにて第二弾が開催されることが決定した。

日程は9/13〜9/16の4日間、日替わりでゲストボーカルが登場する必見のライブは、今回ももちろん、全編ドルビーアトモスにより生配信される。更に今年は、最終日のみ109シネマズプレミアム新宿にてライブビューイングが行われ、これは日本初の劇場向けドルビーアトモス配信となる。(劇場チケットは既に完売済)
前回よりさらにブラッシュアップされた珠玉のライブを、最高の音で楽しんでみてはいかがだろうか。



























