映画館の巨大スクリーンができるまで! 独自のノウハウが詰まったBloomsbury.lab工場視察レポート
シルバータイプのスクリーンは、幕面に金属粒子を配合した塗料を吹き付けて完成する。同工場ではこの噴霧工程に、大型の専用ロボット(電子制御機械)を採用。大面積に均質に塗装するには手作業では難しく、ロボットの導入で高品位かつ安定した品質を実現した。周辺ノウハウも含めて、独自の強みといえる。
コーティングはオーダーが可能とのこと。自社開発した数種類のコーティング剤を用意していて、劇場が求める画質(反射特性)に応じて選択できるというわけだ。
いよいよ出荷。大きなものは15m以上にも
巨大なスクリーンは幕面に折り目が付かないよう、ロール状に巻き取って出荷される。劇場用となると大きなものは15mに達するので、運搬には大型トラックのみならず人手も必要になる。コストが掛かる部分だが、改善も進んでいるとのこと。
近年は柔軟な素材を用いるなどの工夫で、少し曲げた状態で積載が可能に。トラックの選択肢が増え、コストダウンにつながっているという。スクリーンは画質を維持するために定期的な貼り替えが必要で、いわば消耗品。コストが下がれば、最終的には劇場の鑑賞料にも反映され、利用者のメリットにもなりそうだ。
ホームシアター製品にも劇場用の技術を応用
同工場にはBloomsbury.labブランドのホームシアター向け製品を製造する施設も存在する。日本ですでに発売中のスピーカー内蔵スクリーン「Liberty Wide」は塗装が必要なシルバータイプだが、劇場用と同じく噴霧はロボットで行われる。
家庭用はスクリーンの高さが最大でも2m程度と比較的小さいが、ロボットは劇場用と同じ規模感で、量産性を高める方向に活用されている。Liberty Wideの安定した高画質は、この工場とロボットがあってこそといえるだろう。
製品の組み立て施設は別に用意されており、こちらも工房といった雰囲気。訪問した時はLiberty Wideの土台といえるアルミパネルが準備されていた。スクリーンの貼り付けや、アクチュエーターなどの取り付けも考えると、なかなか手間がかかりそうだ。
また同作業場には電動巻き上げ式タイプのスクリーンも見られた。まだ海外でしか販売されていない製品だが、そう遠くないうちに日本でも導入を予定しているとのことで、楽しみである。
製品のクオリティに貢献する研究開発施設も訪問
今回の訪問で意外だったのは、ミニ劇場のように仕立てられたデモ&テスト施設の存在。おもに顧客である劇場またはその施工会社がスクリーンとプロジェクターの相性を確認する場で、日本のクライアントもたびたび訪問するという。
とくに近年はシルバータイプのスクリーンと、レーザー光源プロジェクターの組み合わせが主流に。レーザー光特有のスペックル(波長干渉)ノイズが発生しやすい状況といえる。スペックルノイズはレーザー光源自体のみならず、プロジェクター側の光学系や投写距離なども複雑に関わるため、実際に投写して確認するのは有効かつ重要な作業といえる。
また、シルバータイプでゲインが高いと、明るい映像が得られる反面、副作用として視野角特性が厳しくなるので、そのバランスを見極めるのも高品位な投写につながる。この施設は音響システムもインストールされており、音響透過型スクリーンで重要な音抜けの確認を同時に行えるのは合理的に感じた。
同社によると、こうした確認用設備を持つスクリーンメーカーは他にないだろうとのことで、同社のスクリーンが選ばれる理由にもなっているという。
上述のデモ&テスト施設とは別に、もうひとつミニシアター的な空間があった。独立した映写室を備え、映画館を再現するには充分と思える空間サイズ。コ・ジョンボン氏は、自身で新技術の開発も行なっているエンジニアである。実用化に向けて耐久試験中というスペックル軽減技術を見せてくれた。
これはスクリーンを振動させることでスペックルノイズの低減を図るという新技術。ここでは詳細を記せないが、世界初のシステムとして、近い将来実用化されるとのこと。劇場で体験するのが楽しみだ。
韓国の主要な映画館/スクリーンへ採用実績あり
同社のスクリーンは韓国内でのシェアが70%とのことで、実際に採用されている映画館も訪問した。紹介いただいたのは龍山駅に直結したアイパークモールにある大手シネコン「CGV」。
試写会や舞台挨拶にも使われるソウルでも屈指の場所で、同社のスクリーンは「SCREENX with Dolby Atmos」のメインスクリーンとして採用されている。都合により内部は写真で紹介できないが、大手人気シネコンのプレミアムスクリーンに採用されているという事実は、信頼に値するだろう。
一朝一夕では真似できない技術とノウハウの蓄積があった
評論家としてだけでなく、映像マニア、工場マニアとして非常に興味深い取材だった。映画館の巨大なスクリーンを製造するには相応の器が必要で、この点だけでも一朝一夕に真似るのは難しいだろう。
また今回ご紹介した通り、各工程でノウハウの蓄積があり、とくにロボットによる安定した塗装、塗料に関するノウハウはBloomsbury.labならびにScreen Solutionの強みといえる。安定製造による低コスト化のみならず、クオリティ面でも高い評価を受けて、劇場スクリーン業界を席巻する両社。今後は日本でも採用例が増えそうだ。
ホームシアターファンにおいては、こうした劇場用スクリーンで培ったノウハウが反映されているLiberty Wideが日本でも入手できるようになったのは朗報。今後は電動巻き上げタイプも投入予定とのことで、引き続き注目していきたい。
