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アマゾン先行にアップル、グーグルも続くか? 「クラウド型音楽サービス」の今後を占う

公開日 2011/04/15 12:21 編集部:風間雄介
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特にアップルの場合は、全米一位の音楽小売り業者であり、ポータブルAVプレーヤー機器でも圧倒的な世界首位の座にいる。アップルが同じようなサービスを始めた場合、あまりにユーザーやレーベルに与える影響が大きい。アマゾンのゲリラ戦法がスルーされたからといって、アップルのそれが追認される保証はない。

またアップルには、DRM付きの音楽データをiTunes Storeで大量に販売しているという事情もある。同社がクラウド型音楽サービスを展開するとしたら、当然これらの楽曲の保存・再生を行えるようにしたいと考えるだろうが、DRMがかかっていないMP3に比べて、話が入り組むであろうことは想像に難くない。

アップルが音楽レーベルとどのような契約を行っているかはもちろん明らかにされておらず、新たな契約の締結が必要かどうかは不明だ。だがアップルはその社会的な責任の大きさ、影響力の大きさから、少なくとも事前に音楽レーベルの承認を取り付ける必要はあるだろう。随分前から、アップルがメジャー音楽レーベルと協議を行っているという報道をチラホラ見かけるが、アップルがなかなかサービスインに踏み切れないのは、この協議が難航しているからかもしれない。

グーグルの動きも気になるところだ。同社はもともと、様々なクラウド型サービスを他社に先んじて投入し、その先進性で高い評価を得てきた会社だ。音楽サービスをクラウド化するのも自然な流れと言えるだろう。

グーグルが提供し、現在急速にシェアを伸ばしているAndroidは、基本的には母艦となるPCを必要としない。これは、母艦が必須である現在のiOSとの大きな違いだ。

Androidはグーグルアカウントによって様々な同社サービスと紐づけられるので、同じIDで音楽ライブラリと同期できたら、とても便利なことは容易に想像できる。

ただし、グーグルが今後クラウド型音楽サービスを開始するとして、それが「ミュージックロッカー」的なものにとどまるのであれば、やや残念に感じる。同社は音楽配信サービスへの参入も噂されているが、これとクラウドストレージサービスを融合させることで、これまでにないユーザー体験を提供することを期待したいところだ。

ソニーについても触れておこう。同社は「クラウド型サービス」を標榜する音楽配信サービス「Music Unlimited powered by Qriocity」を米国やヨーロッパですでに展開しているが、その実態は、これまでのストリーミング型音楽配信サービスと、そう大きくは変わらない。

QriocityはiTunesのライブラリデータやプレイリストと同期する機能も備えているが、ローカルにある音楽データをアップロードすることはできない。iTunesライブラリをQriocityの音楽データベースと照合し、Qriocityにデータがあった場合のみ再生が行えるという仕様になっている。

ローカル上のデータをアップロードできない仕様にしている真意は不明だが、自社グループに音楽レーベルを抱えていることと無関係ではないはずだ。他の音楽レーベルや著作権者との軋轢を未然に防ぐ意図も大きいのではないだろうか。

Qriocityはとても興味深いサービスだが、「ミュージックロッカー」的なサービスとはかなり質的に異なっており、同列に論ずることはできない。ただし今後の展開が期待される、ユニークなサービスであることは確かだ。



クラウド型音楽配信サービス、中でも主にミュージックロッカー型のサービスについて紹介してきた。何しろまだ大手企業でサービスを始めているのはAmazonだけで、アップルやグーグルのそれはまだ影も形もない。それどころか、本当に参入するのかさえ定かではない。

だが先に述べたように、スマートフォンやタブレットの普及、ネットワークの高速化、データセンターの能力増強は猛烈な勢いで進んでいる。権利関係さえクリアできたら、今後音楽ライブラリの置き場所がクラウドへシフトする可能性は非常に高い。

クラウド音楽サービスは、まずは単純なストレージサービスとして提供されるだろう。次の段階ではクラウドの処理能力を使って、いかに便利な付加サービスを提供できるかという競争に移るはずだ。

たとえば、アップロードしたデータをあらかじめトランスコードしておいて、帯域に応じて最適なビットレートのデータを配信するといった技術は、様々なネット環境において再生を途切れにくくするために、ぜひとも必要となるはず。こういった技術は既にPogoPlugが提供しているようだが、AmazonのCloud Driveは現在のところ、アップロードしたデータをそのまま配信する仕様となっている。

ハードメーカーの思惑、音楽レーベルの思惑、そしてもちろん、音楽配信サービス事業者の思惑。様々な思いが入り乱れているが、ユーザビリティーを第一に考えた場合、クラウド音楽サービスの実現に大きなメリットがあることは間違いない。まずは米国や欧州の一部などで、先行して同種のサービスが拡大し、その後様々な調整を経て各国に広がっていくという流れになりそうだ。

あえて仮定や噂話を盛り込みながら書いたので、やや“雲を掴む”ような内容になってしまった感もあるが、アップルやグーグルのクラウド型音楽サービスが、早期に現実のサービスとして眼前に現れることを期待したい。

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