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「AV機器としてのiPad」に期待すること

公開日 2010/01/29 19:59 ファイル・ウェブ編集部:風間雄介
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ネット上での書き込みやつぶやきを見ても、周囲の人間に尋ねてみても、アップルのタブレット型デバイス「iPad」への毀誉褒貶は激しい。ある人は「即買いする」と断言するし、ある人は「まったく興味がない」と突き放す。

まだ実機を触っていない段階で製品の出来映えについて語ることはできないが、仕様を見る限り、良くも悪くも個性の強い機器であることは確かだ。当然ながら消費者のライフスタイルやモバイルデバイスとの関わり方は人それぞれ異なる。それぞれが思い描く使い方にiPadがフィットしているかどうかで、機器への評価が大きく分かれているのだろう。


マルチタッチ操作に対応したAppleのタブレット型新デバイス「iPad」
個人的には、iPadが取材や記事の執筆、アップ作業など、ヘビーな用途に耐えうるかどうかということに関心を持っていたが、あらかじめ予想していたこととは言え、やはりそれは叶わぬ望みだった。こういった用途には、ネットブックや小型のノートPCを購入した方が良い、という当たり前の結論に至った。

とは言え、iPadへの関心が薄れたわけでは、もちろんない。iPadはノートPCでもネットブックでも、スマートフォンでも単なる電子ブックリーダーでもない、まったく新しい用途を提案するデバイスなのだという実感が、発表から時間が経つにつれ強くなってきている。「ネットやメールもできる約10インチ画面の多機能ビューワー/コントローラー」として考えると、499ドルからという価格設定は、アップルが主張する「unbelievable price」とは言えないまでも、高くないと感じる。

他メディアではamazonの「Kindle」との比較を通した考察記事も多いようだが、当サイトはAV専門サイトを標榜しているので、今回はAV機能に特化してiPadの使い道を考えてみたい。

■動画再生

まず画面が9.7インチと大きくなり、XGAのIPS液晶を採用したことで、動画を視聴するポータブルデバイスとしての能力が大きく高まった。また、アップルが開発したという「A4」チップによって、720/30pのHD動画再生に対応したほか、約10時間の連続駆動が可能という点も特筆できる。出張に携えて電車や飛行機の中で映画視聴、という用途にも十分耐えうるだろう。

ただし、多くの方が指摘していることだが、日本ではこの動画再生機能を存分に活用しようと考えた際、大きな壁が立ちはだかる。そもそも、日本のiTunes Storeでは映画やテレビドラマのコンテンツが売られておらず、手軽にコンテンツを入手する方法が存在しないのだ。

PCでエンコードしてiPadに転送、再生することもできないことはないが、そもそもDVDやBDのパッケージソフトをリッピングする事自体が問題を孕んでいる。また著作権をクリアした動画であっても、変換や転送にかかる手間や時間を考えたら、一般に普及するとは考えにくい。

良質な動画コンテンツを手軽に入手し、iPadで快適に高画質動画を楽しむためには、やはりiTunes Storeでの映画/テレビ番組販売に期待するしかないが、海外での販売開始からかなり時間が経過しているにも関わらず、この点に関して日本では何のアナウンスもない。現時点では実現の可能性は低いと言わざるを得ない。

■DLNAクライアント

iPadを動画ビューワーとして使用するとして、記者が最も期待しているのは、iPad用のDLNAクライアントアプリを利用するソリューションだ。もちろんDTCP-IPは必須となる。これが実現すれば、レコーダーやPC内のコンテンツを家庭内のどこにいても楽しめることになる。アップルはDLNAにあまり積極的ではないが、DigiOnなどのサードパーティーから対応アプリがリリースされる可能性は高い。

ここで問題となるのは動画のファイルタイプやコーデックで、既存レコーダーがサーバーとして配信する動画を、そのままiPadで再生することは難しそうだ。たとえば最近のレコーダーで主流となっている、1,920(1,440)×1,080のMPEG-4 AVCは、iPadでは再生できないはずだ。

となれば、DLNAサーバーにはPCを使うというのが自然な流れだが、先ほども述べたとおり、iPadが再生できる形式に変換するのは手間と時間が必要となる。もっとも、そのうちiPadに対応した形式で直接録画できる録画アプリケーションや、GPUも利用しながらリアルタイムでトランスコードし、DLNA配信を行うサーバーソフトも出てくるだろう。将来的なポテンシャルは十分にあると思う。

■音楽再生

音楽再生については、iPod機能が搭載されているのでこれを利用することになるが、iPodよりはるかに重くて大きいiPadを、外出先で音楽を聴くために利用しようという方は、あまり多くないだろう。ただし、家庭内においては大きいこともメリットになり得る。画面写真を見ると、PC版のiTunesと同じようなUIを採用しているようなので、操作性が高く、目当ての楽曲を探しやすいだろう、というのがその理由だ。

もう一つ、これは要望になってしまうが、PC版のiTunesに用意されている「AirMac Express」と組み合わせたリモートスピーカー機能もぜひ実装して欲しい(もしかしたら搭載されているかも知れないが)。

iPhoneやiPod touchにも、PCのiTunesを操作するアプリ「Remote」が用意されているが、画面が小さいこともあり、操作性はそれほど良くない。高い解像度の画面をうまく利用すれば、iPadは家庭内音楽再生においても活躍の機会を得られるはずだ。

もちろん、Bluetoothで音声を直接飛ばすということもできるはずだが、音質を考えた場合、PC内の音声を無劣化で転送する方法が望ましい。

■超多機能リモコン

ホームシアターの動向に詳しい方ならご存じだろうが、北米などを中心として、シアター機器を含めたホームオートメーション化が進んでいる。そうなると当然、機器を制御する多機能コントローラーが必要になるわけだが、一昨年の秋にデンバーで開かれたCEDIA EXPOの頃から、iPhoneやiPod touchをコントローラーとして利用する流れが急速に広まっている。

だが、ホームオートメーションで制御できる機器は多岐にわたる。コントローラーのディスプレイは高解像度かつ大きな画面の方が望ましい。しかもマルチタッチによる流麗なユーザーインターフェースを実現できるとなれば、iPadをコントローラーとして活用しようと多くのメーカーが考えるはずだ。

■デジタルフォトフレーム

デジタルフォトフレームとしての活用方法も、もちろん考えられる。市場が拡大している現在、この用途はアップル自体も相当意識していることだろう。IPS液晶なので、デジタルフォトフレームとしての画質は他と一線を画したものになるはずだ。

またiPadにはWi-Fiが内蔵されているので、写真をFlickrなどの写真共有サイト、あるいはMobileMeなどクラウドサービスを通じてシェアする、ということも可能になる。以前、ソニーが展開したネットワーク機能内蔵デジタルフォトフレーム「CP1」(関連ニュース)のような使い方も、公式かサードパーティー製かは分からないが、いずれ対応アプリが用意されることだろう。そうなれば、ネット経由の同期設定だけを行っておいて、PCを使いこなせない遠方の両親や親戚に1台iPadをプレゼントする、などといった需要も期待できる。


ここまで見てきた様に、iPadでなければできないこと、またはiPadだからこそさらに便利になるAV関連の機能は意外と多い。対応アプリや周辺機器の充実で、その可能性がさらに広がることを期待したい。

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