「デジタルテレビ」から「スマートテレビ」へ − ソニーがGoogleと組む理由とは

ファイル・ウェブ編集部:風間雄介
2010年03月19日
※本記事は昨日の記事の続きです。よろしければあわせてご覧下さい。

昨日、ソニーが発売を表明している「進化するテレビ」がAndoroidベースで動作するのではないかという記事を公開した。記事を書いている途中で、Googleがインテルやソニーなどと組み、Androidベースのテレビ向けプラットフォーム「Google TV」を作るとニューヨークタイムスが報道した。これは多くのメディアで取り上げられたのでご覧になった方も多いだろう。

現時点でニューヨークタイムスの報道の真偽は不明だが、詳細な部分まで具体的に書かれていることから、「Google TV」がソニーのテレビに採用される可能性はかなり高いと考えて良いだろう。

ここからは、この報道が大筋で正しいと仮定した上で、なぜソニーがGoogleと組むのか、そのメリットは何かを考えてみたい。

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この数年でスマートフォンは大きく普及した。その立役者はなんと言ってもアップルだが、その対抗軸として急浮上しつつあるのがAndroidだ。両者が競い合うことで、スマートフォンはさらに普及が進むことだろう。記者は今後、テレビも「デジタルテレビ」から「スマートテレビ」へ進化するのではないかと考えている。

テレビは、もはやハードウェアだけでは差別化が難しい。ソフトによる差別化こそが次のカギになる。ソニーの石田氏も3D BRAVIAの発表会で「デジタル化が進んでハードウェアの差別化が難しくなる中、何をお客様にお届けするかが非常に重要。もちろんハードの差別化は我々のお家芸だが、そのほかのユーザーエクスペリエンスを提供することが必要」と、ソフトウェアを重視する考えを示唆していた。

そこで必要になるのが高度なOSだ。過去にもマイクロソフトのWindows CEなど、ITメーカーがテレビへ家電向けOSの採用を働きかけた例はあったが、これらの試みが大きく成功することはなかった。当時のテレビにそれほど高い機能が求められていなかった、ということが大きな理由の一つだろう。またテレビメーカーにしてみれば、お仕着せのOSに縛られたくない、PCだけでなくテレビまでOSという根幹を握られたくない、という思いもあったことだろう。

だが現在では、テレビに求められる役割はすっかり変容した。放送を受信して表示するだけでなく、DLNAやネットワークサービスへの対応、VODサービスの視聴、録画など、様々なタスクを同時に、しかも高速に行うことが求められている。

また一方で、ネットの台頭によってテレビの視聴時間が減ったという現実も見過ごせない。PCやケータイと、テレビのあいだの可処分時間の取り合いはますます激しさを増している。これは日本も米国も同様だが、米国の方がPCのVODサイトでテレビ番組を視聴するというスタイルが、若年層を中心に定着しつつあるぶん、より深刻だろう。

これは単に放送局の広告収入が減るというだけでなく、ハードとしてのテレビの相対価値低下につながりかねない、非常に大きな問題だ。テレビの使用頻度が少なくなれば、それに応じてテレビの価値が下がることは明らかだからだ。

このような危機感も手伝ってか、最近では国内/海外を問わず、テレビメーカーがネット機能の充実を競っている。国内ではテレビ版 Yahoo! JAPAN、アクトビラ、YouTubeなどへの対応がその一例だ。BRAVIAのように、独自のウィジェットプラットフォームを用意しているものもある。

ただし、各社共通のサービスプラットフォームやウィジェットに対応するだけでは限界があるのも確かだ。他社と同じサービスや、JAVAで表層を撫でたようなアプリだけでなく、今後は高度なOSと密接に連携した、より高機能なソフトやアプリを大量に揃えることが、商品の差別化に求められるようになる。ソニーが「Google TV」に参画するのは、こういった考えが背景にあるはずだ。

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他社にも開放される可能性が高い「Google TV」をソニーが採用することは、当然のことながら危険要素も孕んでいる。共通のプラットフォームをベースにしてコンポーネントをつなぎあわせれば、すぐに韓台中、あるいは国内の競合メーカーが同じような機器を作れてしまうのではないか、という疑問が湧いてくる。

この問題に関しては、石田氏自身が長年携わったVAIOの事業モデルから、ソニーが考えている処方箋をある程度推測することができる。

VAIOでは、斬新なハードウェアとともに、VAIOオリジナルのソフトやユーザーインターフェースも大きな差別化要素となっている。OSもチップセットもほかのPCと同じ条件であるにもかかわらず、ハードとソフトの合わせ技によって高い付加価値を維持している。

「Google TV」でも、この手法を敷衍することができるのではないか。ベースとなるOSはしっかりとGoogleにサポートしてもらいながら、同社が今後展開する「ソニーオンラインサービス」で独自アプリを配信し、ソフトウェア面での差別化を強化。同時にそれらのアプリに最適化されたハードウェアで、さらなる差別化を図るというシナリオだ。

もちろん、もともとが高付加価値路線のVAIO事業と、グローバルでシェアトップ3を競い、再び首位を奪い返そうというテレビ事業では状況が大きく異なる。だが、ソニーがテレビに高付加価値を与えるため、この方法が最も近道だと考えても不思議ではない。

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高付加価値実現のカギを握るのが「ソニーオンラインサービス」だ。今年2月段階で約4,000万アカウントを抱えるPlayStation Network(PSN)をベースに構築するため、当初から多くのアクティブユーザーを引き込むことが可能になるはずだ。

またソニーオンラインサービスでは、グループの映画や音楽資産を活かしたVODや音楽配信だけでなく、独自のアプリマーケットも用意されるだろう。これは昨年の経営方針説明会の際、石田氏が「進化するテレビ」のコンセプトとしてアプリ配信を挙げていたこと、今年3月に「グループ会社と連携したコンテンツ配信も考えられるが、それだけではなく、今後はクラウドを使ったサービスが重要になる」と述べたこと、さらに「テレビに限らず、パソコンや携帯電話などネットワークにつながる商品については『売り切り型でないビジネスモデル』が非常に重要になる。新サービスはソニーオンラインサービスの中に入れていきたい」としていたことから予想できる。

これらの情報から推測すると、ソニーオンラインサービスにBRAVIAの機能を高めるようなアプリを多数揃え、これによってアプリ販売による収益を得るという新たなビジネスモデルを目指すというのが、ソニーが考える「進化するテレビ」の姿なのではないか。

また前回の記事で指摘したように、ソニーオンラインサービスでは、「オールソニー」による囲い込みも当然狙ってくるはずだ。BRAVIAと携帯電話やゲーム機、レコーダーなどを連携させ、利便性を高めるようなアプリが用意されることだろう。またエコシステムを構築するため、開発しやすい環境を整えてSDKを公開することも必要となる。

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最初にアプリやコンテンツを多く揃え、ユーザーに多くの利便性を与えたものが覇権を握る。それはアップルがiPodやiPhoneで、すでに実例を示した。とは言え、アップルのようにクローズドモデルでOSやアプリマーケット、ハードウェアまで一貫したソリューションを提供するには、ソニーはあまりにも時間やノウハウが足りない。

もう一つ、クローズドモデルには大きな問題点があることも指摘しておきたい。成功すれば得るものは大きいが、現在iPhoneがAndroid搭載スマートフォンから徐々に追い上げられているように、クローズドモデルは、常にオープンモデルの脅威にさらされる危険性を孕んでいる。Google TVを利用すれば、時間短縮とコスト削減が図れるのはもちろん、強大なオープンモデルとの戦いという潜在的な脅威をあらかじめ排除できるという、大きなメリットが得られる。

ソニーは2010年に、2,500万台のテレビを売る計画だ。このうち何台が「Google TV」を採用するかは皆目検討がつかないが、オンラインサービスが成功するかしないかは、スタートダッシュが何より肝心だ。

より多くのBRAVIAが対応すれば、それだけ個人やサードパーティーの開発意欲が高まる。その結果、BRAVIAに対応したアプリが大量に開発され、あのアプリが使えるのはBRAVIAだけ、という状況を作り出せたら、消費者にとって強い購入動機に成り得るのではないかと考えている。

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