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PRクリエイターとしても活躍する評論家がチェック

“プロが選ぶ定番ヘッドホンアンプ”。SPL「Phonitor x」の実力を徹底解析

公開日 2023/12/11 06:30 生形三郎
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正確にモニターできるだけでなく、そこにアートを感じさせるプロダクトを―。

ドイツ生まれのプロフェッショナルブランド、SPLのものづくりの哲学が結集したヘッドホンアンプ「Phonitorシリーズ」のド定番が「Phonitor x」だ。VGPアワードでも連続金賞を獲得。日本上陸以来、揺るがぬベストセラーとなっている。本機の魅力に、クリエイターの顔も併せ持つ気鋭のオーディオ評論家、生形三郎が迫る。



■プロ御用達ブランドながら心地よく美しいサウンド


 
SPLは、スタジオ機材を主力とするブランドだ。とりわけ、音源制作の最終工程を担うマスタリングスタジオ向けのコンソールやアウトボード類、そして、小規模プロダクション向けのモニターコントローラーなど、制作現場で必須となるプロダクトを多数リリースし、高い評価を獲得している。そんな同社のヘッドホンアンプが、今回ご紹介する「Phonitor x」である。

SPL「Phonitor x」

筆者は今回、Phonitor xと組み合わせて試聴した単体DAC「Diamond」のサウンドも、別の機会にじっくりと体感しているが、そこから享受できるサウンドは、音楽ソースに忠実でありながらも、大変心地よく美しいものであると認識している。業務用のブランドというと無味乾燥なモニターサウンドを想像される方もいらっしゃるかもしれないが、そのような堅苦しいサウンドとは無縁のものだとお伝えしたい。無論、ナチュラルな音色バランスや音の解像度を備えているものの、実に透明感溢れる上質な聴き心地で音楽を楽しませる。

それを支えるのは、同社の根幹技術「120Vテクノロジー」である。また、ヘッドホンアンプにおいては「Phonitor Matrix」の存在も欠かせない。前者は、ICベースの半導体オペアンプの4倍にもあたる±60Vの直流電圧で動作する独自開発オペアンプ「SPL 120V SUPRA」を用いたテクノロジーである。±60Vの内部動作電圧によって高いヘッドルームを確保することで、最適かつ安定した動作範囲を確保して「心地よく、自然で、リラックスしたサウンド体験」を追求する。

これら根幹技術をもとに、「次世代の明瞭さと輪郭を捉えやすい音にチューニングしつつ、それを高精度かつナチュラルに表現する」ことを掲げて設計されているのが同社のプロダクトなのである。

■KEYPOINT「120Vテクノロジー」




一般的なディスクリートアンプの2倍、半導体オペアンプの4倍にあたる±60Vのハイボルテージで音声処理を行うオリジナル音響技術。電子回路への供給電圧を高めることで、ダイナミックレンジの拡大、歪みやノイズの抑制など様々な好影響がもたらされる。


■120Vテクノロジーによる精緻ながらも上質なサウンド


 
実機を前にすると、ドイツメイドのプロダクトらしい質実剛健な佇まいが美しい。確かな厚みあるフロントパネルには円形のメーターやツマミ類が美しく配され、スタジオ機器譲りの、しかしながら十二分な質感を持った存在感が、本機と触れ合う喜びを掻き立ててくれる。ライトアップされたアナログ指針式VUメーターは実に趣があるとともに、入力セレクターや「Phonitor Matrix」の調節など、直感的に扱える操作性の高さが実に印象深い。

今回の試聴は、駆動力のより入念なテストのために、ゼンハイザー「HD800 S」、ハイファイマン「ANANDA NANO」、ソニー「MDR-MV1」の3モデルを用いて、それぞれシングルエンド及びバランス駆動で確認した。

まず、HD800 Sの駆動だが、一聴してチュラルな音色で、歪み感なく上質に音楽が展開する様が実に快い。ソースのジャンルを問わずディテールやダイナミクスの幅を情報量多く再現し、空間も広がり豊かに展開させながらも、けっして再現が派手やかにならない点が白眉なのである。このヘッドホンは、得てしてモニター調な性格を出しすぎるヘッドホンアンプでは高域方向のエネルギーが高めになりがちだがそれが皆無で、精確な再現がありつつも上品な質感を堪能できる。

こちらがDAC搭載モデルの内部基板。右下がDACパートで、心臓部 には旭化成エレクトロニクスのDACチップ「AK4490」が内蔵されている

開発者によると、「計測値による“正確性”を重んじながらも、製品の音を耳で実際に聴いたときに、それがいかに芸術的であるか」をもっとも大切にしているといい、それがまさに如実に伝わるサウンドだと体感した。とりわけ生楽器のような繊細な音色の質感を持ったソースは、楽器音の透明感が素晴らしく、円やかささえ感じる質感が心地よい。

だが決して音の立ち上がりなどのレスポンスがソフトになることはなく、ダイナミックレンジの広いソースのアタックも的確に描き出す。そのあたりは、強力なパルス的な立ち上がりが連続するドラムソロ音源などを聴くとよくわかる。加えて、バランス接続による駆動では、左右のセパレーションが良好化されるとともに、低域方向の解像力も拡大し、ヘッドホンの性能がより十全に発揮された。

■ボーカルの音像が前方へ自然なクロスフィード効果



「Phonitor Matrix」機能は、スタジオで歌声や楽器の音を近接録音したようなソースへの効果が抜群だ。自然なクロスフィード効果によって、本来であれば頭内に張り付いてしまいがちなボーカルの音像が、少し前方へと定位するようなイメージがある。また、それぞれの楽器の存在や定位もよくわかる。

たとえば、それぞれに振り分けられた楽器の存在が大きく被り合ってしまうような際も、それぞれの楽器が独立して浮き立つような定位感を楽しむことが出来るのだ。音像に付帯するリバーブ(残響)も的確で明瞭な余韻となる。またこの効果はユーザーの好みや環境に応じて強度や角度を調節できる点も秀逸だ。
 
■KEYPOINT 「Phonitor Matrix」



実際にスピーカーから音楽を聴くときには、右から来る音は、右耳からだけでなく左耳でも聴いている。このとき左右の耳に音が到達する際の時間遅延やレベル差を考慮して、ヘッドホンでもスピーカーリスニングのような自然な聴こえを再現するテクノロジーだ。


続いて、平面磁界駆動型でアンプの駆動力が求められるヘッドホン「ANANDA NANO」を接続して試聴する。実に十全でパワフルな駆動に驚かされる。低域の存在感が高く、このヘッドホンならではの独特のマットなサウンドの質感が堪能できるのだ。

歌声や楽器の姿は確かな芯のある姿で聴き手へと迫る、力強い存在感が痛快だ。重厚でリッチな駆動が堪能できることが快い。こちらも、バランス接続での試聴は、バランス駆動ならではの分離のよさや低域方向の解像力の高さが発揮された。

そのほか、ソニーの開放型「MDR-MV1」を駆動しても、ほどよく力感の抜けたまとまりよいバランスのサウンドが楽しめるなど、接続するヘッドホンの持ち味がしっかりと発揮されることが確認できた。

Phonitor xは、「120Vテクノロジー」を有するSPLブランドならではの、忠実度高く透明度高く精錬されたような、どこまでも澄んだ上質なサウンドを堪能できるヘッドホンアンプだ。「Phonitor Matrix」の効用と併せて直感的にコントロールできる質感よい筐体も素晴らしく、まさにリファレンス・クオリティが高次に実現された秀逸なプロダクトといえる。



ヘッドホンアンプ
SPL「Phonitor x

カラーはシルバー、ブラック、レッドの3色をラインアップする。DAC搭載か、非搭載かを選ぶことも可能だ

販売価格:300,300円(税込)※DAC搭載モデルの場合、348,700円(税込)
120Vテクノロジー搭載/Phonitor Matrix クロスフィード6段階・スピーカーアングル4段階/ VUメーター搭載/ヘッドホン端子(4PinXLRバランス/6.3mm標準アンバランス)/ライン出力(4PinXLRバランス/6.3mm標準アンバランス)
SPEC ●定格出力:アンバランス 2.7W+2.7W(600Ω)、バランス 8W+8W(600Ω) ●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:PCM→768kHz/32bit、DSD→11.2MHz ●外形寸法:278W×100H×330Dmm ●質量:5.1kg

ラインケーブル(RCA)
CORDIAL Cables「CEON DJ RCA
販売価格:7,810円(税込)※1.5mの場合


ドイツ・ミュンヘンに本拠地を置く、プロフェッショナルケーブルブランド。「優れた信号伝達、タイトな低音域、鮮明で自然な中音域」をアピールする。導線はOFC、被覆はPVC、ワイヤーゲージはAWG24、コネクター部はREAN製で、長さは0.6m、1.5m、3.0mを用意。ラインナップとして、RCA-RCAだけでなく、RCA-標準プラグ、標準プラグ-標準プラグもある。

DAC/プリアンプ
SPL「DIAMOND
販売価格:294,800円(税込)


よりスムーズな音を実現すべく、120Vテクノロジーによって駆動されるデュアル・ローパス・フィルター、「DLP120」を採用したプレミアムクラスDACの新製品。合計6系統のデジタル入力を備えていて、ALPS「Big Blue」ポテンショメーターを採用したアナログボリュームが搭載されていたり、ワードクロック入力の選択ができたり、マニアも満足できる高品位なDAC/プリアンプだ。



本記事は「プレミアムヘッドホンガイドマガジン Vol.21」からの転載です。
(協力:A&Mグループ株式会社)

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