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PR12基のドライバーが織りなす多彩な表現力

目でも耳でも魅了する“青い”チタンIEM。Unique Melody「Maven Pro」レビュー

公開日 2022/11/02 06:30 草野 晃輔
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肝心のサウンドだが、数曲を聴いて共通していたのは、粒立ちよく陽性なナチュラルサウンドであること。音のレスポンスの良さを追求すると、キレ味が鋭くモニター調の硬い音になりやすい。その点、本機では音のキレが粒立ちの良さや分離感に活かされ、明瞭かつ自然な生音に近いサウンドを形作っている。

また、低域から高域までバランスが極めて良く、ダイナミックレンジも広いのが好印象だ。一聴すると低域が強調されているように感じられるが、これは音に弾力があるため。じっくり聴くと、タイトなのに密度が濃く、低域の表現力が極めて高いことに気づくはずだ。

ユーミンの50周年記念ベストアルバム『ユーミン万歳!』に収録された新曲「Call me back」は、音の分離の良さが特に際立っていた。“50年の時を超えて”をテーマに、1980年の未発表トラックを元に新たに歌詞を書き下ろした曲で、最新のAIで荒井由実の頃の歌声を再現したボーカルと、現在の松任谷由実によるボーカルがデュエットしている。

円熟味のある熱量を帯びた松任谷由実の声と、いい意味で力が抜けているのにハリのある荒井由実の声という、似ているのに雰囲気の異なる2人の声質を、Maven Proがしっかりと描き分けている。

キレが良く、広い再生周波数帯域により、自然な生音に近い雰囲気で多彩な表現が堪能できる

音の定位の正確さも、特筆すべきポイント。スティーリー・ダン『彩(エイジャ)』の表題曲では、ピアノやシンバルなど、一つひとつの音が空間に正確に定位する。分離も素晴らしい。どの音の立ち上がりが鋭く、音像が明瞭だ。かといって、バラバラに分離するようなことはない。高域の伸び、弾む低域、音の響きや消え際の余韻など、どこを取ってもナチュラルで調和が取れている。アーティストとエンジニアが創り上げた原音を素直に再現しつつ、そこにMaven Proの持ち味である潤いが加わって、極上のサウンドに仕立てられている。

『モンスターハンター 狩猟音楽集』からモンハンのメインテーマ「英雄の証」を再生する。この曲でも、音の分離の良さと調和はここでも遺憾なく発揮されている。何より驚いたのが、空間の広さ。高さ方向も左右方向もまったく窮屈感がなく、ホールで聴いているかのようだ。オーケストラの魅力である音が空間を漂い、自分に届いて来るような感覚を味わえるイヤホンがあるとは思わなかった。

他にもジャズやロック、EDMなど幅広いジャンルのサウンドを試したが、どんな曲も原音に忠実に、過度な脚色なく素直に表現してくれる。これだけ多彩な表現を、余裕を持ってこなせるMaven Proの実力は相当のものだと改めて実感できた。



個性的な12ドライバーの威力は伊達ではなく、通常の試聴では限界がまったく見えないほど高い再生力を有していた。一方でサウンドも個性的かと思いきや、ナチュラルで素直。老舗オーディオメーカーの高級スピーカーのように普遍的で何年使っても色あせない実直なサウンドといえる。堅牢なチタン製で芸術性の高い筐体も、他にはない魅力だ。

ポータブルオーディオファンなら、ハイエンドイヤホンを一つは所有していたいもの。Maven Pro はハイエンドイヤホン選びにおいて、最良の選択肢といえるだろう。これほどまでに良質の製品を創り上げてくれたUnique Melodyに賛辞を送りたい。
(協力:ミックスウェーブ)

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