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カナダのアンプブランド「MOON」の工場をレポート! 10年保証を約束する精緻なもの作りの秘密を探る

2021/06/16 井上千岳
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■静電気処理を徹底し、ひとつひとつ丁寧に組み上げていく

工場棟へ入る前に、全員ブルーのジャケットを着せられた。帯電防止のためである。工場の床は普通のリノリウムか何かだが、驚いたことに全面に静電気除去のエポキシ処理が施されているという。もっとも驚くのはまだ早い。それは後で明らかになる。

製造工程はまず回路基板の製作から始まる。日本だと協力工場へ外注に出すのが普通だが、MOONでは自社製だ。そのため自動マシンが数台導入されている。

MOONの工場見学、最初は基板の製造工程から。プリント基板にコンデンサーや抵抗といった細々としたパーツを取りつけていく工程からスタートする

マシンには数十巻のリールが取りつけてある。そのひとつひとつは抵抗やコンデンサーなどのパーツを、テープ状のホルダーに並べたものだ。ソフトを走らせると、基板上の所定の位置に所定のパーツを装着する仕組み。人手で行うより速いのはもちろんだが、それだけではない。

あらかじめ読み込ませた設計図を元に、自動で基板を製造する。 Universal Instrumentsという会社の組み立てマシン(左)が3台設置されてお り、ロール状に巻かれたパーツ(右)がひとつずつ押し出され、基板に組みつけられていく。

パーツの中には米粒大のような小さなものもある。これを人の手でいちいち装着していたのでは、時間もかかるし第一精度が悪い。マシンはその点でも有利なのだ。

最小パーツは米粒ほどの大きさ

基板の電気が通る部分をパターンというが、これはシルク印刷の版のようなもので作る。基板1枚ごとにその版がずらっと並べてある。コンデンサーのような大きめのパーツは、人が手で挿している。

ある程度自動で基板にパーツを取りつけたあと、比較的大きめのパーツは手作業での取りつけ

でき上がった基板は当然検査をする。その女性の袖口にコードのようなものが巻きつけてあって、足元のボードにつながっている。静電気を逃がすための仕掛けだという。それだけではない。

袖口からアースを取りながら組み立て作業を行う女性スタッフ。静電気防止は細心の注意を払っている

次の工程へ送るために基板を1枚ずつ包んでいるシート(いわゆるプチプチ)。これがピンク色なのは、帯電防止の特殊素材なのだという。このほか基板を乗せる黒いトレイも積んでおく台も、全て静電除去・帯電防止素材でできている。なぜそこまで静電気にこだわるのだろうか?

「以前に事故があったんです」とコスタは言う。「検査にも合格して出荷された製品が、2、3カ月して動かなくなってしまったことがあります」

静電気のせいで、トランジスターに何らかのダメージが起きたらしいのだという。「そのときは分からなくても、数カ月後に異常が出てくる」。それを防止するために、静電気には特に注意を払っているわけだ。

パネルの印刷はシルクで、これも工場の隅の方で静かに行われていた。乾燥用のオーブン(コンロつき)もあって、ここだけ古典的なのが面白かった。クロワッサンでも焼くようなレンジである。

フロントパネルの文字の印刷はシルクスクリーン(左)と、インクの焼きつけオーブン(右)はなかなかの年代物

■2台のアルミの切削機で、シャーシからパネル、リモコンまですべて自社製造

MOONには他所ではあまり見かけない装置がもうひとつある。アルミの切削機である。ここへ入るにはゴーグルが必要だ。目を痛めるからである。

扉を開けると、2台のマシンがあった。アルミ加工を行うCNC旋盤で、大小2つの機械を有し、パーツのサイズや要求される精度の細かさによってマシンを使い分けている。内部は冷却水をかけているのでよく見えないが、何を作っているのかと思ったらリモコンであった。ちょっと贅沢な話である。マシンからは大量の削り屑が出て容器に溜まっている。もったいないなと思ったが、ちゃんとリサイクルしていると聞いて安心した。

スリガラスで分かりづらいが、大型のアルミ切削マシン。削り取られたカスが下方に散らばっている。かなりうるさい切削音が部屋中に鳴り響いている

こちらは小さい方のCNCで、シャーシに穴を開けたりフットなどの細かいパーツを生み出している

ヒートシンクも自社工場内で製作している。形状もサイズも自由自在に作り出せる。アルミも航空グレードのものを使用しており、倉庫内に大量に保管されていた。

ヒートシンクも自社で製造

製造工程の最後には、検査とエージングのエリアが設けられている。1台1台特性を計測し、合格したものだけが世界中に出荷されていく。出荷前には数十時間のエージングも行なっているそうだ。

特性は全台検査を行い、合格したものだけが出荷される

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