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【特別企画】ミドルクラスながら最上位級の音

デノン110周年オーディオ3モデル、超高級サウンドを手頃な価格で。感じた“歴史と未来”

2020/11/17 石原 俊
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銘機を忠実に再現し、素直な音楽表現が魅力的な「DL-A110」

最後にカートリッジ「DL-A110」を用いてレコードを聴いた。インプレッションを記す前に、本機の内容について触れておこう。DL-A110は1960年代後半に放送局等に納入されていたDL-103をほぼ忠実に再現したものである。当時と同じく、ユニヴァーサル型用よりもやや短いヘッドシェルに装着されており、ユニヴァーサル型トーンアームに取り付ける際は付属のアタッチメントを使用する。また、往年のディスクジョッキーたちがDL-103を持ち歩くときに使用したものよりも少し大きい革ケースとスタイラスブラシが同梱される。

DL-103を忠実に再現したというDL-A110では、当時のディスクジョッキーよろしくな革ケースに収納されている

DL-A110はデノンが1981年に発売したレコードプレーヤー「DP-100M」のトーンアームに取り付けて試聴した。レコードは先ごろ偶然に手に入れた、ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮/ロンドン交響楽団によるマーラーの交響曲第3番・ニ短調の中古盤。レーベルは懐かしいトリオ・レコードだ。

C面の第3楽章を聴いたのだが、オリジナルのDL-103と同等品なので昔から知っている耳馴染みの良い音である。NHKはデノンに「出力電圧周波数特性が平坦なこと」を要求したが、実際に聴くとエネルギーバランスはピラミッド型に近似しているように感じられる。おそらくは低域の下限を欲張っていないので豪快な低音が得られるのだろう。コントラバスや大型打楽器がドドーンと鳴るのは何とも気持ちのいいものだ。

「左右の分離が良いこと」と「左右の感度差が小さいこと」による立体的なステレオ表現もすばらしく、この楽章を特徴づけている舞台裏のポストホルンの「遠さ」が際立った。直線的な構造のトランペットの硬質な響きと、曲線的な構造のポストホルンの軟らかい音色の対比もよく聴き取れる。

この素直な音色表現の背景には、固有の共振モードの排除がある。DL-103の筐体には固有の共振モードが発生しやすい金属ではなく、素直な響きの樹脂が採用されたのだが、DL-A110に付属するヘッドシェルも、金属より固有の共振モードが少ない樹脂製なのだ。

DL-A110はいい意味で昔と変わらない、耳馴染みの良い音を聴かせてくれた



現在のデノンは日本コロムビアのもとを離れ、B&Wやマランツを擁するディーアンドエムホールディングスの傘下にあるが、ブランドスピリットはいささかも衰えていない。創業110年を記念してリリースされた3機種はデノンの「これまで」と「これから」を象徴しているように思われる。価格は性能に比して驚くほど安い。リーズナブルな出費で超高性能なオーディオエレクトロニクスとMCカートリッジを手に入れることができる絶好の機会である。

(協力:D&Mホールディングス)

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