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さまざまなカートリッジ/音源から多面的にチェック

現代に蘇ったトーンアーム名機。サエク「WE-4700」を人気カートリッジ 3種と組み合せて聴く

2019/06/24 小原 由夫
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前述のヒラリー・ハーンは、私が普段聴いているイメージ通りの音になった。基音は鮮烈にズバッと切れ込み、それでいて余韻がフワッと深奥に広がる。澄んだ空間を漂うようなオーバートーンで、ステレオイメージの立体的な広がりが素晴らしい。このトランジェント感とレスポンスは、間違いなくWE-4700の真骨頂といえよう。ヴァイオリンを構えたハーンがスクッと屹立している姿が浮かぶかのようだ。

ノラ・ジョーンズはややスレンダーな音像フォルムではあるものの、こちらもリアルな克明描写。そこはかとない色艶と温度感も感じられ、バックを務める名うてのベースやドラム奏者との距離感が3次元的に現われた。このくっきりとしたステレオイメージの見通しのよさは、WE-4700とPP-2000の相性のよさを表しているに違いない。

試聴風景

ブルースロックの大所帯グループ、テデスキ・トラックス・バンドの最新作『サインズ』は、アナログテープを回した今日では珍しい録音。しわがれたスーザンの声をストレートに再現しながら、バンド全体の音の情報量がたいそうたっぷり、濃密だ。ボトルネックを用いたスライドギターのトーンの切れ味、ダブルドラムならではのビートの厚みなど、このバンド特有の魅力が存分に横溢した再生音だ。

カートリッジをマイソニックの「Signature Platinum」に替え、インビーダンスを10Ωに設定し、ジャズ・サキソフォニスト、ブランフォード・マルサリス・カルテットの新譜『シークレット・ビトゥイーン・ザ・シャドウ・アンド・ザ・ソウル』を聴いた。

マイソニック「Signature Platinum」

くっきりと迫り出すソプラノサックスの分厚い音像。ドラムスは背後の少し奥まった位置からカラフルなリズムを刻み、サックスを煽るかのよう。流れるようなピアノのメロディーラインもそれに乗じて疾走しかかるが、あたかも錨を下ろしたかのような重心の低いベースのトーンがそれをがっちりと食い止め、カルテットの演奏に安定をもたらしている。いやはや凄い演奏であり、凄い再生音だ。

ノラ・ジョーンズでは、Signature Platinumの高出力(0.5mV)がS/N面で有利に作用し、再生音が一段とハイファィに聴こえた。具体的には、柔らかな弾力感のある声がグッと前に迫り出し、語尾の微細なニュアンスやイントネーションがさらにダイナミックに浮かび上がったのだ。ドラムのブライアン・ブレイドの繊細なドラミングも実にきめ細やかに再現された。

各々のカートリッジの魅力を活かしつつ、楽曲の情報をしっかりと描き出した

圧巻は、ストコフスキが指揮したスメタナの「モルダウ」。重厚かつ豊かなスケール感で、オーケストラを構成するそれぞれの楽器を適度に分解しながら、メロディーの起伏、うねりをダイナミックに聴かせる。分解能が高いのに、それがまったく嫌味に聴こえない。トゥッティでも微動だにしないのは、WE-4700の高い精度と安定感によるもの。打楽器群の存在感の逞しさにも、このトーンアームのポテンシャルの大きさを感じた次第だ。

(小原 由夫)

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