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さまざまなカートリッジ/音源から多面的にチェック

現代に蘇ったトーンアーム名機。サエク「WE-4700」を人気カートリッジ 3種と組み合せて聴く

2019/06/24 小原 由夫
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約30年ぶりに復刻されたサエクのトーンアーム「WE-4700」が話題沸騰中だ。ダブルナイフエッジ方式のスタティックバランス型トーンアームである本機の原型は、1980年に登場した9インチ長の「WE-407/23」。以前にオリジナルモデルを使っていた私の目から見ても、本機は忠実な復刻といえるが(仕上げやデザインが異なる部分はある)、接着剤等の経時変化が推測されるものは使用は極力避け、寸法精度を追い込んだ精密な嵌合やビス止め等の実施により、オリジナルを超えるクオリティ/グレードを目指した点が見逃せない。

「WE-4700」

このWE-4700の素性については、Phile Web上で既に何度も紹介されているので、ここでは個人的に注目している点や、グローバルな視点から見たアナログオーディオ市場における本機の意義のようなものを考察してみたいと思う。

WE-4700の開発の中心的役割を果たしたのは、サエクコマース(株)の北澤慶太社長。創業者である父親から会社を引継いだ頃から、トーンアームの復活をずっと夢見てきたという。設計図面は既に消失していたため、実機を分解しての採寸から復活プロジェクトはスタートした。

しかし、それを3次元的に捉えながら図面化していくのは、北澤社長だけでは到底困難。そんな時、かつてサエクのトーンアームの部品製造を請け負っていた東京都国立市の精密機械部品加工メーカー内野精工(株)が、その役割だけでなく、実際の製造を引き受けてくれた。

現在の内外のオーディオ市場を俯瞰すると、本機のようなコンベンショナルなトーンアームは、そのほとんどが日本メーカー製であるのがわかる。しかも折からの金属材料の価格高騰、卓越した加工技術を持つ職人の高齢化や減少などの影響から、70年〜80年代のアナログ全盛期と比較して価格が非常に高くなってしまっている。

しかし、私はこれは仕方がないことと思っている。材料の価格高騰は世界的な動向で、オーディオだけが特別影響を受けているわけではないし、今のご時勢、専門的な知識やスキルを持っている人の労働対価が上がってしまうのは不思議でないと思うのだ。

WE-4700の場合、オリジナルを遥かに超える高精度な加工技術と仕上げによって完成されている。30年前には使えなかった、より理想的な材料が入手できたり、難しかった加工が最先端技術によって容易くなった面もある。

また、オリジナル機では切削機の性能から分割せざるをえなかったパーツも、最新のCNCマシンによって3次元的に加工し、一体化できるようになった。つまり、長期に渡って安定した性能を発揮できる構造となり、オリジナル機とは比べものにならない圧倒的なクオリティとグレードで完成されているのだ。

素材開発や加工技術の進歩により、オリジナルを超える特長も備えたのは大きな魅力だ

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