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<山本敦のAV進化論 第168回>

2018年版「ウォークマンAシリーズ」新旧対決! 飛躍を遂げた音質、機能も含めた完成度に太鼓判

公開日 2018/11/05 06:30 山本 敦
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ダンスミュージックとして、マイケル・ジャクソンの『Off The Wall』を聴いてみると、低音が起伏に富んでいて、表情に豊さが増していた。タイトで立体的なリズムが体の芯を貫いてくる。躍動感にぐいぐいと気持ちを引っ張られる、気持ちいい感覚がある。ビートが一息に立ち上がるスピード感に大満足。ボーカルの定位が鮮やかで、余韻が甘い糸を引く。階調感の滑らかさも秀逸で文句なし。いきなり試聴1曲目からハードパンチをもらってしまった。

NW-A50シリーズの実力を試した

上原ひろみがリードするピアノトリオは、やはりピアノの重心が低く抜群の安定感だ。音を聴き比べてしまうと、あれほど満足していたウォークマンA40シリーズも平板に聴こえてしまうから困ったものだ。ピアノの音は中高域がとてもクリアで、輪郭線がクッキリと浮かび上がってくるように感じられる。解像度のレベルアップは明らかに果たされている。ムチのようにしなるエレキベースの長音も、余韻の端までしっかりとよく響く。ドラムスはハイハットやライドなど高音楽器の余韻が耳元をさわやかに駆け抜けていく。清涼感がたまらない。

背面から見たデザインはとてもよく似ている。右がNW-A50、左がNW-A40

手嶌葵のボーカルは思わず息を止めて聴き入ってしまうこともしばしば。旧モデルから声の実体感がとにかく向上している。生暖かい吐息に指先で触れられても不思議じゃない、とすら思える。エントリークラスのハイレゾプレーヤーでこれ以上ないと言えるほどのリアリティに脱帽した。東京スカパラダイスオーケストラの楽曲も音の粒がひとつずつキリッと立っていた。スケールの大きな空間を活き活きとしたメロディが満たしていく。

ソニー独自の機械学習の知見を活かした新「DSEE HX」

重ねた上側のNW-A50シリーズは側面の楽曲再生・一時停止、曲送りボタンを独立配置とした

続いて紹介するのは、「AI対応でパワーアップしたDSEE HX」だ。ハイレゾ未満の音源も含めて、最高192kHz/24bitのハイレゾ相当の音質にアップスケーリングしてくれる機能である。今回は従来のアルゴリズムに、ソニーが独自に培った機械学習の知見を追加しているところが新しい。

AI対応に進化を遂げたDSEE HX

従来までのDSEE HXは設定画面から機能をオンに切り替えると、固定パターンで高域補完処理をかけていた。WM1シリーズやZX300シリーズについては、曲調に合わせていくつかのDSEE HXの補完パターンのプリセットを選ぶこともできる。NW-A50シリーズからは具体的に何がどう変わっているのだろうか。

若林氏は「ソニー独自の機械学習のテクノロジーを土台にし、またソニーミュージックが蓄積してきた膨大な楽曲データベースを利用して、ユーザーがリスニング中の楽曲とデータベースの曲に自動マッチング処理を行い、音楽のジャンルや曲調、声や楽器の音色に応じて最適なアップスケーリング処理をかけています」と説明している。同じ新AI対応のDSEE HXは超弩級のデジタルオーディオプレーヤー「DMP-Z1」にも搭載されている。

NW-A50シリーズでその効果を試してみた。元がハイレゾ品質の音源よりも、CDからリッピングしたソースや音楽配信のソースで活用した方が効果は強く感じられることをお伝えしておきたい。ジャズの女性ボーカルは中高域の透明度が高まって、奥行きの見通しが良くなる。バンドの楽器との距離感に余裕が生まれて、音像の定位が立体感を増した。余韻のイメージがふくよかに見える。

「オフ」の状態ではざらついて聴こえていた声のテクスチャーも、「オン」にすると滑らかさを増してクリーミーになる。ロックはエレキギターやドラムスのアタックに勢いが乗る。ベースラインが鋭く立ち上がり、グルーヴが徐々にヒートアップしていく。クラシックピアノは余韻の滑らかさや、消え入り際の透明感が尾を引く。硬質だった音に温かい人肌の温もりも加わるようだ。弦楽器の高音も華やかに開きはじめる。

この補完処理は、いつ、どのように行っているのだろうか。若林氏に訊ねてみたところ「音楽再生を選択してすぐに、メモリからCPUに取り込んだ段階で曲調のモード解析を行っている」のだという。例えば女性ボーカルの後にパーカッションの伴奏が入る楽曲などの場合、楽曲のデータを動的に先読みしながら「ボーカル」と「パーカッション」それぞれに最適なパラメータをあてがってアップスケーリングを行っているそうだ。

筆者は今回の「新たなDSEE HX」の誕生が、今後のウォークマンの方向性を決める重要な出来事であるように思う。

本機の時点では “膨大な楽曲データ” を元に作り込まれた固定の楽曲データベースをアップスケーリング処理のリファレンスとしているが、今後はウォークマンをクラウドサーバー上のAIにつないで、アップデートされた最新の楽曲データベースと照合しながらリアルタイムに精度の高いアップスケーリング処理をユーザーに届けることもできるかもしれない。

元はといえばDSEE HXは圧縮音源やCD品質の音源をハイレゾ相当のクオリティで楽しめるようにするための機能だが、「あらゆる音楽をよりいい音で聴くための機能」として、より親しみやすさをアピールできれば、 “いい音” のスマホやスマートスピーカーにも応用できそうだ。

レコード再生のうまみを閉じ込めたバイナルプロセッサー

もう一つ、NW-A50シリーズから初めて搭載された新機能がある。「バイナルプロセッサー」だ。

こちらはアナログレコード特有の音響効果をデジタルで再現するというユニークな技術である。単純にアナログレコードを再生する際に、表面に残留する細かな粒子をスタイラスがトレースして発生する “ぷちぷち” っと鳴るノイズを真似するだけの “レトロ調なギミック” を想像するかもしれないが、実際はさにあらずだ。

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