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新たな国産ブランドのデビュー作

新開発の発電方式『コアレス・ストレートフラックス型』を採用したカートリッジ −「青龍」を聴く

2018/07/15 井上千岳
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TOP WINGのカートリッジ「青龍」は、新開発の発電方式コアレス・ストレートフラックス型を採用する、国産ブランドのデビュー作だ。発電回路の磁石をカンチレバーに装着する意味ではMM方式に近く、電気的特性はMC方式という革新的な構造や特性を持つ。世界トップクラスの日本の最先端技術と製造クオリティで、技術者達が長年思い描いてきたアナログ再生のロマンを具現化した。本機の詳細をレポートしていこう。

コアレス・ストレートフラックス型カートリッジ 「青龍」¥750,000(税抜)


輪郭のくっきりした描き方生成りの質感を意識させる

MCともMMとも違うという方式だが、動作原理としてはMM型である。ただ磁気回路というものがなく、空芯コイルの直近でマグネットが振動するという非常に原理的な構造である。その点をよく把握して、誤解のないようにしてもらいたい。

レスポンスとしてはやや下寄りに重心を置いているようだが、レンジは広く取れて無理がない。バロックでは低音弦をずっしりとした手応えで引き出しているが、厚手な出方というわけではなく、独奏のヴァイオリンやオーボエなどむしろ輪郭のくっきりした描き方だ。アンサンブルも手触りがざっくりとして、生成りの質感を意識させる。ピアノは歯切れのいいタッチがどっしりと響き、線の太い肉質感が充満している。弱音部のニュアンスも明るく引き出されて、音色の変化がきめ細かく捉えられた鳴り方である。

筐体は超々ジュラルミンが用いられている

比較的ゆったりとした出力ピン配置が採用されている

オーケストラは勢いがよく、時にソリッドな引き締まり方も見せながら力感に富んだ再現を展開する。夾雑物のない純度の高い出方と言っていいが、ポテンシャルの全てを引き出すのはなかなか難しいところがある。出力は0・2mVで一般的なMC並みだが、内部インピーダンスは12・3Ωとやや高めである。必ずしも効率が高いとは言えない数値だが、大型マグネットも磁気回路もないことを考えればむしろよく出ていると言うべきかもしれない。

したがって扱いはMCと同様で、昇圧が必要である。イコライザーにダイレクトに入れるかトランスにするかというのは悩ましいところだが、せっかくコアレスという点に比重をかけているわけだからトランスを挟んでは意味がなくなりそうではある。

インピーダンスの設定は30Ωにしたが、もう少し高くてもおかしくはない。逆に低すぎると、制動がかかりすぎるようだ。
 
仕様は専用ヘッドシェルで取りつけてあるが、それも込みで音の調整を行っている形跡も見られる。かなりの重量になるので、トーンアームに対する考慮も必要である。なおここでは専用シェルは使わず、標準モデルとバリエーションで試聴した。

青龍はカートリッジとのセットで販売されている。今回の試聴では、レファレンスとするヘッドシェルを使用した


ヘッドシェル/リードワイヤーのマッチング

MY SONIC SH-1Rh/FURUTECH LA SOURCE101

MY SONIC SH-1Rh

FURUTECH LA SOURCE101

ややおとなしくなるが、また整理の効いた鳴り方でもある。カートリッジだけでの本来の音調はこういうものかという印象だ。意外に軽快な感触も持っている。ピアノはタッチがクリアで余韻も澄んでいるが、若干スケールは絞られる。オーケストラも抜けがいい。瞬発力の強さを競う出方ではないが、落ち着いた印象である。


ZONOTONE Z・SHELL 10/ZONOTONE 6NLW-GRANSTER

ZONOTONE Z・SHELL 10 ¥23,000(税抜

ZONOTONE 6NLW-GRANSTER

多少スケールは縮小されるが、きめ細かく整った鳴り方をする。同じように整理の効いた音調ではあっても、こちらの方は穏やかさも強まるようだ。オーケストラはやや線がおとなしいが、暴れがなく丁寧だピアノはタッチの鋭さを控えて穏当なイメージが出てくる。中庸な感触だが、鋭さや掘りの深さはやや控えめになる。


ORTOFON LH-9000/ZONOTONE 8NLW-8000Prestage

整然として響きの広い出方をする。バリエーション3つの中では、最も骨格が強い。ピアノのステージが奥へ引き、余韻もそこから周囲に流れ出しているのが見えるようだ。オーケストラは逆に近くで聴く迫力がある。アンサンブルの解像度が効いて、混濁のない鳴り方だ。これくらいの重厚さが要求されるのかもしれない。

ORTOFON LH-9000

ZONOTONE 8NLW-8000Prestage

(井上千岳)



【開発者から】

(有)トップウイング
代表取締役 佐々木原幸一氏

(有)トップウイング代表取締役 佐々木原幸一氏

「アナログディスクを現在の最先端技術で再生してみたい。これが「青龍」開発のスタート地点です。青龍の開発には、世界トップクラスの技術を持った日本の企業が参加しています。例えば、カンチレバーの周りギリギリまでV字にコイルを巻く方式は、「1円玉の上に複葉機の模型を作るくらいの精度」が必要でした。青龍の完成のためには、ハイレベルな技術を随所に導入しています。青龍を通じて、日本の技術レベルの高さを皆様に感じていただきたいと思います」(佐々木氏)

佐々木原氏が手がけたカートリッジの第二弾モデル「朱雀」



<青龍 Specification>●コアレス・ストレートフラックス型 ※接続はMC入力端子で使用●針先:ラインコンタクト針●出力電圧:0.2mV 5cm/sec.●内部インピーダンス:12.3Ω/1kHz●適正針圧:1.75g〜2.00g●ヘッドシェル:超々ジュラルミン製FIDELIXMITCHAKUコンタクト採用●質量:12.3g(付属シェル装着時30g)●針交換価格:75,000(税別)●取り扱い:ENZP j-Fi LLC.,(有)トップウイング



本記事は「analog Vol.60』からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。

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