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開発者へのインタビューも収録

Bricasti Design「M1 SE」を聴く ー 現代のリファレンスたる音質を備えたDAC

2016/12/30 岩井 喬
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ちなみに、現在選択肢は少なくなったラダー型DACチップもまた魅力的なのですが、ノイズの点で問題が残ります。最終的に良い結果を出すためには、いかにバランスをとるかが重要です。いたずらにダイナミックレンジを稼いだり低ノイズを追求すると、歪みとしてしわ寄せがくるのです。

それから、32bitの入力信号に対応しているか否かを気にする意見も見受けますが、私は32bitという数値にこだわる必要性はないと考えています。サンプリング周波数が高くなると高域帯ノイズの問題がより大きくなってきます、それを処理するアナログ部品の持つノイズレベルの方が高く、変換結果に対して数値上のメリットは得られません。仮に、32bitでの信号処理プロセスには有効ではあっても、現在のところ32bit音源の効果や意味を正当に評価できる状況にないとも言えます」(ブライアン氏)。

ブライアン・ゾルナー氏と、インタビューを行う岩井喬氏


スティルポイント社の協力を得て開発した新たな脚部を採用

スティルポイント社の協力を得て開発した新たな脚部も、従来の「M1」から今回の「M1 SE」への進化点のひとつだ。スティルポイント社の社長もM1のユーザーだそうで、M1が元々装着していたインシュレーターだと本体が滑ってしまうという体験を踏まえ、より良いものにしたいという思いからのコラボレーションが実現したという。

これにより徹底した振動のアイソレーションを達成し、高いS/Nを獲得したとのこと。さらに内部配線もコネクター接続を減らし最短かつ最適なルートでの配線を実施。加えて製造プロセスの最適化も合わせ、音質の改善を図っている。

「M1はCDプレーヤー用の新たなDACとして使っていただいているケースが多いようです。現在のデジタル音源の99%はCDをベースとした44.1kHzのものですし、ユーザーにもCDの音が非常に良くなったと喜んでもらっていますよ。ハイレゾ音源の魅力はその3次元的な空間表現、エアー感にあると思っています。今後の製品展開として11.2MHz・DSD対応についても検討していますが、他社にはないアプローチで取り組みたいと思っています」とブライアン氏。

インタビューの中では、プロオーディオ機器を扱うブランドだからこそ立ち入ることのできる制作現場でのエピソードがいくつも飛び出したが、かつての名盤をリマスターし、ハイレゾ化する際の問題点(マスターテープ自体の劣化はエフェクト処理では補えないことに由来し、より高いレゾリューションでの配信であっても、“本当に良い音”となっていない現実にも目を向ける必要がある)にも触れ、現在の市場に対する危惧や警鐘といえる話には納得しきりであった。

「M1 SE」を試聴 ー 流麗な質感描写力も備えた、高密度で有機的な音色が特長

最後にM1 SEのサウンドについても紹介しておきたい。試聴環境は試聴室リファレンスのスピーカー「TAD-E1」、プリアンプにアキュフェーズ「C-3850」、パワーアンプが同「M6200」×2、入力はMacBook Pro+再生ソフト『Audirvana Plus』である。

プロ機由来の解像度の高さ、リアルで付帯感のない優れた空間再現性が際立つサウンドだ。しかしモニター的な音の硬さは皆無で、非常にしなやかで流麗なタッチの質感描写力も備えた、高密度で有機的な音色が特長となっている。

レヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『惑星』〜木星(CDリッピング:44.1kHz/16bit)では管弦楽器の締まりが良く、クリアかつアタック&リリースが正確なハーモニーがストレートに響く。余韻の階調も細やかで、生々しい臨場感の溢れた音場が展開する。

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