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開発者へのインタビューも収録

Bricasti Design「M1 SE」を聴く ー 現代のリファレンスたる音質を備えたDAC

2016/12/30 岩井 喬
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ジッター低減とデジタルフィルターに関する独自の取り組み

M1 SEに搭載された数々のテクノロジーのなかでもキー・テクノロジーとなっているのが、“ジッター低減”と“フィルター”であるとブライアン氏は語る。

「デジタルのジッター低減において、ベンチマーク社が早い段階で行っていたのがサンプリングレート・コンバーター(以下、SRC)を使う手法です。アナログデバイセズ社でSRCチップが開発されたことで用途が広がったという背景もありますが、この手法ではトランスを用いたノイズアイソレーションに似た効果が得られます。

非同期のSRCはジッターを低減するためには効率的な手段ですが、元の信号の形が変わるなどのデメリットがあることも忘れてはいけません。PLLについてもまた別の問題が起こるのですが、我々はできるだけ変換する数を少なくし、元の信号を正しく表現しつつジッターを減らすことを念頭に設計を行っています。

M1 Special Editionの筐体内部

そこで採用したのが同期型オーバーサンプリングとDDSでした。いわゆるリクロック動作を担っており、M1 SEはデジタル入力の信号に含まれるサンプリング周波数のクロックを使いません。どのサンプリングレートで入力されたかは判別できるので、マシン内部でリクロックを行い、上流からのクロックジッターを受けない仕組みとなっているのです。

DDSはかつて無線などで用いられていましたが、ノイズの大きさが問題になっていました。しかし現在ではそうした問題も解消され現実的なソリューションとなってきたことも採用の後押しになっていますね」(ブライアン氏)。

また同氏は、本機に採用された独自のデジタルフィルターへのこだわりについても、次のように語っている。

「M1 SEはリニアフェイズ・オーバーサンプリング・フィルターが9種類、ミニマムフェイズ・オーバーサンプリング・フィルターは6種類用意されていますが、2011年に発売されたM1からユーザーの声を伺いながらここまで増えてきました。初期の段階で購入されたユーザーであっても有償とはなりますが、順次アップデートを行っているのもM1の特長といえるかもしれません。

USB入力やDSDといった対応レゾリューション拡張も、これまで行われた複数のアップデートの中で実現したものです。D/A変換時に波形を再構築する際、フィルターの果たす役割は非常に大きく、ここを精密に作り込むことで最終的なサウンドにも良い影響を与えることができるのです。多くのDACはDACチップに内蔵されたデジタルフィルターを使っていますが、M1 SEでは2コアDSPによるタップ数の多いPCM用リコンストラクション・アンチエイリアス・フィルターとDSD用ポストフィルターによるリコンストラクション処理を実現しています」(ブライアン氏)

DACチップにあえて「AD1955」を採用している理由

昨今、ESS製やAKM製32bit対応DACチップがもてはやされている中、発売から時間が経過しているAD1955を使っている点も気になるところだが、ブライアン氏は以下のように答えてくれた。

「AD1955は最新世代のチップではありませんが、あえて選んだ理由は、優れたアナログ変換処理性能、とディストーションが非常に抑えられている点です。特に歪み特性の点では、最新チップに全く見劣りしていません。さらにAD1955のS/N比(差動出力・モノラル)は123dBという高性能なものです。

簡単に高いレベルのD/A変換を実現するDACチップはありますが、カスタマイズによる伸びしろがあるのはこのAD1955です。今回はDACチップのアナログ変換処理の部分だけを使っていますが、基本的なノイズや歪み特性に対して良いものを選ぶことは肝要ですね。

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